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イランの地政学リスクは原油相場に大きな影響は与えない
イランの地政学リスクは
原油相場に大きな影響は与えない
2020/1/15
1月に入ってからイランのイスラム革命防衛隊クッズフォースのソレイマニ司令官が米軍の攻撃により殺される事件がありました。これに対する報復としてイランはイラクの米軍基地に弾道ミサイルを撃ち込みました。
このようにイランを巡る地政学リスクは高まっているように見えます。従ってそれが原油価格に対して与える影響について今日は考えてみたいと思います。
イランの石油産業
エネルギー関連の統計集として定評のある「BPスタティスティカル・レビュー」によるとイランは世界の原油の確認埋蔵量シェアで9.0%を占めており、ベネズエラ(17.5%)、サウジアラビア(17.2%)、カナダ(9.7%)に次いで第4位です。
一方、生産高のシェアでは5.0%を占めており、米国(16.2%)、サウジアラビア(13.0%)、ロシア(12.1%)、カナダ(5.5%)に次いで第5位です。ちなみにイランの2018年の生産高は471.5万バレルでした。
つまり原油の埋蔵量、生産高の観点からイランは重要な国だということです。
またサウジアラビア、クウェートなどの産油国の原油の大半はホルムズ海峡を経由して輸出されており、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば大きな影響が出ます。
現在の需給バランス
それを断った上で現在の世界の原油の需給バランスは大体バランスが取れていると言えます。石油輸出国機構(OPEC)によると2019年の世界の原油の需要は9980万バレルでした。大消費国である米国の経済はしっかりしており、2019年を通じて+0.7%ほど需要が伸びました。
一方世界の原油の供給を見ると9978万バレル(=年率、11月の単月の数字を年率換算)となっています。
需給バランスを決定する最大要因として近年の米国におけるシェール・オイルの増産が指摘できます。下のチャート(青)に見るように米国の生産高はグングン伸びています。
原油価格が上昇すれば米国はもっと増産する
米国のシェール産業は「採算に合うのならどんどん銀行から新規の融資が付くし、お金の工面さえつけばどれだけでも増産できる」というような体質になっています。
すると今後地政学リスクの高まりで原油価格が上昇すればそれに呼応してシェール・オイルの生産ももっと伸びることが予想されるわけです。
そのような大幅な増産が起これば供給が増え過ぎて原油価格の上昇が抑えられるでしょう。
つまり今後地政学的要因によりイランならびにホルムズ海峡を経由した原油の供給が細っても、米国が増産することで生産高のマーケットシェアがいっそう米国にシフトするだけで全体的な需給バランスは大きく崩れないと考えるのが自然なのです。
実際、年初からの原油価格の動きを見ると地政学リスクを示唆するニュースが相次いで飛び込んできたにもかかわらず逆に価格は下がっています。
これは主に米国の投資家が米国内での原油のだぶつき、すなわち在庫の状況を見ながらトレードしている関係だと思われます。
■まとめ
年初から中東で地政学リスクが高まっています。ホルムズ海峡を経由して輸出される原油が途絶えたら怖いです。しかし実際のところ需給関係を左右しているのは米国のシェールであり、もし中東から世界への原油の輸出が途絶えれば米国がもっと増産することが予想されます。つまり地政学リスクが原油相場に与える影響は限定的だと考えるべきでしょう。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。