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ソフトランディング達成宣言は時期尚早
ソフトランディング達成宣言は時期尚早
2023/7/19
ソフトランディングの声が高まっている
7月に発表された二つの注目されている経済指標がいずれも株式にとって良い内容だった為、「米国経済はソフトランディングするのでは?」という声が高まっています。
まず7月7日(金)に発表された6月の非農業部門雇用者数は予想22.5万人に対して20.9万人でした。失業率は予想に一致する3.6%でした。これらは「景気は過熱してないけれど…弱くも無い」と解釈され、市場参加者に好意的に受け止められました。
つぎに7月12日(水)に発表された6月の消費者物価指数は予想3.1%に対し結果3.0%とインフレがかなり収まってきていることを示唆する内容でした。コア指数は予想5.0%に対し結果4.8%でした。
これらの発表を受け「米国経済はソフトランディングできるのでは?」という楽観的観測が増えています。
ソフトランディングとは景気を殺すことなくインフレを抑え込むことに成功することを指します。
勝利宣言を出すには未だ早い
しかし注意深く最近の経済統計を見るとソフトランディングに勝利宣言を出すのは未だ早いと思います。
それと言うのも消費者物価の沈静化の主な原因はエネルギー価格の下落であり、サービスや家賃の価格は下がっていないからです。そして今、エネルギーの価格は逆に上昇する気配を見せています。
サービスや家賃価格が下がらないひとつの理由は平均時給の伸びが未だ高水準だからです。
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は賃金インフレをとりわけ警戒しています。そのことは今後、利上げが打ち止めになった後も米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レートは高止まりする可能性が高いことを示唆しています。
住宅ローン金利の上昇を嫌気して鈍化するかに見えた住宅着工も、ここへきて再加速する様相を呈してきています。
こうしたことを踏まえ、一部のFRBの高官は「あと2回利上げが必要!」ということを唱え始めています。
してみれば「来年早々、つまり3月くらいからいよいよ利下げが開始される」と言う観測は、やや楽観的過ぎるのではないでしょうか?
ウクライナ戦争は長引く
先週行われた北大西洋条約機構(NATO)サミットではウクライナをNATOメンバーに招き入れる具体的なタイムスケジュールは示されませんでした。さらに既に行われているウクライナへの経済・武器支援以上の追加的支援に関しても具体的には何も出ませんでした。
そのことは膠着状態に陥っているウクライナ戦争が長引くことを示唆しますし、ロシアとしても現状を維持するインセンティブが高まったことを意味します。
2022年2月にウクライナ戦争が始まった直後は主にロシアに依存していた欧州のエネルギー供給に対する不安が極端に高まりましたが、その後、欧州がエネルギーの買い付け先を急いで分散したため、いまはエネルギーの安全保障を心配する声は消えています。しかしこれは暖冬などの様々なラッキーな要因が重なって実現したことで世界の景気がそれなりに良いのなら再びエネルギー価格は騰勢を強めてゆくことが予想されます。
■景気敏感株に妙味
これまでにわかったことをまとめるとインフレ抑制策で殺がれると思われていた景気は、どっこい堅調だということです。
それならここは素直に景気が強いときに買われやすい、素材やエネルギー株を安値で拾うという投資戦略が有効なのではないでしょうか? いまそれらのセクターはとても割安に放置されています。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。