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アニュアルレポートのシーズンと一株当たりの業績のチャート
アニュアルレポートのシーズンと一株当たりの業績のチャート
2018/02/21
今回は、各企業の業績についてとなります。
アニュアルレポートが続々出ている
アメリカの企業はカレンダー・イヤーを会計年度に採用している企業が多いです(これに対して日本企業の多くは3月末で会計年度を〆るところが多いです)。
2017年第4四半期の決算発表シーズンは、これまでに80%の企業が発表を終えています。普通、第4四半期決算の発表が済めば春の年次株主総会に向けて企業はアニュアルレポートを公表します。そのタタキ台になるのが米国証券取引委員会(SEC)に提出する「10-k」と呼ばれる報告書です。
決算発表を終えた企業から、いま続々と「10-k」が提出されています。一般に、しっかり経営されているところほど会計を〆るのが速いですし、「10-k」もすぐ出てくる傾向があります。内部管理がしっかりしておらず、会計の手順が自動化されていないところほど「10-k」が遅れる傾向があります。
そこで既に提出が済んだ「10-k」をもとに主要企業の一株当たりの業績のチャートを作成してみました。
一株当たりの業績のチャート
一株当たりの業績のチャートは、1)売上高、2)営業キャッシュフロー、3)純利益、4)配当の金額を、それぞれ5)発行済み株式数で割算することで求めることが出来ます。
なお、ここではいわゆるリポーテッド・ナンバー、すなわちSECに提出された会計報告書の数字をそのまま利用します。
たとえば去年のクリスマスの直前に税制改革法案が成立した関係で、特別益ないしは特別損を計上した会社が多かったです。これは単に税制が変わったために利益や損が出たわけで、企業努力とは何の関係もありません。
そこでそういう「雑音」を除去し、会社の本当の事業の現況をよりよく反映した、いわゆるノンGAAPベースでの数字を論じるアナリストも多いです。GAAPとはGenerally accepted accounting principleの略で、アメリカで一般に受け入れられている会計原則の事を指します。
しかしここでは議論を簡単にするためにアニュアルレポートに表示される数字をそのまま使う事にします。
フェイスブックの優等生ぶりが目立つ
たとえば下はフェイスブック(ティッカーシンボル:FB)の一株当たりの業績のチャートです。
ここでDPSとは一株当たり配当を、EPSとは一株当たり利益を、CFPSとは一株当たり営業キャッシュフローを、SPSとは一株当たり売上高を指します。
フェイスブックの場合、黄色の一株当たり売上高がとてもきれいに伸びているのがわかります。また灰色の一株当たり営業キャッシュフローの数字の伸びが素晴らしいです。このように年々一株当たり営業キャッシュフローが着実に伸びている企業は見込みのある株です。
加えて2017年の一株当たり営業キャッシュフローを一株当たり売上高で割算すると0.596になります。これは営業キャッシュフロー・マージンが59.6%あることを示しています。つまりフェイスブックの営業キャッシュフローは極めて潤沢なのです。営業キャッシュフロー・マージンは少なくとも15%くらい欲しいです。
橙色の一株当たり利益の数字は、普通、一株当たり営業キャッシュフローの数字よりは小さいです。もし一株当たり利益が一株当たり営業キャッシュフローの数字より大きい場合、粉飾決算の可能性があるので注意が必要です。
アルファベットも業績が良いが、若干、勢いは落ちている
次にグーグルの親会社であるアルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)を見ます。
アルファベットの売上成長も立派です。強いて言えば灰色の一株当たり営業キャッシュフローが伸び悩んでいるのが気にかかります。なお橙色の一株当たり利益が2017年にかけて前年比マイナスになっているのは税制改革法案成立による一時的要因が影響しています。したがって、これは無視して良いでしょう。
アマゾンは売上高偏重の経営
次はアマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)です。
黄色の一株当たり売上高は素晴らしいペースで伸びています。しかし灰色の一株当たり営業キャッシュフローの数字は貧弱です。さらに橙色の一株当たり利益は、「無いに等しい」と形容できます。これはアマゾンが売上高の伸長に社運をかけており、利益を度外視しているためです。
投資家は、会社側のそのような経営戦略に賛同しており、おもに売上高の成長を手掛かりに同社株を買っています。
インテルの配当性向は「悪い上昇」を見せている
次はインテル(ティッカーシンボル:INTC)です。同社の売上高は安定的に成長していますが、成長率は低いです。
灰色の営業キャッシュフローは年々伸びてはいるものの、成長率は低いです。青の配当を見ると、増配していますが、その一方で橙色の一株当たり利益は伸びていないので、だんだん配当性向(=利益のどれだけを配当に回しているか?)は高くなっています。
キャタピラーはターンアラウンド中
最後はキャタピラー(ティッカーシンボル:CAT)です。
同社は中国における建設の抑制などの影響で、2016年にかけて業績がどんどん悪化していました。しかし2017年は、いわゆるターンアラウンド、つまり業績回復を見ています。
キャタピラーのような「重厚長大」のビジネスは、景気サイクルの影響を受けやすいです。したがって業績は変動が大きいのが普通です。言い換えれば、単にBUY & HOLDのストラテジーで臨むのでは不十分であり、業績の好転するタイミングを狙いすまして投資する必要があります。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。