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連邦準備制度理事会(FRB)の仕組みについて
連邦準備制度理事会(FRB)の仕組みについて
2017/11/02
次期FRB議長の人選が大詰めを迎えています。そこで今日はFRBの仕組みについて書きます。
FRBとは?
FRBとは連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)の略です。FRBはアメリカの中央銀行の役割を果たしています。
普通、中央銀行と言うと一ヵ所というイメージがあるのですが、米国の場合、アメリカ全土に12の連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)が散らばっています。それら12の銀行は、民間企業の体裁を保ち、それぞれ取締役会と総裁を持ち、独立した存在として運営されています。それを束ねて監視するのが連邦準備制度理事会なのです。そしてこのような体制を総称して連邦準備制度(Federal Reserve System)と呼んでいます。
なぜ1ヵ所ではなく12ヵ所なのでしょうか?
これは1906年のサンフランシスコ大地震の時の教訓から、そういう体制が考案されたのです。
サンフランシスコ大地震では大火事が発生し、サンフランシスコ市の家屋の80%が焼失し、3千人が死亡しました。
この災害で、損害保険会社は保険金の払い出しをしなければいけなくなり、緊急のキャッシュが必要になりました。ところが当時は現在の連邦準備制度のようなものがなく、それぞれの民間銀行は店内に十分な現金の準備がありませんでした。
こういう場合、銀行の店内に「見せ金」として十分な準備があることが何よりも大事です。なぜならキャッシュが引き出せなくなると預金者が動揺し、取り付け騒ぎが起きるからです。
サンフランシスコ大地震が起きた当時、アメリカには中央銀行は存在しませんでした。そこでニューヨークから金塊を急送し、急場をしのいだのです。ところがこの関係で、翌年になると今度はニューヨークで「金詰り」現象が起きてしまい、株式市場の暴落による「1907年のパニック」が起きました。
金融関係者はこのときに中央銀行の必要を痛感しました。それぞれの地域に連邦準備銀行を設置し、有事の際にすみやかに民間銀行へ現金を移送できるようにしたのは、このためです。さらに近隣の連邦準備銀行は常に連絡を取り合い、咄嗟のキャッシュを必要とする連邦準備銀行へ準備を移すネットワークを作ったというわけです。
FRBは会社で言えば取締役会のような体裁で、7名の理事で構成されています。それぞれの理事は大統領が指名し、上院が投票により承認する必要があります。理事の任期は14年で、一度にたくさんの理事が任期満了で欠員にならないように任命のタイミングはずらしてあります。理事は任期途中で辞めるケースが多く14年勤め上げる人は稀です。
この「取締役会」には議長(chair)と副議長(vice chair)が居て、これも大統領が指名し、上院が投票により承認する必要があります。任期は4年ですが、指名、承認のプロセスを経れば何度でも再任できます。
連邦公開市場委員会とは?
フランクリンD.ルーズベルト大統領は、金融政策の策定プロセスを強化するため連邦公開市場委員会(FOMC:Federal Open Market Committee)を設置しました。
FOMCはFRBによる政府証券の買い、ならびに売りオペを監督し、短期金利を一定の水準に導くとともにマネー・サプライを調整します。ニューヨーク連銀にオープン・マーケット・トレーディング・デスクと呼ばれる部署があり、そこが実際のオペレーションを行います。
FOMCは年8回ミーティングを持ちます。先述の7名の理事と12の地方連銀総裁の合計19名が出席します。しかしミーティングで投票できるメンバーは毎回12名に限られています。
具体的には7名の理事は常に投票権を持ちます。それからニューヨーク連銀総裁は常に投票権を持ちます。しかし残りの11の地方連銀総裁は、毎年、持ち回りで4名だけが投票権を持つきまりになっています。つまり投票権を持つのは12名ということになります。
FRBの「上司」は議会です。1977年に議会はFRBの目標を「雇用の最大化」と「価格の安定」と定めました。これら二つの目標は「デュアル・マンデート」と呼ばれます。
別の言い方をすればFRBは勝手に金利政策の目標を改変することはできないのです。
新次期FRB議長人事
さて、トランプ大統領は近く次期FRB議長に誰を指名するかを発表します。議長を指名するのが大統領なので、大統領の意向が人選のプロセスに大きく影響を及ぼすことは言うまでもありません。
またFRB議長が就任した以降も、大統領は金利政策に関してFRB議長にプレッシャーをかけることが予想されます。それは過去にもジョンソン大統領、ケネディ大統領、ニクソン大統領などが試みてきました。
しかし今日見てきたようにFRBは議会に対して責任を負っているのであって、大統領ではありません。そしてFRBの独立性は「デュアル・マンデート」という目標達成の範囲内で保証されていることを忘れてはならないと思います。
たとえば大統領が「景気を良くするために低金利を維持しろ!」とプレッシャーをかけるのは、権限を逸脱していることがお分かり頂けると思います。
過去に大統領がFRB議長に対してプレッシャーをかけたケースでは、いずれも後でインフレなどの好まざる副作用を生じています。
言い換えれば、FRB議長は大統領からの要求に超然として居られるような、タフな人の方がアメリカ経済にとっては良いのです。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。