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相場の大底で起きやすい事
相場の大底で起きやすい事
2018/6/29
2017年12月11日の本コラムで「相場の天井で起きやすい事」について書きました。今日はその反対で、相場の大底で起きやすい事について解説します。
その前に誤解の無いように断っておくと、現在、米国株は過去最高値に近い水準で取引されていますので、今日ここに書くことは近い将来、すぐに役に立つことではありません。ただ遠い将来、役に立つこともあるだろうということで紹介します。
もうはまだなり
みなさんは「もうはまだなり」という言葉を聞いたことがありますか?
(もうそろそろ買い場じゃないか?)……これが「もうはまだなり」という相場の格言の「もう」の部分です。投資家がそう考えているうちは、まだ買い場じゃないという意味です。
このように下げ相場の初期には投資家は楽観的なスタンスを堅持しつづけます。マーケットが値幅面で大きく下がった場合、(これだけ下がったのだから、もういいだろう)と思うのは人情です。しかし相場の調整には「値幅」と「日柄」という二つの要素があります。
「日柄」とは、つまり経過時間を指します。
相場が出直るには割安感が出るだけではダメです。ある程度の時間的休養が必要なのです。
みなさんは三圃(さんぽ)式農業という言葉を聞いたことがあるかと思います。これは耕地を休ませるために1) 冬穀(秋に種を蒔く小麦やライ麦など)、2) 夏穀(春に種を蒔く大麦・大豆など)、3) なにもしない休耕地、という三つに区分し、それをローテーションさせることで地力の低下を防ぐ農法を指します。
つまり「なにもしない」ということは別にサボっているのではなくて、農地を消耗させないための知恵なのです。
株式市場にもこれに似たことがあてはまります。
すなわち人気化し、投資家にいじり尽くされたマーケットは栄養を消耗し切っているので、すぐに出直ろうと思ってもエネルギーの蓄積が足らないためヘナヘナと再び下落しやすいのです。
強気のわな
下落相場の初期には、突然、マーケットが盛り返し、「ほら、もう大丈夫!」と思わせる場面があります。
これを「強気のわな(Bull trap)」と言います。
「強気のわな」は、いわゆる「騙し」に他なりません。この「騙し」にうかつに手を出すと、またすぐに相場が下がり始め、ただでさえ弱気相場で損を抱えているのに更に傷口を大きくする結果を招きます。
大体、ベア・マーケット(=下落相場)の初期は未だ経済指標もそれほど悪くなっていないし、ほんの数カ月前の株式市場のバリュエーションと比べると(ずいぶん安くなったな)という印象を与えるので、ついつい安易な気持ちで出動しがちになります。
また、投資信託や年金を運用している機関投資家は、相場を張ることによって受益者から報酬を貰っている関係で、少し相場が安くなっただけですぐ「それ買い場だ!」と出動してしまいやすいです。つまり機関投資家はフル・インベストメントのバイアスがかかっているのです。なぜなら相場の反騰局面を取り逃がすと「サボっていたのではないか?」と疑いをかけられるからです。
「騙し」にひっかかることを繰り返すと投資家は用心深くなり(もうこれ以上、投資資金を消耗しないぞ!)と心に誓います。すると市場参加者が少なくなるので自ずと出来高も閑散になります。
つまり新規の買いは控えるけれど、一部の持ち株だけは我慢して持ち続けるわけです。
この段階でも、未だ大底ではありません。つまり誰も売りたくないという状況は、まだアク抜けではないのです。
この時期になると景気の先行指標である株価の下落に、ようやく実態経済が追い付き、実際に景気指標が悪くなっていることを示す経済指標が出始めます。株価が弱気相場に入ってからこのように景気指標が悪化し始めるまで1年くらいを要する場合もあります。
具体的に景気が悪くなっていることを示す例として、設備稼働率の低下、鉱工業生産の低迷、自動車販売台数の下落、住宅着工件数の低下、新規失業保険申請者数の増加、失業率の上昇、倒産件数の増加などが挙げられます。
さらに景気後退が深刻になると金融システムそのものが揺さぶられる場合もあります。
中央銀行は利下げすることにより経済を刺激するとともに市場に対する流動性を供給します。
企業や個人は景気後退が濃厚となると倒産や解雇を恐れて借金を整理しなるべくキャッシュを積み上げることを考えます。
個人投資家の場合、株式市場と金輪際縁を切るため残っていた持ち株をバッサリ処分します。その頃までには自分の資産は弱気相場で随分目減りしているわけだけれど、そのなけなしの持ち株すらも綺麗さっぱりサヨナラするわけです。
この時点では、もう売るのを我慢している持ち株すらないので、戻り待ちの売り圧力は無いわけです。
弱気を通り越して無関心へ
不景気が長引くと次第に投資家はリスクに対して極めて敏感になり、少しでもおカネを損する可能性のある事に対してはアレルギー的な反応を示すようになります。つまり極端に保守的な態度になるということです。
もちろん熱狂のかけらもなく、投資家は只々ちぢこまった態度を示します。相場に乗り遅れることを心配する人は一人も居なくなります。それどころか一切投資から身を引く投資家も続々と出てきます。株式市場が誰からも顧みられなくなるわけです。
その頃になると株価の下落によりいつのまにか株式利回りが債券利回りを上回るようになります。商いは極端に細っており、メディアも株式市場の出来事を報道しないので、相場が静かに反転しても誰もそれに気が付きません。
しかし、いつの間にか新安値銘柄数は減っており、騰落線も増加に転じます。このような時にひっそりと株価は底入れするのです。殆どの投資家は、そもそも資金が尽きてしまっているので、相場の反転を機に参入しようという考えすら起きません。経済を巡るニュースはその時点でも未だ悪いものばかりの筈です。
つまりここでも株価には先見性があるので、まだ経済指標が悪くても、一足先に株価は底入れするというわけです。
弱気相場は、時として3年ほど続くこともあります。弱気相場が長ければ長いほどエネルギーを蓄積しているので次の強気相場は力強いものになります。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。