荒れ模様の米国市場
米国株式市場が荒れ模様になっています。11月8日に迫った大統領選挙の本投票を前に、本命とみなされてきた民主党のヒラリー・クリントンの支持率が低下し、共和党のドナルド・トランプ候補が猛追していることがその原因です。
このように相場が荒れてきたとき、われわれ一般の投資家には何が出来るのでしょうか?
今日はそのことについて書きます。
キャッシュにすること
私は仕事柄、「なにか上手いヘッジの方法、ありますかね?」ということを、しょっちゅう訊かれます。
相場の地合いが悪くなったとき、我々投資家に出来る一番シンプルな自己防衛は、株を売り、キャッシュにすることです。
デリバティブ(派生証券)を利用するなどの方法で、ポートフォリオのダウンサイドをヘッジする方法は、もちろんあります。
しかし……
ほとんどの場合、「完璧に下値リスクを除去する」ということは困難です。
それどころか、ヘッジする目的で追加的に購入したポジションが、自分の想定通りの動きをしてくれず、結果として重層的にリスクを上乗せしてしまうことも多いです。
マーケットがギクシャクしているときこそ「シンプル・イズ・ベスト」で株を売り、現金化した方が、精神的にも良いです。
1980年代にゴールドマン・サックスの株式トレーディング部長を務めたボブ・ムニュチンという伝説のトレーダーが居ます。彼のモットーは「ベストのポジションは、ノー・ポジションだ」というものでした。
あらゆるヘッジ手法を利用できる立場にある彼のようなプロですら、「オール・キャッシュ」に勝る防御は無いと考えていたのです。
キャッシュの次に良いものは
とはいえ相場は我々の思惑とは逆に動くもの……だからオール・キャッシュにした途端に相場が高くなるということは、よくありがちです。
すると「全売り!」というような極端な考え方ではなく、もうすこし中庸な方法はないのか? ということが気になります。
そこで二つの防御法を伝授します。
まず「高配当利回り株は下値が固い」傾向があるということです。つぎに「株価収益率(PER)が低い株の方が急落しにくい」傾向があります。
順番に説明します。
高配当利回り株は下値が固い
株式の投資家には、キャピタルゲイン(=株の値上がり益のこと)を狙う投資家と、インカムゲイン(=配当収入のこと)を狙う投資家が居ます。
キャピタルゲインを狙う投資家は、(この株は、上がるかもしれない)と思うと果敢に飛び乗ります。そのような投資家が狙う銘柄は、グロース(成長)株と呼ばれる、若い企業が多いです。
しかし相場の地合いが悪くなるとキャピタルゲイン狙いの投資家はサッサと降りてしまうので、そういう投資家が沢山乗っかっているグロース株ほど、こっぴどく売られる場合が多いです。
一方、インカムゲインを狙う投資家は、その株が短期的に上がろうが、下がろうが、あまり頓着しません。むしろ四半期毎にちゃんと配当を払ってくれることを有難く感じます。アメリカにはリタイアした年金生活者のような世代にインカムゲイン狙いの投資家が多いです。
そういう私も、実はコア・ポジションはインカムゲイン狙いの高配当利回り株です。四半期毎の収入で、大学生の息子の下宿代を払うなど、日々の生活のリズムの中に配当収入が組み込まれているのです。
その場合、ちょっと相場がギクシャクしたくらいで配当収入を諦めるか? と言われれば、そんなことはありません。長期で持ち続ければ、どうせ株価は元に戻ってくるわけですから、ドタバタ慌てる必要は無いのです。
高配当利回り株の下値が固いのは、上のような理由によります。私のような「シニア世代」が、少々の株価の乱高下にも慌てず、おっとり構えて、継続投資しているから、値動きがマイルドなのです。
株価収益率(PER)が低い株の方が急落しにくい
もうひとつ重要なポイントとして、相場が荒れ始めた局面では株価収益率(PER)が低い銘柄に乗り換えるというテクニックがあります。
いまマニュアル車でイロハ坂のような急な下り坂を降りて行く様子をイメージしてください。
このような場合、トップギアではなく、ローギアにシフトダウンし、エンジン・ブレーキを生かして安全に下ってゆくのが正しいやり方です。
この場合、トップギアに相当するのが高PER株、ローギアに相当するのが低PER株です。
株価収益率は「利益の何倍までその株が買い進まれているか?」を測る尺度です。投資家がある企業の利益に対して、その何十倍、ときには百倍以上もその株を買い進む理由は唯一つ……その会社がトップギアで高速道路を疾走するようにビュンビュン成長すると信じているからです。
もちろん、そのような将来を嘱望されている企業は、少々株式市場が荒れたところで、損な事とは無関係に、ちゃんと本業で業績を伸ばしてゆくことでしょう。
しかし……
いかんせん投資家は高速道路をトップギアで飛ばす時のような態勢でその株に乗っかっているわけですから、イロハ坂のような難しい局面にさしかかれば「ひやっ」とする場面に遭遇するのは当たり前です。
自分のポートフォリオを点検してください!
いま、ちょっとこの記事を離れて、皆さんのポートフォリオを点検してみてください。
皆さんの購入している銘柄は無配株が多いですか? それとも高配当の株が多いですか?
皆さんのポートフォリオに入っている銘柄の株価収益率を単純に平均してみると、幾らになりますか?
米国を代表する株価指数であるS&P500指数の現在のPERは、過去12ヵ月の一株当たり利益に対して17.6倍で取引されています。
すると皆さんのポートフォリオの平均PERがこれより高いようだとシフトダウンした方が良いと思います。
次にS&P500指数の配当利回りは2.1%です。あなたのポートフォリオの平均配当利回りは何パーセントですか?
下は推奨ではなく、あくまでも計算例です。
コード | 配当利回り | 株価収益率 | |
---|---|---|---|
JPモルガン・チェース | JPM | 2.83% | 11.7 |
シスコ・システムズ | CSCO | 3.44% | 14.3 |
インテル | INTC | 3.09% | 15.8 |
アムジェン | AMGN | 2.95% | 13.5 |
AT&T | T | 5.37% | 15.5 |
平均 | 3.54% | 14.2 |
- ※出典:2016年11月4日、グーグル・ファイナンスのデータを元にコンテクスチュアル・インベストメンツが作成
赤くハイライトした計算結果が、現在のS&P500配当利回りである2.1%、S&P500のPERである17.6倍に比べてどうなっているか? みなさんも自分のポートフォリオで、是非、計算してみてください。