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高利回りの投資対象ほど危ないものはない

高利回りの投資対象ほど危ないものはない

2018/8/15

このところ典型的な高金利通貨国であるトルコ・リラの急落が話題になっています。

私はかれこれ30年も世界の投資家を相手に仕事をしてきましたが、日本の投資家ほど「高利回り」という謳い文句にコロッと騙される投資家も世界では珍しいです。
そこで今日は耳の痛い話を少しします。
それは「高利回り」という投資機会に接する際の心がまえについてです。

1 なぜ日本人は高金利とリスクの関係に鈍感なのか?

日本人は高金利とリスクの関係について正しい知識を持ち合わせていません。一般に金利が高い投資商品ほどリスクも高いです。

この至って当たり前の法則に日本人が無頓着になってしまった一因は、戦後の日本の経済運営にあると思います。


<極度の資本の不足から生まれた知恵>
敗戦ですっかりオケラになってしまった日本は、焼野原から何とか経済を復興させなければいけませんでした。

しかし戦争で生産財は大方壊されてしまいましたし、資本もありません。そのような「無い無い尽くし」の切羽詰まった状況の中から特定産業への資本の傾斜配分という知恵が生まれたのです。

傾斜配分というのは難しい言葉かも知れませんが、要するに経済の根幹を成す重要産業に重点的に長期資本を回すという手法を指します。

経済の根幹をなす重要産業とは、当時は鉄鋼業や自動車産業などでした。これらの資本集約的(=つまり事業を興すにあたって先立つお金が沢山必要なこと)な産業は、長期資本を必要としています。

長期資本とは「直ぐに借金の返済を考えなくて良い、償還期限の長い借金」を指します。すると経営者は借金の返済に頭を悩ませることなくクルマ作りなどに専念できるわけです。

これは当時としては素晴らしい経済政策であり、日本の復興に大いに貢献しました。

このように重要産業にお金を優先的に回すためには「誰がどれだけの資本を調達できるか?」を厳格に管理する必要がありました。

だから長期資本を必要としている重厚長大産業に対しては、もっぱら日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の三行だけが長期で資金を調達し、それを長期に貸付けることが出来るようにしました。

そしてその際の金利に関しても大蔵省が「箸の上げ下ろし」まで細かく指導するということをしたのです。なお、現在では金利の自由化によりこういう指導は無くなりました。

それ以外の金利に対しても銀行が大蔵省の顔色をうかがうということが昔は普通でした。


<金利はお上が決めるもの>
すると一般の銀行は「金利でライバルに差を付ける」という戦術が使えないので、おのずと「預金獲得競争」とか「貸付け競争」のような、ボリュームだけで勝負する経営体質になっていったのです。

この「金利はお上が決めるもの」というアナタ任せの体質が銀行マンから「リスクに見合った金利を要求する」という姿勢を奪ってしまいました。

一方、銀行の顧客である庶民も「金利は借り手の信用度によって変わってくる」という概念をすっかり忘れてしまいました。

2 サラ金は世の中から憎まれているけれど……

一方、サラ金は銀行ではないので銀行に対する金利指導の埒外に置かれました。だから彼らだけがリスクに見合った金利を要求したのです。

いまサラ金にお金を借りに来る人たちは信用力が低く、銀行借り入れなどが出来ない人です。つまりハイリスクな借り手と言えるでしょう。ある意味、彼らが高い金利を要求されるのは当然なのです。

<借り手のリスクに応じて金利が決まる例>
一方、いまアメリカに目を転じると、個人の信用力を測る尺度としてFICO(ファイコと読みます)スコアというものがあります。これは過去のクレジットカードの返済をきっちり行ってきたか? などのデータから個人の信用力を数値化したものです。

いま仮に30年の固定金利で30万ドルの住宅ローンを組んだ場合、下の表のように信用力に応じて金利が違います。

(出典:myFICO、金利は8月10日)

おなじ30万ドルの30年固定金利住宅ローンを組むのに、信用力の高い人と低い人では毎月291ドルも返済負担が違うのです。

上の表でランクが下に行くほど(つまり信用が無い人ほど)金利が高くなっている点に特に注意を払ってください。これが借り手の信用力に応じて金利が決まる例です。

なお金融商品ではそれが株であろうと債券であろうと投資信託であろうと利回りは信用力に応じて変わってきます。

2 高利回りばかりを狙うことの問題点

さて、日本の投資家の多くは、金融商品を選ぶ際、利回りの高さばかりに目がいきがちです。(5%より8%のほうが有利だし、10%ならもっといい……)そういう発想をするわけです。しかしその場合考慮していないことは(そんなに金利を弾まないとお金が集められない借り手って、一体、どんだけ信用が低いんだ!)ということです。

もっとわかりやすいように具体的な数字で言いましょう。いまニューヨーク証券取引所などに上場しているアメリカ株の配当利回りで言えば8%という利回りを出している株は減配か、もしくは倒産を織り込んだ水準だと一般に言われています。

もっといえば「いまは8%の配当利回りと謳っているけど、1年後にはその会社はもう倒産しているかも」ということです。つまりあなたが確実に8%の配当利回りを手中に収められる保証は無いということです。

すると余り配当利回りが高過ぎる株に投資すると、株券が無価値の紙切れになるなどの、とんでもない目に遭うリスクもあるのです!

ざっくりとした感覚になりますけど、私が考える米国株の「理想の配当利回り」は、せいぜい3%から5%です。7%を超える配当を出している株には、私は投資しません! なぜなら経験的に7%という利回り水準は「何かが深刻におかしい会社」だからです。

同様に新興国で魅力的な高金利となっている国々の大半は通貨が弱いです。つまり高金利での儲けは為替のヤラレで全部吐き出すというリスクもあるのです。

<高利回りの理由について考えよ>
株式の場合、新規株式公開(IPO)して間もない企業は稼いだカネをどんどん本業に再投資することで成長を叩き出します。だから株主は「利益を配当というカタチで還元してもらうより、むしろ本業を伸ばして!」と希望します。

しかしその企業が成熟してくると追加的な投資によるリターンはだんだん下がってきます。その場合、キャッシュフローは配当というカタチで株主に還元したほうが賢いお金の遣い方になるのです。

つまり魅力的な配当利回りの銘柄の多くは成長の止まった成熟企業です。公益事業や通信会社などの安定したビジネスの場合、安心して稼いだ金を投資家に配当として還元できます。

これと対照的に市況産業で将来の収入が安定していないにもかかわらず高い配当利回りをつけている銘柄は往々にして株価が売り叩かれているせいで見かけの配当利回りが高くなっている場合があります。

したがって皆さんが高利回りの投資対象を選ぶ際は「なぜこの銘柄の利回りは高くなっているのだろう?」ということに少し思いを馳せることをお勧めします。

<まとめ>
普通、信用力が低い借り手ほど借金のコスト、すなわち金利は高くなります。そのことさえしっかりおさえておけば、むやみに高金利の投資対象ばかりを追い求めることは最も信用力に問題がある劣悪な投資対象でポートフォリオを固めることになってしまうという事を理解して頂けると思います。

高過ぎる利回りは、リスク以外のナニモノでもありません!

利回りのスイート・スポットは、株式の配当利回りでいえば3~5%です。この範囲内に収まる配当利回りを出している銘柄から投資先を選ぶようにしてください。

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著者

広瀬 隆雄(ひろせたかお)

コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター

グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。

広瀬 隆雄

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