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金融相場と業績相場
金融相場と業績相場
2017/11/17
上昇相場を形容する表現に「金融相場」と「業績相場」があります。
今日はこれらの言葉の持つ意味や、どういう局面でそれが登場するか?といったことについて書きます。
定義
「金融相場」とは金融緩和や低金利に支えられて上昇相場が到来することを指します。一方、「業績相場」とは市場参加者が主に企業業績の伸びに注目し、買い進むような相場を指します。
株価が決まる仕組みについては、いろいろな説明の仕方があります。そのひとつが配当割引モデルです。それによると株価は:
株価 | = | (配当+1年後の株価) |
(1+割引率) |
で説明できることになっています。
ここで割引率というのは聞き慣れない言葉かも知れませんが、今日の議論では単純に「金利」だと思ってください。
もうひとつの説明の仕方がキャッシュフロー割引モデルです。それによると株価は:
株価 | = | 株主に還元されるフリー・キャッシュフロー |
(1+割引率) |
で説明できることになっています。
いま、フリー・キャッシュフローも配当も、その企業が「稼ぐ力」、そしてそれを株主に還元する能力を問題にしています。これらは業績に左右されます。
一方、割引率は先ほど金利だと申し上げましたが、金融相場の背景にある、金融緩和や低金利に関係してくる要素です。
つまりどちらのモデルにも金利と業績という重要な要素が含まれているのです。
とりわけ「稼ぐ力」が分子に、「金利」が分母に来ている点に注目してください。
すると金利が上昇すれば、分母が大きくなってしまうので、妥当株価は下がることがわかると思います。
私は機会ある毎に「市中金利と株価は、競争関係にある」と説いてきました。つまり金利が上昇してしまうと、まるでシーソーのように株価は下がるのです。その理屈は、上に示した二つのモデルでもご理解頂けたと思います。
金融相場と業績相場の比較
さて、金融相場と業績相場を比較すると、ざっくり言って金融相場が「7」で業績相場が「3」というような割合になると思います。
つまり金融相場の方が期間が長いし、上昇率も大きいのです。これに対し業績相場は比較的短命で、上昇幅もたかが知れています。
リーマンショックのような景気にとって悪い事件が起きると中央銀行は慌てて金融緩和します。でも金融緩和が経済に効いてくるまでにはタイムラグがあるので株式市場の下落はすぐには止まらないでしょう。
ある程度、金融緩和が効いてくると株式市場が「コツン」と底打ちします。
この瞬間を、金融相場の起点と考えることが出来ます。
ただいくら中央銀行が金融緩和し、さらに株式市場が底打ちしたからといって、企業の業績が直ぐ立ち直るとは限りません。実際、企業の業績が上向くのは、ずっと先である場合が殆どです。
するとその間は(いずれ金融緩和が効いて景気が上向いてくるだろう)という希望だけに支えられて株式市場が何とか株価を維持するという構図になります。
実際、この局面では、「経済統計が悪かったので中央銀行は更に緩和しなければいけない」という状況が常態化します。その場合、悪いニュースは一層の緩和を催促するので、株式にとってプラスだという解釈すらされる場合が多いです。
金融相場が業績相場よりずっと長い理由は、このように景気の回復には長い助走期間が必要なことによります。
次に景気がじゅうぶんに立ち直り、中央銀行がそれまでの緩和スタンスを改め、利上げに転じたとします。
この時点で、もはや金利は株価にとって支援材料ではなく、足を引っ張る存在になります。つまり冒頭の数式に戻れば、「分母が大きくなりはじめている状態」に他なりません。
すると株式市場が上昇し続けるためには分子の「稼ぐ力」の伸長に期待をつなぐ他ないのです。この局面が業績相場というわけです。
現在の立ち位置とまとめ
現在の米国株式市場では、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は既に利上げに転じているので業績相場の局面に入っています。
下は米国を代表する株価指数であるS&P500指数に採用されている500社の一株利益のチャートです。
すると2017年以降(これは予想になりますが)スルスルと業績が伸びてゆく様子が確認できます。
2016年から2017年にかけて+10.06%の利益成長が見込まれています。いま金利が一定であれば株式市場は+10.06%上昇してもおかしくないのです。
実際、FRBは、たいへんゆっくりとしたペースで利上げしています。その関係で、現在の業績相場が突然終わるリスクは低いと言えます。
しかし、たとえば原油価格が突発的に急騰するという局面があれば、FRBはインフレを防ぐため慌てて利上げを繰り返さなければいけなくなるかもしれません。その場合は1)金利がアゲンストの風になる、2)業績の伸長が、急激な利上げによる景況感の悪化でストップする、という二重苦に転じる可能性もあるのです。
株価が決まる要因を、金利と、企業の「稼ぐ力」に分解して理解すると、株式市場に対する理解が深まります。一般に金融相場は長寿で業績相場は短命だということを知れば、強気相場の何合目くらいにさしかかっているか? を推察する際の一助になります。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。