バリュー投資とタイミング
皆さんはバリュー投資という言葉を耳にしたことがあると思います。バリュー投資とは、ある株がその内在価値より割安に取引されている瞬間をめがけてその株に投資する手法を指します。
内在価値は英語ではイントリンシック・バリュー(intrinsic value)と言われますが、ざっくばらんな説明の仕方をすれば、その企業が営業キャッシュフローを生み出す潜在力のことを指します。
営業キャッシュフローとは、ある企業が商品やサービスを売ることで得た売上高から、原材料費などの支出を引くことで得られる現金収支を指します。
成功するバリュー投資を構成する、2つの要素
さて、バリュー投資を上手に実行しようと思えば、次の2つの要件を満たすことが必要です。
1) 営業キャッシュフローを生み出す潜在力が高い会社を選ぶこと
2) その会社の株が、たまたま凄く割安で取引されている場面を狙いすまして買う事
年初から世界の株式市場はずるずると下落しています。バリュー投資では経済の動向や株式市場がテクニカル的に見てまずいことになっている…などの全体的な要因には頓着しません。
いや、敢えて言えば、そういう外部環境が悪くて株式市場がボコボコに売られている時こそが上の2)の条件を満たす、「バリュー株の買い時」なのです。言い換えれば、今、世界の株式市場が安い時に出動すれば、成功の2つの条件のうち、すくなくともひとつはクリアできるということです。
営業キャッシュフローの良い会社
それでは次に営業キャッシュフローの良い会社を定義します。営業キャッシュフローを売上高で割算すると営業キャッシュフロー・マージンが得られます。
いま営業キャッシュフロー・マージンで15〜35%程度ある会社は「営業キャッシュフローを生み出す潜在力が強い会社」と言えると思います。
実際の例を研究してみましょう。
下はアップル(ティッカーシンボル:AAPL)の一株当たりの業績です。アップルの年度末は9月末ですので、下のグラフ中、「2015年」とあるのは2015年9月末で締めた1年間の業績を指します。
アップルの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
なおDPSは一株当たり配当、EPSは一株当たり利益、CFPSは一株当たり営業キャッシュフロー、SPSは一株当たり売上高を意味します。
いま営業キャッシュフロー・マージンを計算するわけですからCFPS÷SPSということになります。
14.03 ÷ 40.34 = 0.348
つまりアップルの営業キャッシュフロー・マージンは34.8%になります。これは合格です。
次はコカコーラ(ティッカーシンボル:KO)の2014年の例を考えてみましょう。
コカコーラの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
2.39 ÷ 10.34 = 0.231
つまりコカコーラの営業キャッシュフロー・マージンは23.1%になります。これも合格です。
次は石油サービスの大手、シュルンベルジェ(ティッカーシンボル:SLB)を見ます。
シュルンベルジェの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
8.56 ÷ 37.14 = 0.23
営業キャッシュフロー・マージンは23%です。これも合格です。
次はインテル(ティッカーシンボル:INTC)です。
インテルの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
4.04 ÷ 11.05 = 0.366
営業キャッシュフロー・マージンは36.6%です。これも合格です。
次はマクドナルド(ティッカーシンボル:MCD)です。
マクドナルドの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
6.99 ÷ 28.5 = 24.5
営業キャッシュフロー・マージンは24.5%です。これも合格です。
どうですか? これで計算のしかたはわかったと思います。なお米国の上場企業の営業キャッシュフロー・マージンの平均は11%です。従って、ここで論じている「15〜35%出している会社」というのは、かなり高いハードルだと思ってください。
買い値にシビアになるとは?
よく「バリュー投資家は、買い値にシビアでなければならない」と言われます。つまりその株が高値で取引されているときには買い出動しないわけです。
いまは世界のマーケットが荒れているので、皆さんは乗り物酔いのように気分が悪くなっていることと思います。買い値にシビアになるとは、こういう買いにくい時に買うことに他なりません。
社歴の浅い会社は除外せよ
なおバリュー投資では、過去に大体高い評価を維持出来た会社が、いま何かの拍子で株価が売られているので、黙って持っていればいずれ自然に株価が元の高さに戻る…という切り口で投資します。その関係で「過去に大体高い評価を維持してきた……」という実績部分が無ければ、そもそも比較ができないわけです。
そのためには20年〜30年くらいのトラックレコードが最低でも欲しいです。このことは近年に新規株式公開(IPO)されたような、社歴の浅い会社はバリュー投資に向かないことを意味します。
ワイド・モート
最後にバリュー投資ではワイド・モートということを重視します。モートとは中世の城のお堀のことを指します。それがワイド(幅広い)ということは、なかなか攻略できない、難攻不落の砦だということです。
もっと言えば「卓越した防御力を持った企業」に投資しろ! ということです。
それでは具体的にワイド・モートを構成する要因は? と言えば:
1) 事業規模が超巨大
2) 市場占有率が圧倒的である
3) 構造的競争優位(=つまりロー・コスト)
4) 太刀打ちできない無形資産(=つまりブランド力)
5) ネットワーク効果
6) ユーザーや顧客にとって乗り換えコストが大きすぎる
などになります。
これだけの事に気を配りながら、皆さんもバリュー投資を実践してみてください。