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何を買っても儲からない難しい相場はなぜ起こる?
何を買っても儲からない難しい相場はなぜ起こる?
2021/3/29
何を買っても儲からない難しい相場
今は何を買っても儲からない難しい相場だと感じる投資家が多いです。
GAFAM(アルファベット、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)は半年以上レンジ内をウロウロするような商状が続いています。
ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)に代表されるハイパー・グロース株も急落しました。
去年新規株式公開(IPO)したての若い企業は軒並み新安値圏にあり底入れの手掛かりが掴めません。
EV、グリーン、宇宙、ゲノムなどのエキサイティングなテーマ株も冴えません。
SPAC(特別買収目的会社)も参入企業が多過ぎて飽和状態です。
ロビンフッダーと呼ばれる個人投資家たちに人気だった銘柄の多くもイナゴタワーが出来てしまっています。
そればかりか素材、工業、消費循環、海運などグロース株の不調を尻目にこのところブイブイ値を伸ばしてきた地味な銘柄ですらチャートのカタチが崩れ始めています。
■マルチプル・コントラクションが始まった
なぜ今は何を買っても儲からないのでしょうか? それに対するベストの説明は「マルチプル・コントラクションが起きているから」ということになります。
マルチプルとはPEマルチプル、すなわちPE倍率を指します。PEはPERを端折った言い方で株価収益率(Price Earnings Ratio)を指します。
株価収益率は下の数式で計算できます:
株価 ÷ 一株当たり利益 = 株価収益率
一般に急成長株は高いPERで取引されることが多く、低成長の退屈な株はPERが低いです。
ある銘柄のPERがどんどん上る現象を「マルチプル・エクスパンション」、すなわちPER拡大と呼び、逆にある銘柄のPERがどんどん下がる現象を「マルチプル・コントラクション」、すなわちPER縮小と呼びます。
いまは典型的なマルチプル・コントラクション局面です。だからどの株を買っても儲かる気がしないのです。
マルチプル・コントラクション局面では相場の難易度が格段に上ります。エキサイティングな投資テーマに乗っかり、気合一発のようなノリで投資しても儲かりません。
皮肉なことに米国企業は空前の利益成長中
ここで興味深いのはS&P500指数の一株当たり利益(EPS)はいま過去に例を見ない素晴らしいスピードで伸びているということです。
去年から今年にかけてのEPS成長率は25%ですし、今年から来年にかけてのそれは15%です。だから企業収益に問題があるのではないことを先ず理解してください。むしろ利益が伸びているのに株価が騰がらなくなっていることが問題なのです。
普通、そのような株価の伸び悩みが起こる時は投資家は長期金利の動向を気にしています。10年債利回りは去年の夏の0.50%から先週1.7%を超える水準まで上昇しました。絶対値としての10年債金利はまだ小さい数字ですが上昇率としてはとても急激でした。
経済も絶好調だが……
一方、米国経済の方もいまは絶好調です。下は3月17日の連邦公開市場委員会(FOMC)の際に示された経済予想サマリー(SEP)のデータです。
今年のGDP成長率が6.5%と高いことに注目してください。これは過去37年で最も高い成長率です。そしていま新型コロナワクチンの接種は佳境を迎えており、瞬間風速ではいまが成長のピークのはずです。
しかし素材や工業などのシクリカル(景気敏感)株はチャートのカタチが崩れ始めています。これはどうしてか? と言えばそれらの株は景気回復局面の前半で最も株価が上昇しやすく、景気拡大の後半にさしかかるとパフォーマンスが劣後しはじめることで知られているからです。
言い換えれば投資家の注意は2021年から2022年以降へと移りはじめているのです。そこで上のチャートをもう一度良く見ると2022年、2023年のGDP成長率はそれぞれ3.3%、2.2%であり成長率は漸減してゆくことが読み取れます。
■セクター・ローテーション
これをセクター・ローテーションの観点から考えればこのところ強かった灰色や黄色のセクターが、今後景気鈍化、金利上昇の鎮静化で青色の方向へとシフトする可能性があることを示唆しています。
■まとめ
今は何を買っても儲からないと感じる投資家が多いです。相場の難易度が上っている理由は企業収益や経済に問題があるのではなく、マルチプル・コントラクションが起きているからです。マーケットはいずれ経済がピークアウトし減速へ向かう事を今織り込もうとしているのです。したがって消費安定株、ヘルスケア株などにも今後はポートフォリオをシフトさせる必要があります。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。