長期保有に適したETFとは?
ETFには大別して長期保有に適したETFと短期トレードに適したETFがあります。
それらは一体、どこで区別するか? というと、長期保有に適したETFとは、費用比率が低いETFであると言えると思います。具体的にはバンガードの出しているETFは、どれも費用比率が極めて低く設計されています。
費用比率は、そのETFを何年にも渡って保有する場合、その保有期間を通じて、ほんの少しですけれど、じわじわとパフォーマンスの足を引っ張る要因となります。だから長期投資の投資家は、費用比率にこそ最も注意を払うべきです。
短期トレードに適したETFとは?
次に短期トレードに適したETFとは、出来高が多く、サクサクとトレードできるETFということになると思います。とりわけトレーディングに際しては、Bid/Askの乖離(かいり)が極限まで小さいことが望ましいです。
ETFを購入、売却する際のBid/Askの差が開いているという状況は、何度もそのETFを売ったり買ったりするトレーダーの場合、パフォーマンスの足を引っ張る要因となります。だから短期トレーダーの場合、出来高ならびにBid/Askの乖離にこそ注意を払うべきです。
下は主なETFと、そのETFが依拠している現物バスケットのBid/Askの乖離を示しています。
主なETFとその現物バスケットのBid/Askの乖離
(エリック・バルチューナス「The Institutional ETF Toolbox」のデータを元にコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
これを見ると、たとえばSPY(SPDR S&P500 ETF Trust)のBid/Askの乖離は、ほぼゼロであり、極めてサクサクとトレードできることを示唆しています。もっと言えば現物を買い集めるより、ETFひとつで済ませてしまった方が、コスト的には遥かに楽だということです。トレーディングの対象として、これらのポピュラーなETFが優れている理由は、ここにあります。
下は米国で最も活発にトレードされている10銘柄のETFです。
コード |
銘柄 |
平均出来高(百万株) |
---|---|---|
SPY |
SPDR S&P500ETF Trust |
22,909 |
IWM |
iShares Russell2000 ETF |
3,700 |
QQQ |
Powershares QQQTrust Series |
2,709 |
EEM |
iShares MSCIEmerging Market |
1,792 |
EFA |
iShares MSCIEAFE ETF |
1,210 |
TLT |
iShares 20+Years Treasury BO |
1,184 |
FXI |
iShares ChinaLarge-cap ETF |
925 |
DIA |
SPDR DJIA Trust |
839 |
XLE |
Energy SelectSector SPDR |
826 |
XLF |
FinancialSelect Sector SPDR |
805 |
- (出典:エリック・バルチューナス「The Institutional ETF Toolbox」のデータからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
このリストは、2月22日の記事「ETFとは? きわめてカンタンな投資対象」の中で示した世界で最も純資産の大きい、トップ10のETFのリストとは、かなり顔ぶれが異なります。両方のリストに顔を出しているのは、黄色でハイライトした3銘柄だけです。
言い直せば、出来高ランキング上位のETFと、純資産ランキング上位のETFのメンツは、必ずしも一致していないということなのです。
バンガードのコーポレート・カルチャーについて
ところで、なぜバンガードのETFは他のETFに比べてコストが安いのでしょうか?
バンガード・グループはインデックス運用こそが最も優れた運用であるという信念のもとに作られた運用会社です。
パッシブ運用にすることで、ポートフォリオ運用コストを最小限に抑え、それとともに顧客には長期保有を奨励しました。
バンガードはETFの提案を蹴った
米国で最初にETFの開発に取り組んだのはアメリカン証券取引所のネイサン・モストとスティーブン・ブルームでした。
ネイサン・モストはUCLAで物理学を専攻した後、パシフィック商品取引所の社長を経て、アメリカン証券取引所に来ました。
スティーブン・ブルームはハーバード大学で経済学の博士号を取得した後、アメリカン証券取引所に就職しました。
二人の目的は、落ち目になっているアメリカン取引所の出来高を増やし、ナスダックを見返すことにありました。
だから彼らが開発する新商品は「誰もが必要としていたけれど、これまでになかった」商品でなければいけません。株価指数に準拠した商品は、最も有望な候補でした。
当時、株価指数をなぞる商品を発表して最も成功していたのは、ジョン・ボグル率いるバンガード・グループでした。そこでネイサン・モストはジョン・ボグルのオフィスを訪ね、一緒に商品開発をしないか?と持ちかけます。
しかしジョン・ボグルはその場でこのアイデアを却下します。
その理由は、ジョン・ボグルはBUY & HOLD、すなわち一度買ったら、じっとそのポジションを持ち続ける投資ストラテジーの信奉者であり、アメリカン証券取引所が提案するような、トレーディング主体の商品は自分の信条に反するからです。
なおバンガードはずっと後になってETFの事業に参入します。
ETFの試作品に、重要な改良が加えられた
ネイサン・モストはジョン・ボグルと面談したとき、ボグルが本当にトレーディング嫌いなのを見て、強く印象付けられました。
ボグルの忠告を心に刻み(ファンド自身がポートフォリオの調整のために頻繁に売り買いをする必要が無いスキームが出来ないだろうか?)ということを模索しはじめます。
そこでモストはパシフィック商品取引所時代に倉荷証券(warehouse receipt)という、一種の預かり証をトレードしていたことを思い出します。
穀物、綿花などのコモディティは、トレーダー達がそれを売買した後で、実際に取引相手まで現物を届けると、トラック運転手に支払う運送料などが嵩みます。そこで商品取引では、倉荷証券とよばれる一種の預かり札だけを交換し合って、いちいちトレードの度に穀物を移送する手間を省いてしまったのです。
モストはこの倉荷証券にヒントを得て、イン・カインド(in-kind=現物持ち込み)設定という仕組みを考案します。
すなわち市場バスケットを構成する全銘柄が、耳を揃えて持ち込まれたことを確認して、倉荷証券に相当するETFを発行するということです。
ETF自体は、持ち込まれた現物と引き換えにETFを渡すだけですから、トレーディング・コストも発生しませんし、物々交換なのでキャピタルゲインも発生しません。
つまりイン・カインド設定という手法を編み出した事が、ETFの費用比率を劇的に下げることにつながったのです。これはETFという商品の性格を決定付ける、重要な改良でした。
ライバルのステート・ストリートにアイデアを持ち込む
ステート・ストリートはボストンの金融街です。このステート街で1792年に創業したのがステート・ストリートです。同社はバンク・オブ・ニューヨークに次ぎ、アメリカで二番目に古い金融機関です。同社はカストディー業務など、「銀行の銀行」としてホールセール業務を中心に発展してきましたが、その運用部門は早くからパッシブ運用に特化してきました。
バンガードからETFのアイデアを却下されたネイサン・モストは、上に述べたような改良を加えた後、このアイデアをライバルのステート・ストリートに持ち込んだのです。
ステート・ストリートはETFのアイデアに興味を持ち、このプロジェクトを押し進めることに同意します。
こうして出来上がったのがSPDR S&P500ETF TRUST(SPY)なのです。SPDRという略称が「クモ(spider)」に近かったので、「スパイダー」という愛称が生まれました。
こうして「トレーディングならステート・ストリートのSPDR、長期保有ならバンガード」という大まかな色分けが出来たというわけです。