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地政学リスクと株式市場
地政学リスクと株式市場
2022/11/29
ゼロコロナ対策への抗議
中国の各地でゼロコロナ対策に対する抗議デモが起こっており地政学リスクに対して投資家が敏感になっています。
結論から言えば地政学リスクは余り重要ではありません。しかし念のために過去の事例を検証しておきましょう。
1989年を振り返る
1989年6月4日は天安門事件が起きた日です。下の1989年のS&P500指数のチャートからもわかる通り、この日のアメリカの株式市場は特に大きく反応しませんでした。 トには数は少ないですが何本かETF(上場投資信託)が出ています。
なお1989年11月9日はベルリンの壁崩壊の日です。この日も米国市場は小動きでした。
その前、10月13日にS&P500指数が−6.12%急落しているのは、いわゆる「13日の金曜日ミニ・クラッシュ」と呼ばれる事件が原因です。あの当時はレバレッジド・バイアウトによる株式の非公開化が流行していたのですが、それを試みたユナイテッド航空がLBOに失敗し市場がそれを嫌気したわけです。
世界を揺るがした2つの大事件に比べればユナイテッド航空のLBO失敗を覚えている市場参加者など殆ど居ないと思いますが、上のチャートからもわかるように当時はそちらの方が一大事だったというわけです。
■今回のデモ行進が持つ意味
さて、今回の中国での抗議行動はiPhoneを組み立てている下請け工場における一部従業員のロックダウン、待機中の賃金の不払いなどが原因だと言われています。そのニュースがウルムチや上海に飛び火し、各地でのデモに発展したわけです。
中国では高齢者のワクチン接種が遅れているためしっかりとロックダウンしなければ感染者が広がるリスクがあります。これは高齢者ほどワクチン接種が徹底している日本とは対照的です。ロックダウンを緩めると感染が手に負えなくなるリスクがある以上、政府は断固としてデモを抑え込みゼロコロナの方針を堅持すると予想されます。
ロックダウンは生産や消費を停滞させます。従って中国経済にはダウンサイドリスクがあると考えて良いでしょう。
折から世界の経済はここへきて急速に冷え込む様相を呈しています。したがって連邦準備制度理事会(FRB)は金融引締めのペースを少し減速させると思います。具体的には次の12月14日の連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げ幅がこれまでの0.75%から0.50%へと縮小されると思われます。株式市場はこれを好感するはずです。
まとめ
中国のゼロコロナ政策が試練の時を迎えています。ニュースの見出しをみると不安を覚える投資家も出てくると思いますが過去に同様のことが起きた際には株式市場はそれほど反応しませんでした。
今回はむしろ中国におけるロックダウンが長引くことでFRBが利上げ幅の縮小に着手しやすくなるという側面があるのでむしろ株式市場にはプラスに働くかも知れません。過度に神経質になる必要はありません。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。