ETFほど「美しい」商品設計はない
今回は「良いETFとは?」という点について説明します。それを説明するにあたって、これまでに本講座で学んだ点を、さっと復習しましょう。
まずETFは費用比率が低いことを指摘しました。
つぎにそのようなローコストを実現するために、ETFはポートフォリオの維持作業を「外部化」していることを説明しました。
具体的には、証券会社の自己売買部門やヘッジファンドなどの指定参加者(AP)に、ETFと、それを構成する個々の銘柄との間でのサヤ取りを自由に行わせることで、乖離(かいり)の解消を実現しているのです。
つまりETFの会社はファンドマネージャーを置いていないし、自分ではサヤ取り業者から持ち込まれた銘柄のバスケットをもとに新しいETFを設定(クリエイション)する以外、何もやっていないのです。
これはポートフォリオの維持を、APたちの個々の利益の追求という市場原理に完全にまかせてしまったという点で、まことに美しい商品設計と言えます。
別の言い方をすれば、ETFよりも更に費用比率の低いファンドを設計するのは、限りなく不可能に近いのです。
ETFの弱点
そんな風にエレガントな設計がなされているETFなのですが、弱点は無いのか? と言えば、それはあります。
その最大の弱点は「何事につけても、受け身だ」ということです。
理想のETFは運用会社が何もしなくても、自然に人気が出て、トレードが盛り上がるETFです。
そうならない場合、つまり閑散としている場合は、数々の問題が発生します。
いま、あるETFがデビューしたとします。しかし誰からも注目されず、その結果、取引所における出来高も少なかったとしたら、サヤ取り業者は、そんなETFをトレードの対象にしないと思うのです。
なぜならサヤ取りと言う作業は、(今がチャンスだ!)と思ったら、ソッコーで個別株をかき集め、それと同時に今、場でついている、サヤが抜ける価格でETFを空売りしなければいけないからです。
そのとき、サヤ取り業者がイメージしたのと同じ値段で、サクサクETFを空売り出来なければ、サヤ取りのトレードは失敗するかもしれません。
もしETFの空売り注文が約定する前に、ETFの価格がヘナヘナと下がってしまえば、利益が出るどころか、サヤ取り業者は損害を被るでしょう。
だからサヤ取り業者はトレードをするにあたり、十分な出来高が出来ている、流動性の高いETFを好んでトレードします。
逆に取引が不活発なETFはサヤ取り業者が敬遠します。
これはいつまで経っても乖離が解消されないことを意味します。そんなETFは、ビッドとアスクの気配も大きく開いたままでしょう。
ETFは従来の投資信託の販売のように、証券マンが売って歩くことはありません。
そのことは運用会社が何とか証券会社にお願いしてテコ入れすることで、好ましからざる状況を是正することが出来ないということを意味します。
何がETFの成功と失敗を分けるか?
さて、運用会社の視点から見て、何が「成功するETF」と「失敗するETF」を決めるのか? ということについて少し解説しておきます。
まず投資家に「発見してもらう」ことが重要になります。
たとえば米国を代表する株価指数であるS&P500指数に基づいたETFを、一番乗りで出せば、それは皆から注目されます。クダクダ説明しなくとも、それをトレードしたいという投資家は多いでしょう。
だからニーズのありそうなETFを、誰よりも早く世に問うという姿勢が、とても重要になってくるのです。
すでにある株価指数をベースとしたETFが世の中に出回っている場合、後発の類似品を出す運用会社は、よほどユニークな差別化ポイントを持っていない限り成功しにくいです。
後発が、ちゃんと成功を収めた例をひとつ出します。
バンガードS&P500 ETF(ティッカーシンボル:VOO)は2010年に出された比較的新しいETFです。
S&P500指数に依拠したETFとしてはステート・ストリートが1993年に出したSPDR S&P500 ETF(ティッカーシンボル:SPY)が草分けです。つまりバンガードは、まるまる17年も遅れて、類似品を発表したのです。
ちょっと話が脱線して恐縮ですが、バンガードと言えば株価指数を用いたパッシブ運用の先駆的企業であり、ETFを考案したアメリカン取引所勤務のネイサン・モストとスティーブン・ブルームは、まずバンガードにこの新しい商品のアイデアを持ち込みました。
しかしバンガードの創業者、ジョン・ボグルはETFが上に書いたように活発にトレードされることを前提にした商品設計になっている点が気に入らず(ボグルはBUY & HOLDの熱心な信奉者です)、この商品提案を蹴ったのです。それでモストとブルームは、仕方なくステート・ストリートにこの話を持ち込んだというわけです。
さて、バンガードが2010年にバンガードS&P500 ETFを発表した時点で、SPDR S&P500 ETFは既に680億ドルの時価総額を誇っていました。さらに第2位のアイシェアーズ・コアS&P500 ETF(ティッカーシンボル:IVV)も、その時点で220億ドルの時価総額に育っていたのです。当時、これらの先行する2つのETFはどちらも費用比率が0.09%に設定されていました。
そこで後発のバンガードは費用比率を0.06%に設定することで差別化したのです。
こんにちバンガードS&P500 ETFの時価総額は410億ドルであり、先行する2社のそれには追いついていないものの、ETFとしては大成功を収めました。つまり低費用比率による差別化戦略は有効だったということです。
今日の話のまとめ
ETFが優れもの商品である理由は、ポートフォリオの維持作業を外部化したことにあります。しかしそれは乖離の解消を「あなた任せ」にすることに他ならないので、不活発な取引しかされないETFは、慢性的に乖離の問題に悩まされることを意味します。
したがって結論的には、皆さんが類似する2つのETFの間でどちらを選ぶか迷った場合、かならず出来高の多い方のETFにしてください。
ETFには日本と米国で同じようなETFが上場されている場合があります。たとえばS&P500指数に投資するETFは東証にも上場されています。出来高で言えば、ニューヨークで取引されているETFの方が多いわけですから、この場合は「ニューヨークで買う」というのが正しいやり方になります。