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国際情勢・政治ニュースと株式投資
国際情勢・政治ニュースと株式投資
2019/9/26
我々が株式投資を始めると以前より国際情勢や政治のニュースへの関心が高まります。今日は目下懸案となっている争点を整理するとともに、それらが株価に与える影響について書きます。
見渡せば懸念ばかり!
こんにち我々が置かれた状況をみると懸念すべき問題が沢山あります。実際、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、最近、利下げに転じた理由として「アメリカ経済そのものは好調だけど国際情勢・地政学リスクが普段より経営者のマインドに影を落としている」ことを挙げています。
サウジアラビアの石油施設に対する攻撃
9月中旬にサウジアラビアのアブカイクにある石油施設がドローンにより攻撃されました。これにより同国の輸出能力が一時半減しました。これは世界の石油の消費量の約5%に相当すると言われています。今回の攻撃の背後にはイランが控えていると言われています。
サウジアラビアは「9月末までに出荷能力は元に戻る」という声明を出しています。サウジアラビアは世界の拠点に同国の輸出の71日分に相当する備蓄を持っているため、それを取り崩せば供給には心配はありません。
今回の攻撃の後、アメリカ政府がイランに対する軍事的報復などのリアクションを見せなかったことが話題になりました。つまりアメリカは当面「守りに徹する」姿勢を打ち出しているのです。
石油輸出国機構(OPEC)は7月にクウォータに関する合意をリニューアルしたばかりです。従って、今回のサウジの輸出能力の一時的減少に際しても、各国が増産するということは無いと思います。むしろイラク、ナイジェリアは合意枠を無視して増産しており、それが市況の圧迫要因となっています。
一方、アメリカに目を転じるとシェールの生産が続いているのでこれは中長期での需給を悪化させると思われます。
これらのことを総合して考えると原油価格は横ばいで推移すると思われます。
次のOPEC総会は12月5・6日です。
■ブレグジット
英国では10月後半にブレグジット(英国のEU離脱)がクライマックスを迎えます。
ボリス・ジョンソン首相は現在もハード・ブレグジットやむなしという考え方をしています。しかし土壇場でアイルランド国境問題に関し譲歩が起こる可能性があります。
その反面、譲歩が起きないケースも想定すべきです。その場合、ジョンソン首相が辞任する、ないしはジョンソン首相が不信任決議により排除される可能性があります。そのシナリオではブレグジットは再び延期されると思われます。
これまで英国経済はブレグジットにまつわる不透明感をうまく回避し、概ね好調でした。しかしポンドが軟調なため例年より夏の観光シーズンに海外旅行する観光客が少し不振だったことを受けて、かねてから経営危機が噂されていた大手旅行代理店、トーマス・クックが破綻し、清算されることが決まりました。同社はブレグジットの最初の大きな犠牲者だと言えると思います。
■米中貿易戦争
米中貿易戦争は10月第2週あたりから話し合いが再開されると思います。
2020年の大統領選挙を前にトランプ大統領は何らかの進展をアピールする必要に駆られています。このため局部的で小さな合意が発表される可能性があります。
そこでは中国が米国から農産物を買い付けるのと引き換えに華為技術に対する制裁の部分的解除が発表される可能性があります。
しかしその場合でもこれまでに発表された関税の大部分はそのまま維持される可能性があります。具体的には10月15日には2500億ドル相当の中国からの輸入品に対し関税率が現行の25%から30%に引き上げられます。さらに12月15日には1600億ドル相当の中国からの輸入品に対し15%の関税が課せられます。
一方、トップ会談の可能性ですが10月31日から11月1日にかけてバンコクで開かれるアセアン・サミットでトランプ=習近平会談が実現する可能性があります。
あるいは11月16日・17日にチリのサンチアゴで開催されるアジア太平洋経済協力サミットでトランプ=習近平会談が持たれる可能性もあります。
なお中国の産業政策、知的所有権の保護問題、サイバー攻撃などに関する合意はむずかしいと思われます。
中国以外の国々との貿易交渉に目を転じると、日本、ベトナム、インド、メキシコなどに対しては米国との間で貿易に関する合意が進展することが予想されます。
しかしEUに関しては悲観的な見方が多いです。とりわけドイツ車に対する関税は避けて通れないと予想されています。
金利・企業業績を中心に投資戦略を練ること
さて、今日は国際情勢や政治ニュースについて書きましたが、投資家が忘れてはならないことは株価の決定要因として圧倒的に重要なのは金利の動向や企業業績であり、政治ニュースは二の次だという点です。
政治や国際情勢に関するニュースの大半は一過性であり、それにもかかわらず投資家は「いま自分の眼前に起きていることは一大事だ!」とその重要性を過大に評価してしまう過ちを犯します。そのような付和雷同でマーケットが乱高下した場合は大抵相場は元に戻ります。
従って皆さんも金利動向や企業業績に自分の時間の多くを割いてください。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。