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IPOして日の浅い銘柄への投資

IPOして日の浅い銘柄への投資

2019/2/26

今年アメリカではUBER(ウーバー)、LYFT(リフト)、スラック・テクロノジーズなど、いわゆるユニコーン企業と呼ばれる会社が続々と新規株式公開(IPO)する予定です。
そこで今日はアメリカ市場におけるIPOして日の浅い銘柄への投資について書きます。

1ディールで買うのは困難

アメリカ市場の場合、IPOそのものに参加するのは個人投資家の場合、不可能に近いです。これはどうしてかといえば主幹事証券はIPOの注文を受け付ける際、長期にその株式を持ってくれる安定株主を募ることを何事にも最優先するからです。

その結果、個人投資家に回ってくる株数は、ほんの僅かになります。

しかもその僅かな個人投資家向け割り当ても、大半は将来幹事関係を構築したい戦略的な投資家(例:本人がスタートアップ企業を経営しており、将来、IPOを考えているなど)に回されることが多いため、一般の個人投資家に割り当てが来ることはとても稀なのです。


<上場後でもチャンスは沢山ある>
ある会社の株がIPOされ、それが初日に急騰したら、殆どの個人投資家は「あーあ、もう高くなりすぎた」と諦めてしまいます。

しかし過去のIPOを見ると長期ではフェイスブック(ティッカーシンボル:FB)、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)、アルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)、アップル(ティッカーシンボル:AAPL)、ネットフリックス(ティッカーシンボル:NFLX)のように数倍から数十倍に株価が化けるケースも散見されます。

したがって上場初日の急騰を取れなかったということは長期で見れば些細な事に過ぎないのです。

言い換えれば、本当のチャンスは、上場されて一定の時間が経過した後、ていねいにその株を拾うことにあるのです!

2上場最初の数立会日は最も危険

皆さんに覚えておいて欲しいことは、IPOである株が上場され、取引が開始された最初の数日間は、最も株価が乱高下しやすいということです。

ですから上場初日、あるいは2日目あたりにムリしてその株を買う必要はないと思います。

それを断った上でいつくかのポイントを言います。

まず値決め価格(公募された株が応募者に配られる際の価格)と上場初値(ニューヨーク証券取引所やナスダックで、最初に取引が開始される値段)とは大きく乖離する場合があります。

普通、成功したディールでは上場初値は値決め価格よりも上で市場が開くものです。しかしディールによってはいきなり公募価格割れで安く寄り付くケースもあります。

このように値決め価格を割ったディールのことをアメリカでは「ブロークン・ディール(Broken deal=壊れたディール)」と言います。

そのケースではすべての投資家が値決め価格で仕込みをしているわけですから、全員が含み損をかかえたことになります。

ブロークン・ディールの場合、投げ売りが相次ぐことも多いので、「安い!」と思って慌てて出動せず、じっくり売り物が切れるまで待ってください。


<グリーンシューとは?>
主幹事証券はブロークン・ディールになることを避けるため、値決め価格でその株を買い支えることが多いです。

このメカニズムは我々個人投資家が知っておくとIPO後の価格形成の理解が深まるので少し説明します。

まず主幹事証券はIPOをマーケティングし投資家に売って歩く際、売出目論見書に書かれている発行株数よりも15%多く株を「売り過ぎる」ことが許されています。この「売り過ぎる」ことをグリーンシュー・オプションと言います。

たとえばいま架空のIPOでA社が1,000万株の株式を売り出した場合、実際には1,150万株をIPOに「当選」したとして投資家に渡してしまうのです。これは「そういうコトをする権利が主幹事に与えられています!」と売出目論見書に明記されているので全く合法です。

実際に投資家に配った株数は150万株多いわけですから、これは主幹事証券が「売り過ぎた」、もっと言えば「空売りした」分だと理解できます。

さて、上場後、株価が「行って来い」になって値決め価格の水準まで下がったとしましょう。

その時、主幹事証券はその値段で買い支えに出るわけです。

この場合、一見すると主幹事証券が自己勘定で買い支えているように見えるけれど、実体としては上に述べたようにそもそも150万株「空売りした」わけですから、単に値決め価格で空売りした株を、同じく値決め価格で買い戻していることに他ならないのです。

