ETFには「市場をまるごと買う」以外の利用方法もある
ETFというと、バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(ティッカーシンボル:VT)に代表されるように「それひとつ買っておけば、世界をまるごと買うことができる」という使い方のイメージが強いです。
実際、それはとても便利だし、ETFを利用した投資の王道だと思います。
ただETFには1,400以上の銘柄があるわけで、その中には特定の産業セクターに投資するETF、ゴールドや穀物などのコモディティに投資するETF、新興国に投資するETFなど、実にいろいろな種類のETFが存在します。その使い道も千差万別です。
そこで今回はその中から、高利回りのETFに焦点を絞って説明します。
高利回りを狙う株式ETF
いま先進国はどこも低金利です。そこで少しでも有利な利回りを目指して、高配当株に注目が集まっています。
iシェアーズ・コア米国高配当株ETF(ティッカーシンボル:HDV)はモーニングスター配当フォーカス指数に基づいたETFで、バランスシートが強固な75銘柄の優良株の中から、比較的配当利回りの高い銘柄ばかりが組み入れられています。3月末の時点での利回りは3.42%(30日SECイールド)でした。
下記はこのETFに組み入れられている銘柄の上位10銘柄です。
コード |
銘柄 |
組み入れ比率 |
---|---|---|
XOM |
エクソン・モービル |
9.77 |
CVX |
シェブロン |
6.74 |
JNJ |
ジョンソン&ジョンソン |
6.74 |
VZ |
ベライゾン |
6.74 |
PFE |
ファイザー |
6.21 |
WFC |
ウエルズファーゴ |
5.44 |
PG |
プロクター&ギャンブル |
5.25 |
PM |
フィリップ・モリス |
4.23 |
MRK |
メルク |
4.23 |
INTC |
インテル |
3.9 |
- (2016年4月21日現在。ブラックロックの資料からコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
またこのETFは下記のようなセクターに属する銘柄から構成されています。
iシェアーズ・コア米国高配当株ETFのセクター比率
(%、2016年4月21日、ブラックロックの資料からコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
このETFに含まれている銘柄は、いずれも「なぜ高配当を出し続けられるのか?」という裏付けがしっかりしており、私は好感を持っています。
バンガード米国高配当株式ETF(ティッカーシンボル:VYM)はFTSEハイディビデンド・イールド・インデックスに準拠しています。こちらは銘柄数が433と多いです。3月末の時点での利回りは3.21%(30日SECイールド)でした。
こちらのETFは、組み込み銘柄が多いだけに、少し散漫な印象を受けます。
上の2つは株式のETFですが、債券のETFで高利回りを目指すものもあります。
高利回りを狙う債券ETF
iシェアーズJPモルガン米ドル建てエマージング・マーケット債券ETF(ティッカーシンボル:EMB)はJPモルガン・エマージング・マーケッツ・ボンド・インデックス・グローバル・コア・インデックスに基づいた債券ETFです。4月21日の時点での利回りは4.91%(30日SECイールド)でした。
このETFには下記のような国々の債券が組み入れられています。
iシェアーズJPモルガン米ドル建てエマージング・マーケット債券ETFの組み入れ国
(%、2016年4月21日、ブラックロックの資料からコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
今年に入って新興国、とりわけ南米などの資源国の株が上がっています。その理由は、ドル安局面では米国の投資家は新興国への投資に積極的になることが経験則上、知られているからです。
資金が流入しているのは新興国株式だけではありません。新興国の債券に関しても、米国の投資家の関心は高まり始めています。実際、4月19日には、アルゼンチン政府が、実に15年ぶりに165億ドルの国債を海外投資家に売出しました。このディールには4倍の需要が集まりました。
つまり新興国の債券ETFは、今が旬なのです。
iシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債ETF(ティッカーシンボル:HYG)は米国の高利回り債に幅広く投資する債券ETFです。利回りは6.71%(30日SECイールド)です。
同ETFに組み入れられている社債の数は1,000を超えており、極めて分散されています。
信用格付けで言えば「BB」が全体の49.7%、「B」が全体の38.6%で、ポートフォリオの大部分がこれらの格付けの債券となっています。加重平均された残存期間は5.23年です。
下は同ETFの組み入れセクターですが、この中でエネルギーと素材は最近のコモディティ価格の下落でデフォルト・リスクが高まっていると思われます。
iシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債ETFのセクター構成
(%、2016年4月21日、ブラックロックの資料からコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
このETFは去年の夏以降、原油価格の下落でシェール企業の倒産リスクが増大したという認識から売られてきました。
iシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債ETFの一株当たり純資産
(ドル、ブラックロックの資料からコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
高利回り債は投資家の間で不安が高まった局面では取引が不活発になります。
いま(売りたくても、買い手不在で、思うように売れない)という状況を流動性リスクといいます。
上のチャートに見られるように、今年の2月に流動性リスクに対する投資家の不安が極点に達しました。その後、原油価格の底打ちとともに不安心理は一巡しています。
高利回りの投資先を探すときのコツ
なおこれは一般的な注意になりますが、利回りを手掛かりに投資対象を絞り込む際、あまり利回りが高すぎる投資対象は避けた方が良いでしょう。なぜならそれらは一般の投資家には見えにくい、隠れたリスクを内包している場合が殆どだからです。
株式で言えば8%を超える配当利回りの銘柄は減配や倒産リスクを孕んでいます。だから高利回りの謳い文句には気を付ける必要があります。
私の考えでは、現在の世界的な超低金利環境下では、株式、債券にかかわらず、3〜5%程度の利回りがスイート・スポットだと思います。
その考えからすればiシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債ETFの6.71%という利回りは、「少し話が上手すぎる」、つまりリスクを感じるということです。