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ジョー・バイデンの増税計画が株式市場に与える影響について

ジョー・バイデンの増税計画が
株式市場に与える影響について

2021/1/27

ジョー・バイデンは去年の大統領選挙戦を通じて:

1.裕福層への課税を強化する
2.法人税を引き上げる

という二つのポイントを繰り返し強調しました。そこで今日はバイデンのこの公約が実行に移される可能性、ならびにそれが株式市場に与える影響について考えてみます。

1裕福層の課税強化

ジョー・バイデンは裕福層に対する所得税の増税、キャピタルゲイン税の増税を提案しています。

まず給与所得が年間40万ドル以上ある高額所得者は通常の税金に加え12.4%の社会保障給与所得税を課す考えです。それは雇用主が50%、従業員負担が50%することになります。

ちなみに現在は給与所得13.77万ドルで社会保障給与所得税は天井が設けられています。

次に高額所得者の最高税率をトランプ減税の際に導入された37%から昔の税率である39.6%へ戻すことも提案されています。

加えて年間で100万ドルを超える収入分に関しては長期キャピタルゲイン税率を39.6%とすることも盛り込まれています。

最後に各種控除についても控除できる率を減ずることが提案されています。

■企業の課税強化
バイデンは法人税率を現行の21%から28%へ引き上げることを提案しています。

さらに1億ドル以上の利益を計上した企業について、(1)通常の法人税率を当てはめるか、(2)15%のミニマム税をあてはめるか、のどちらか大きい数字の納税義務を負わせる考えです。

さらに税率が低い国に設立された海外子会社に課す税金も、現行の10.5%を21%に引き上げる考えです。

1増税の国庫に対する増収効果とGDP、裕福層への悪影響

これら一連の増税を通じて、バイデン政権は向こう10年間で3.3兆ドルの増収を見込んでいます。

しかし増税されると景気には悪影響が出るため、実際に徴収可能な税金は2.8兆ドル程度にとどまると見られています。

また今回の増税の提案はGDP成長率を1.6%程度押し下げると見られています。さらに裕福層の税引き後所得は7.7%減少すると試算されています。

■増税法案提出のタイミング
重要なポイントとして、この増税案がすぐに提出されるわけではないということを我々は理解する必要があります。

上で見たように増税は米国景気にとってマイナス効果をもたらします。いま新型コロナで不景気になっているちょうどそのタイミングで増税すれば、それはせっかく行っている景気支援策の効果を打ち消してしまうのです。

従って増税の話を持ち出すのは新型コロナ不況から米国経済が立ち直った後であることが好ましいです。

言い直せば、まずバイデン政権が取り組むべきことはインフラストラクチャへの投資とかグリーン・テクノロジーへの投資であるべきであって、今は国庫の帳尻合わせを心配する局面ではないということです。

なおインフラストラクチャへの投資もグリーン・テクノロジーへの投資も、法案はすんなり議会を通過するとは考えにくいです。

なぜならこれらの法案はいずれも大型のものになると予想され、米国政府の財政を一層悪化させることは目に見えているからです。共和党から反発が出るのは必至です。

普通、予算に絡んだ立法では上院100議席のうち60議席の賛成が必要となります。民主党の上院での過半数はわずか51票なので、通常だと60議席には到底届きません。

ただ予算に関わる立法では、リコンシリエーション(会計調整)と呼ばれる例外的立法措置で法案を成立しやすくする手法を用いることが出来ます。

リコンシリエーションには色々な制約が付きます。たとえばその法案は「5年間の時限法案であること」などがそれです。実際、トランプ減税も時限法案でした。

もうひとつリコンシリエーションの限界としては「1年に1回しか使えない」という規定がある点です。普通、リコンシリエーションは国家予算の交渉に使われることが多いので、「一発限りの貴重な弾」をどの場面で使うか? ということは慎重に検討されるべき事柄です。

ジャネット・イエレン財務長官は、今は未だ景気支援に注力すべき局面だという考えを持っています。だからバイデン政権がいきなり増税に向けて動き出すというのは考えにくいです。

3株式市場への影響

バイデンの増税策はもし実行に移されれば明らかに株式市場にとってネガティブです。裕福層は増税が成立しそうになれば早目に実現益を確保するでしょうし、企業収益も法人税率UPでざっとみて1割くらい減ると予想されるからです。

したがってバイデン増税の話題が新聞を賑わせ始めたら警戒する必要があるでしょう。

しかし2021年中にそれが動き出す可能性は低いと思われます。その理由は、いま米国がやらなければいけないことは景気の修復なのであり、政府の財政の修復ではないからです。

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著者

広瀬 隆雄(ひろせたかお)

コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター

グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。

広瀬 隆雄

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