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ジャクソンホール経済シンポジウムの結果と株式市場
ジャクソンホール経済シンポジウムの結果と株式市場
2023/8/29
8月25日(金)、連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長がジャクソンホール経済シンポジウムでスピーチしました。
パウエル議長は米国経済が予想以上にしっかりしていることを認めました。
今後の政策金利の手綱さばきに関しては「慎重に進める」という表現を二度繰り返しました。
これは利上げの緊急性が薄れたことを匂わせています。
それと同時に利下げに関しても直ぐに動く気が無いことを示唆しています。
つまりじっくり見極め、どうしても必要と判断した場合のみ、もう一回、小さな利上げをする場合があるというニュアンスでした。
市場参加者は9月20日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げは無いということで意見の一致を見ています。
その次の11月1日のFOMCでは今年最後、そして今回の利上げサイクルで最後の、0.25%の利上げが実施され、フェデラルファンズ・レートは5.50〜5.75%になるというシナリオに傾いています。
労働市場の不均衡はかなり是正されたという見解が示されました。これはわかりやすい言い方に直せば求人が多い一方で求職者が少ない、アンバランスな状況が改善したという意味です。つまり賃上げ圧力は今後弱まる可能性があるのです。
賃金インフレこそFRBが最も恐れているシナリオなので、それが改善に向かうということは慌てて利上げする必要が薄れたことに他なりません。
パウエル議長は金融コンディションがタイト化したという認識を持っています。金融コンディションとは企業のおカネの借りやすさを指し、それがタイトな状況とは平たく言えばおカネが借りにくくなっているという意味です。
利上げはおカネを借りにくくします。いまはこのようなちょっと引き締め気味の状態を維持し、じゅうぶんにインフレの息の根を止めたいという考えをFRBは持っているのです。
さて、株式市場に目を転じると今年は大型ハイテク企業7社(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ、テスラ、エヌビディア)の株価が堅調な一方で、それ以外の大部分の銘柄は出遅れてきました。とりわけ小型株の動きが冴えません。
普通、景気拡大の初期の段階では小型株が面白いように値を飛ばします。いま小型株が冴えないということは米国経済が直ちに成長局面に入るという風には市場参加者は見ていないことを暗示しています。むしろ折からの高金利で、いつ経済が息切れするか? をハラハラしながら見守っている状況と言えます。
このような我慢比べの展開は過去の米国経済が何度も経験してきたことです。そしてそういう局面は意外に長く続くものです。そういう状況では金利は高いので株式バリュエーションは伸びにくいです。また企業業績も失速する寸前ですから業績相場も期待できません。
何かの拍子に市場の均衡が崩れるリスクが比較的高い状態だと形容できると思います。
9月は例年、相場のムードが一変しやすい月として知られています。上に述べてきたようなことを踏まえると、アップサイドよりダウンサイド・リスクの方が大きいです。
したがってしばらくは無理をせず、キャッシュポジションを高め、様子見を決め込むのが良いと思います。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。