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新型コロナワクチンが承認されても長期金利は急騰していない
新型コロナワクチンが承認されても
長期金利は急騰していない
2020/12/14
新型コロナワクチンの承認が目前に迫っている
米国食品医薬品局(FDA)は先日「ファイザーのワクチンは承認に必要な要件をすべてクリアしている」と発表しました。
これを受けて12月10日、医学界の識者たちに新型コロナワクチンのデータを吟味してもらい、その内容を討議する会合を持ちます(レポート執筆時)。政府機関の関係者だけでなく第三者の意見も聞いたうえでワクチンを承認するかどうか慎重に検討するわけです。
すでに英国やカナダでは同じワクチンが承認されていることからアメリカもこのワクチンを承認することは確実視されています(レポート執筆時)。
長期金利は余り動いていない
ワクチンが承認されると景気に対する楽観的な見方が台頭し長期金利が上昇するのでは? という観測がありました。しかし10年債利回りの動きは落ち着いています。これは私にとってやや意外な展開でした。
このことは株式バリュエーション、とりわけグロース株にとってはホッと胸を撫で下ろす展開です。
なぜならべらぼうに高いバリュエーションで取引されているグロース株ほど、突発的な金利上昇に脆いからです。
長期金利が急騰してないのは景気暗転のため
新型コロナワクチンが承認されることが濃厚になっているにもかかわらず長期金利が急騰していない理由は現在米国で新型コロナが再び猛威を振るっており1日の死者数が初めて3000人を突破したことによります。
ワクチンが承認されても一般庶民にそれが回ってくるのは2021年の5月頃になると言われています。
その間にもう一度景気は暗転することが懸念されています。
実際、そのようなスローダウンは既に非農業部門雇用者数などにも表れています。
全員参加型の相場に
長期金利が低位で安定しているということになると最近循環物色で矛先が向かっている景気循環株に加えて近年の相場を牽引してきたグロース株ももう一度見直される可能性があります。つまり「全員参加型の相場」になる可能性があるわけです。12月と1月は季節的に米国株式が堅調であることが知られていることもあり目先はマーケットに対して強気のスタンスを崩すべきでないと思います。
連邦公開市場委員会
12月15・16日に開催される次の連邦公開市場委員会(FOMC)では、現在、連邦準備制度理事会(FRB)が実施している毎月1200億ドルのペースでの資産買い入れプログラムを手直しする必要があるか討議されます。
FRBは今後の資産買い入れプログラムの変更を経済指標とリンクさせることを検討中です。
FOMC参加メンバーの多くがそろそろ市場に対して資産買い入れプログラムの変更に関するガイダンスを出した方がいいと感じています。
その反面、FRBは9月に政策金利決定フレームワークの手直しを行ったばかりです。
そこでは「インフレ率が瞬間風速で2%を超えても鷹揚に構え、慌てて利上げはしない。一定の期間を通じて、インフレ率が大体2%に収まれば良い。」という新しい、リラックスした考え方が打ち出されました。
この新しい政策金利決定フレームワークと、いま問題になっている資産買い入れプログラムの手直しに関する市場へのコミュニケーションは首尾一貫したものでなければなりません。
FOMCメンバーの中には、足下の経済の見通しがとても不透明なので、いまの段階で変更を発表するべきでないという考え方の人も居ます。
州政府や中小企業に対する一連の緊急融資プログラムは年内で終了します。だからFRBは市場に対するメッセージを改変しないほうがいいという意見もあります。
今後の選択肢として:
現在FRBが購入している債券のデュレーションをもっと長くする
債券買い入れプログラムの規模自体を拡大する
期間延長をハッキリと市場にコミュニケートする
などが検討されています。
いずれにせよ今回のFOMCでの基本メッセージは「とうぶん緩和的スタンスを維持します」というものになると思われます。
まとめ
長期金利が上昇していないことは株式の投資家にとって嬉しいサプライズです。12月・1月は例年、株式市場が堅調な時期として知られています。12月15・16日に開催されるFOMCでもFRBは緩和スタンスを維持すると見られるため今は株式に対し積極姿勢を堅持すべきだと思います。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。