マーケット > レポート > 広瀬の外国株式・海外ETFデビュー講座 > ダウ工業株価平均指数の銘柄入れ替えとフラクショナル投資に関する雑感
ダウ工業株価平均指数の銘柄入れ替えとフラクショナル投資に関する雑感
ダウ工業株価平均指数の
銘柄入れ替えと
フラクショナル投資に関する雑感
2020/8/27
ダウ工業株価平均指数が銘柄を入れ替え
8月24日、ダウ工業株価平均指数の銘柄が入れ替えになると発表されました。同指数は1896年にウォールストリート・ジャーナルの発行人でダウジョーンズ社の創業者であるチャールズ・ダウによって始められました。「アメリカ経済をよく代表している30の優良株」を採用基準としています。当初は工業にまつわる企業が多かったのですが、いまはアメリカ経済のソフトウェア化、サービス化などの時代の流れを受け、厳密な意味での工業株の比率は小さくなっています。
誰が入れ替えを決める?
それでは誰が入れ替えを決めるのでしょうか? それはS&Pダウジョーンズ社から送られた代表3人、ならびにウォールストリート・ジャーナルから送られた代表2名、合計5名から構成される指数委員会メンバーが合議で決めます。指数委員会は定期的に会合を持ちますが、とりわけ予定に上がっている指数採用銘柄の株式分割などのコーポレート・アクションが指数に与える影響について考え、臨機応変に対応します。
アップルの株式分割
アップル(ティッカーシンボル:AAPL)はダウ工業株価平均指数に採用されている銘柄です。ダウ工業株価平均指数は、いわゆる「単純株価平均」という計算方法を用います。その関係でドル建て表示される株価の数値が大きい銘柄ほど、指数に占める比重が大きいのです。8月24日現在でアップルの株価は503.43ドルと、いわゆる「値嵩株」になっており、指数の約12%を占めています。そのアップルが今月末に4:1の株式分割を行うので、株価が4分の1(ただし株数は4倍)になります。するとアップルが指数に残ることは変わりがないのですが、影響力が4分の1に低下してしまうのです。
ダウ30入れ替えの動機
アップルの株価が切り下がることでテクノロジー株が指数に占める影響力が下がります。それを是正し、テクノロジー株の存在感を維持するために、指数委員会は8月31日付でこの際銘柄を入れ替え、セールスフォース(ティッカーシンボル:CRM)、アムジェン(ティッカーシンボル:AMGN)、ハネウェル(ティッカーシンボル:HON)を加えることにしたのです。
なお今回指数から外れる銘柄はエクソンモービル(ティッカーシンボル:XOM)、ファイザー(ティッカーシンボル:PFE)、レイセオン(ティッカーシンボル:RTX)になります。
変更前、すなわち8月24日引け後の時点での構成銘柄と比重を確認しておきましょう。
なお赤字は今月末で指数から外れる銘柄を示しています。
なぜアップルは株式分割する?
なぜアップルは株式分割する?
さて、今回ダウ工業株価平均指数の銘柄入れ替えの直接のきっかけを作ったのはアップルの株式分割です。アップルが株式分割をするのは「個人投資家にもわが社の株を買いやすくするために」という動機からです。
値嵩株ばかり
そこで我々に馴染みの深い有名企業の株価をつらつらと列挙すれば、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)は8月24日引け後の株価が3,307.46ドル、テスラ(ティッカーシンボル:TSLA)は2,014.20ドルもします。
アメリカには日本のような単元株制度(=最少売買単位が決まっていること)がありませんので1株から買えるとはいえ、株式投資を始めたばかりの若い個人投資家がいきなり30万円とか20万円とかを1銘柄に突っ込むのはリスク管理の観点からも好ましくありません。
テスラはそのような配慮から8月28日から5:1の株式分割することを発表しています。
いまアメリカの株式市場に上場されている銘柄の株価は単純平均すると150ドルくらいです。つまり個人投資家にとってだんだん買いにくいマーケットになってきていると言えるでしょう。
フラクショナル投資とは?
そこで一部の証券会社はフラクショナル投資という株式の買い方を提案しはじめています。これは1株、10株、100株…という風に株数単位で投資するのではなく、100ドルなど、自分の所持金、ないしは自分がある銘柄に投資したい金額をベースに投資するやり方です。その場合、たとえば「アマゾンを100ドル分購入したい!」となれば、あなたの保有株数は0.0302347株……という具合になるわけです。
株式売買が従来の「場立ち」という人手を介した紙と鉛筆による記帳からオンライン・トレーディングでコンピュータ化されると、分数だろうが小数だろうがデジタルの世界では全然問題無いわけで、将来フラクショナル投資はもっと盛んになると思います。
しかしそれが定着するまでは1株が大部分の投資家にとって最低取引単位になるので、今回のアップルやテスラの株式分割の決断、そしてそれが引き起こしたダウ工業株価平均指数の入れ替え…というようなことは続かざるを得ません。
今回のアップルの株式分割のニュースからもわかるように、優良株の株価はだんだん個人投資家にとって手が届きにくい水準まで上って来ています。それは若い個人投資家が、株価の絶対的数値の小さい、いわゆる低位株で我慢する例を多くし、結果としてボロ株、投機色の強い株ばかりをトレードする風潮につながりかねません。
その意味でフラクショナル投資は冷笑すべきトレンドではなく、ごく自然かつ歓迎すべき時代の流れだと思います。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。