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米国の追加経済対策法案が難航 当座は大統領令で失業保険上乗せ金を部分継続へ
米国の追加経済対策法案が難航
当座は大統領令で
失業保険上乗せ金を部分継続へ
2020/8/17
微妙なバランスの上で株式市場はここまで戻ってきた
米国の主要株価指数の中で最も投資家から注目されているのはS&P500指数です。そのS&P500指数は2月19日につけたザラバ過去最高値3393.52に肉薄するところまで戻ってきました。
これまでに要した日数は121営業日でした(約6カ月)。
2月19日にマーケットが天井を付けてから3月23日の安値まで1201.66ポイント、-35%の調整でした。その後、マーケットは+54%の反発を見たわけです。
これまでの流れを見ると「結局、二番底は無かった」ように思います。
3月23日の時点で、誰がこれほど短期間にマーケットが戻すと予想したでしょうか?
マーケットが出直った理由は@連邦準備制度理事会(FRB)が大胆な金融緩和政策を打ち出した事、A議会が巨額の景気刺激策を可決したこと、B新型コロナウイルス向けワクチンへの期待によります。
FRBのとった措置
FRBは米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レートを下のチャートに見られるように大胆に切り下げ、0から0.25%としました。
加えて量的緩和政策を再加速させ、連邦準備制度の総資産を下のチャートのように7兆ドルを超える水準まで拡大しました。
議会のとった措置
米国議会は3月に株式市場が急落した際、大急ぎで2.2兆ドルの景気支援法案を可決しました。それにより裕福層を除く国民に13万円もしくはそれ以上の支援金が配られました。
いま米国の第2四半期GDPを見ると前期比−32.9%の落ち込みでした。金額にすると4.2兆ドルです。しかし実際には上に書いたような支援金はGDPの数字に捕捉されていないのでGDPの統計だけをみて悲観するのは全体が見えていないと思います。
ただし今後も株式市場が堅調に推移するためには、追加経済対策法案が必要になります。
残念ながらこの点に関しては下院が5月に可決した3.5兆ドルの「ヒーローズ・アクト(HEROES ACT)」と題された追加経済対策法案は上院の反対で宙ぶらりんになっています。上院が示しているのは1兆ドル前後の対案であり、両者の間の溝は深いです。
トランプ大統領は前回の景気支援策で予算が組まれているけれど未だ使い切ってない予算を急遽失業保険の上乗せに充当する大統領令を出し、急場をしのぐ考えです。
しかしこの予算はすぐに使い果たしてしまうと思われるので、いずれにせよ議会が早く次の追加経済対策法案に合意することが必要になります。
新型コロナウイルス向けワクチン
投資家が米国経済の先行きに楽観的な最後の理由はワクチンに対する期待です。これに関しては幾つかのワクチン候補が第3相臨床試験に入っており、早ければ10月頃にも緊急使用承認(EUA)を米国食品医薬品局(FDA)から獲得すると見られています。
ただしワクチン開発は新薬の開発の中でもとりわけ難易度が高く、成功率は低いです。したがって第3相臨床試験の結果、全部がダメだった……というようなリスクも未だ残っていると考えるべきです。
大統領選挙の年のジンクス
過去の大統領選挙の年のS&P500指数のパフォーマンスを振り返ってみると8月までは総じて株式市場は堅調に推移することが知られています。
しかし現職の大統領が負けるシナリオでは9・10月に株式市場は波乱局面を迎えます。現在のところ現職のトランプ大統領の人気は低迷しているので、このシナリオになるリスクが高いです。
その反面、追加経済対策法案がまとまり、さらに新型コロナウイルス向けワクチン承認に対する投資家の期待が高まればトランプ大統領の人気が盛り返す可能性も未だ残っています。とくにトランプ政権はワクチン開発に関しては早期から断固とした徹底支援を打ち出し、開発のスピードアップに寄与しました。そのあたりが有権者から評価される可能性があります。
いずれにせよ9月の第2週頃までには雲行きがハッキリするものと思われます。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。