プロっぽい相場を張るには?
株式に投資する際、債券のことに関する知識が多少あれば、みちがえるほど玄人(くろうと)っぽい相場を張ることができるようになります。
(そもそも、株と債券の違いって、何?)
お恥ずかしい話ですが、私が中途入社で建設業界から証券界に入った時、株と債券の違いすら知らなくて、同僚から呆れられました。
みなさんが「株と債券の違いは何か?」と訊かれたら、どう答えますか?
たぶん「債券にはおカネを返す期日(=これを償還期限といいます)があるけれど、株にはそれがない」と答えるでしょうね。それで正解です。(これ以外のいろいろな差異については、紙面が限られているので今日は論じません)
債券は、返済期限が早く到来する短期債から、返済期限がずっと先である長期債まで、いろいろな種類があります。一例として、30年債は、30年間おカネを返さなくて良いので、上の説明の延長で言えば「永久に出資したおカネを返さなくて良い株式と、かなり似ている」という風に言えます。
実際、30年債などの長期債と株式は「お隣さん」の関係にあり、それゆえに長期債の動きは株式の動きに影響を与えやすいです。
利回り曲線
利回り曲線は英語でイールドカーブ(Yield curve)と言われます。
いま、償還期限の短い短期債の利回りをチャートの左に配置し、そこから償還期限が先になるにつれて順番に右側にプロットして行ったものが利回り曲線です。
米国財務省証券利回り曲線(%、財務省)
普通、利回り曲線は長期(右側)に行けば行くほど高くなります。そのような右肩上がりの利回り曲線を「ノーマルなイールドカーブ」という風に呼ぶことも多いです。
しかし経済の置かれた局面によっては、この勾配(こうばい)が平たくなる場合もあります。そうなることをフラットニングといいます。
逆に勾配が急になるケース、つまり右側がグーンと持ち上がるケースを、スティープニングといいます。
普通、スティープニングがおこる局面では市場参加者が(景気は、強いぞ!)とか(今後、インフレがいっそう進行しそうだ!)と感じている場合が多いです。
逆にフラットニングがおこる局面では(景気が息切れするのではないか?)という懸念に市場が支配されます。
そこで上のチャートを見てください。
青の線は3月8日のイールドカーブです。この前の連邦公開市場委員会(FOMC)は3月15日に実施されたので、これはFOMC開催直前の様子を示しています。
橙色の線は4月10日のイールドカーブです。チャートの左端が持ち上がり、右端が下がっていることが確認できます。つまり青に比べて勾配は平たくなった、換言すればフラットニングが起きたのです。
上に書いたようにフラットニングは市場参加者が(景気が息切れするのではないか?)ということを心配しているときに起こる現象なので、このチャートをプロが見たときの判断は(ちょっと元気がないな)という解釈になります。
利回り曲線と株式市場
ここからは株式投資を考える上でのヒントですが、いま株式のバリュエーションが高いとき、イールドカーブのフラットニングが起きるというのは、悪い取り合わせであり、その後、株式市場は冴えない展開になる場合が多いです。
ここでバリュエーションとは株価収益率(PER)と言い直しても良いでしょう。現在は約18倍であり、これは歴史的にみてかなり高い水準です。
すると今はまさしくこの「悪い取り合わせ」が起き始めている局面であり、我々投資家は兜(かぶと)の緒を締めてかかる必要があるのです。
なお、イールドカーブのフラットニングは「人為的なミス」と「中央銀行がどうにもできないファクター」のどちらかが原因で起きます。
このうち「中央銀行がどうにもできないファクター」とは、イールドカーブのロングエンド(=長期金利側、つまりチャートの右側)であり、10年債、20年債、30年債利回りを指します。
これらの長期金利は、インフレ期待、あるいは景気の強さに関する投資家の見方というものに大きく影響されます。別の言い方をすれば「これらはマーケットが決める金利であって、中央銀行は決められない」ということです。
これに対し、イールドカーブのショートエンド(=短期金利側、つまりチャートの左側)は、フェデラルファンズ・レートに代表されるように、中央銀行の一存で決めてゆける金利です。
FRBの手綱さばきは悪い?
最近のフラットニングの原因を、イールドカーブのグラフから眺めてみると、なるほど長期金利が下がっているのが一因だけど、政策金利を引き上げたことで長短金利差が縮まったことも同じくらい元凶となっています。
つまり今回のように利上げ後にすぐにイールドカーブがフラットニングを起こしているということは、「経済がもう息切れしそうです。お願いだから、引き締めるのはやめて!」とマーケットが中央銀行に対して嘆願しているのと同じなのです。
先週あたりからFRB関係者が口々に「とりあえず利上げを一服させて、FRBのバランスシート圧縮にとりかかる」とコメントしはじめました。
いじわるな見方をすれば、これはFRB関係者が(しまった! ちょっと作戦を変えないといけないかな?)と迷い始めている兆候だと言えます。
つまりフェデラルファンズ・レートの引上げを一旦止めるのは、これ以上、短期金利を持ち上げることで、ただでさえチャートの形状がフラットニングしているのを、さらにFRBが利上げすることで悪化させることを避けるということを意味します。
またFRBのバランスシートを圧縮するということは、FRBがいま在庫にしている債券類のうち、償還期限が来てキャッシュに現金化される(=在庫が小さくなる)分の再投資をしないということを意味し、それは「長期債のマーケットは、もう買い支えません!」と言っているのと同然です。
すると長期債の有力な買い手としてのFRBが市場から姿を消すわけですから、おのずと長期債の価格は下落し、長期金利は上昇する…もっといえばイールドカーブの勾配をスティープニングさせる操作にほかならないのです。
つまり「利上げを一旦、お休みして、FRBのバランスシートの圧縮に着手」というと、なんだか着々とFRBの政策が前進しているように聞こえるけれど、その魂胆を考えると、ものごとが上手くいっていないので、利上げという「正攻法」を諦め、長期債の需給関係を、わざと悪くすることでイールドカーブの「粉飾」に走っていると思われても仕方ないのです。
まとめ
みなさんは日頃から株価指数の動きをチェックされていると思います。それに加えて例えば(米国の10年債の利回りは、どうかな?)ということを折にふれてチェックすると、みちがえるように皆さんの相場分析は厚みを増すと思います。是非10年債の利回りチェックも励行してください。