以上の説明から(なるほど、主幹事証券が公募価格で買い支えするのは、自分の腹が痛まないし、ある意味、当然の義務だな)というカラクリが呑み込めたと思います。

問題は15%以上売りが殺到した場合です。

その場合は主幹事証券が予め作っておいた「買い余力」が消えてしまうので、買い支えの指値は消えてしまいます。株価が「プツン!」と切れ、急落しはじめるのはそのような理由によります。

こうして株価が公募価格を割れた場合、主幹事証券が予め空売りした15%は全部同値で買い戻したことになるので、そもそもその余計に売った部分は差し引き「0」となり、余計に売らなかったのと同然になります。その場合「グリーンシュー・オプションは行使されなかった」という表現になります。

もちろん上場後ずんずん株価が上昇するケースも考えられます。その場合、主幹事証券は買戻しする必要は無いわけですから15%余計に売る権利を行使し、そのまま株価が上昇するに任せます。その場合「グリーンシュー・オプションは行使された」という表現になります。

ここまでをまとめると取引開始後、株価が軟調で、値決め価格付近に迫ってきたら主幹事証券の買い支えと、それに売りをぶつける投資家との間でバトルになります。このような展開のときに、わざわざ出動する必要は無いと思います。数週間様子を見て売りが切れ、株価が底入れるのを確認してからでも遅くはありません。

2一回目の試練=上場後初の決算発表

さて、新しく株式を公開した企業の経営者にとって最初の試練は上場後初の決算発表です。

普通、主幹事証券はIPOのロードショーに出る前に会社側に「上場後初の決算に関してはそれが楽々クリアできるようになるべく控え目な数字を投資家に言ってください」という風に釘を指します。

しかし経営陣がIPOロードショーで忙しく、目を離した隙に業績が悪くなるということも多々あります。

その場合、IPO後初の決算発表で市場の期待を裏切る決算を出すというケースもあります。

IPO後初の決算をしくじった場合、投資家の心証を悪くするので、少なくとも半年くらいは下げ相場が続くと覚悟した方がいいです。

また上場後初の決算をきちんと出せない会社というのは、悪決算がクセになるところも多いです。ですからそのようなケースでは諦めて早々に撤退した方が良いと思います。

もし上場後初の決算が良い決算であれば、それを「号砲が鳴った!」と捉え、そこから本格的に買い始める機関投資家が多いです。私もこれが王道の投資法だと思います。

換言すればIPOの最初の買いタイミングは上場後初の決算発表でちゃんと良い数字を出せたことを確認した直後だということです。


<二回目の試練=ロックアップ>
IPO企業にとって二回目の試練は取引開始から六か月後に来ます。その理由は多くの場合、IPOに際してベンチャー・キャピタルなどの既存株主がロックアップ契約と呼ばれる株を売らない協定を結んでおり、その協定が切れるのが半年(180日)後だからです。

ロックアップ契約が切れれば内部者がその株を売れるようになるので株価は軟調になるケースが多いです。従ってロックアップ切れの直前にその株を買うのはあまり良いストラテジーとは言えません。

なお多くの企業がロックアップの切れるタイミングで公募を発表します。それは好決算と抱き合わせで行われることが多いです。

つまり好決算を出し、その企業への投資家の注目度が高まった瞬間を狙って、180日間待たされ続けてきた内部者の売り物を主幹事がまとめて公募というカタチで売り出すわけです。

これは整然と行われる場合が多く、五月雨(さみだれ)式に売り物が出るより好ましいです。したがって「好決算の発表」+「公募の発表」というカタチで、きちんと売り圧力を捌いてゆく企業に対しては投資家の好感度はUPします。

言い直せば、そのようにして行われる公募に対しては建設的に捉えた方が良いのです。

おうおうにしてテンバガーとよばれる大化け株になる会社は「好決算の発表」+「公募の発表」の繰り返しで大きくなることが多いです。

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著者

広瀬 隆雄(ひろせたかお)

コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター

グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。

広瀬 隆雄

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