今日はフランス大統領選挙とそれが欧州の株式市場に与える影響について説明します。
フランスの大統領選挙
4月23日(日)にフランスで大統領選挙第一回投票があります。
今年、欧州はオランダ、ドイツでも選挙があり、慌ただしい年となっていますが、それらの選挙の中でも、フランスの大統領選挙は、とりわけ注意深く見守る必要があります。
なぜなら第一回投票で善戦すると予想されている極右政党、国民戦線のマリーヌ・ル・ペン候補は「私が大統領になったら、フランスのEU離脱の是非を問う国民投票を実施する」と宣言しているからです。
フランスの重要性
フランスはドイツと並び、欧州連合(EU)の中核を成す国です。
国名 | GDP(百万ドル) |
---|---|
ドイツ | 3363.4 |
英国 | 2858.1 |
フランス | 2418.9 |
イタリア | 1821.5 |
スペイン | 1199.1 |
オランダ | 750.2 |
スウェーデン | 495.6 |
ポーランド | 477.1 |
ベルギー | 455.1 |
オーストリア | 376.9 |
デンマーク | 295.1 |
アイルランド | 283.7 |
フィンランド | 231.9 |
ポルトガル | 198.9 |
ギリシャ | 194.8 |
チェコ | 185.2 |
ルーマニア | 177.9 |
ハンガリー | 121.7 |
スロバキア | 87.2 |
ルクセンブルグ | 57.8 |
ブルガリア | 50.2 |
クロアチア | 48.7 |
スロベニア | 42.7 |
リトアニア | 41.1 |
ラトビア | 27 |
エストニア | 22.4 |
キプロス | 19.5 |
マルタ | 9.7 |
(出典:世界銀行、2015年)
上の表のうち、英国は既に国民投票によりEU離脱を決めています。実際、先月末から離脱のための実務交渉を開始しています。
そこで英国がEUを抜けたものとして、英国を除くEU全体のGDPに対しフランスが占める割合を計算すると、18%になります。これはとても大きな比率です。
だから、もし英国に続きフランスもEUを離脱するという事態になると、EUは崩壊する可能性があるのです。(実際には、その可能性は低いと思います)
フランス経済
フランス経済は、EUの大国の中では、かなり悪い方に入ります。下はフランスのGDP成長率のチャートです。
フランスGDP(%、前期比、季節調整後、ユーロスタット)
これを下に掲げるユーロ圏のGDP成長率のチャートと見比べると、フランスのGDP成長率は、不揃いであると同時に弱々しいことが読み取れます。
ユーロ圏GDP(%、前期比、季節調整後、ユーロスタット)
次に失業率ですが、10%前後で高止まりしています。
フランス失業率(%、ユーロスタット)
比較のためにユーロ圏の失業率を見ると、着実に改善していることがわかります。
ユーロ圏失業率(%、ユーロスタット)
フランスの景気回復は、このように遅れているので、それだけ有権者の不満も強いのです。
大統領選挙の仕組み
フランスの大統領選挙は二段構えになっています。
もし第一回投票でいきなり過半数(51%)を獲得する候補者が出れば、それで大統領は決まりになります。
しかし誰も過半数に到達しなかった場合、5月7日(日)に上位二候補の間で決選投票が行われます。
現在の下馬評では、無所属のエマニュエル・マクロン候補が本命と言われていますが、第一回投票に限ってはマリーヌ・ル・ペン候補が首位に立つ可能性があるとされています。
フランスの有権者は「二回投票できる」ということがわかっているので、第一回投票では現状に対する不満を表明するために、わざと泡沫候補に票を投ずる傾向があります。これはマリーヌ・ル・ペン候補を利すると思われます。
しかし決選投票では、急に保守的になることが知られています。したがって決戦投票では中道保守のマクロン候補が有利だと思います。
市場参加者は、このようなフランス有権者の投票行動をよく理解しています。だから第一回投票でル・ペン候補が首位に立った場合でも、大きく取り乱すことは無いと思います。
その場合でも、EU離脱を公言して憚らないル・ペン候補が首位に立つと、ある程度、マーケットは動揺すると覚悟すべきでしょう。
言い換えれば、第一回投票の結果を見て市場が急落する局面があるのなら、そこが買い場を提供する可能性もあるということです。
ドイツ連邦議会選挙
ドイツでは9月24日(日)に連邦議会選挙があります。ドイツ連邦議会(Bundestag)は、米国の下院に相当し、定数は630です。
ちなみに上院は連邦参議院と呼ばれます。しかし実際にはドイツ連邦議会の方が優越しており、実質的には一院制と言っても過言ではありません。
メルケル首相の政党であるドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)は現在、254議席を占めており、キリスト教社会同盟(CSU)と連立政権を形成しています。
ドイツの景気はまずまずですし、失業率は歴史的に低い水準にあることから、有権者の不満はそれほど強くなく、大きな番狂わせは無いと思われます。
投資のポイント
すると欧州の投資家の不安が極点に達するのは9月のドイツの選挙ではなく、4月23日のフランス大統領選挙第一回投票になると思われます。
欧州経済はリーマンショックの後にギリシャ危機に見舞われた関係で、米国より3年ほど回復が遅れています。
しかし今後は米国がそうしたように徐々に量的緩和政策の縮小が議論され始めるでしょうし、英国のEU離脱が引き起こした投資家のセンチメントの悪化も徐々に修復されるものと思われます。
投資家は相対比較で「いま良くなりつつあるマーケットを買う」傾向があるので、離散していた投資資金が欧州へ戻ってくる可能性があります。