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「ビッグ5」のAIへの取り組み
「ビッグ5」のAIへの取り組み
2024/5/28
マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)、アップル(ティッカーシンボル:AAPL)、アルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)、メタ・プラットフォームズ(ティッカーシンボル:META)の5社をアメリカでは「ビッグ5」と呼びます。今日はそれら企業のAI事業への取り組みについて解説します。
まずアップルを除く4社はいずれも「AIファクトリー」と呼ばれる、次世代データセンターの建設に積極的に取り組んでいます。これら4社の設備投資額を合計すれば1年間で2000億ドル(*)にものぼる巨額な投資です。
(*)=AI以外の出費も含む
従来のデータセンターと「AIファクトリー」の違いは何か? といえば、それはAIがユーザーの質問に対し回答を示すだけでなく、利用料金をトークンで計測、請求できる機能を「AIファクトリー」は具備している点です。その機能の追加はデータセンターの設計を複雑にしますが自社が構築した「AIファクトリー」の余ったキャパシティをAIをベースにサービス構築することを目論んでいるスタートアップ企業などに貸し出すことで直ぐにマネタイズできるという利点があります。
アマゾンのAWS、マイクロソフトのアジュール、グーグルのグーグルクラウドはこのようなAI関連のユーザーに貸し出すことで売上高を伸ばすことができます。これら各社の四半期決算でデータセンター売上高がどうなっている? ということは投資家の最大の関心事のひとつであり、当分の間、AIをベースにビジネスを構築しようとしている顧客からの需要でデータセンター売上高は好調に推移すると予想されます。
メタの場合、これまでは主にAIを自社サービスの改善のために使用してきましたが、「ラマ3」からは外部へもそのキャパシティを貸し出す予定です。
唯一、アップルだけがこの競争に参加していません。アップルはむしろiPhoneに代表されるコンシュマー・デバイスの中にAIを埋め込むことを目指しています。つまり上記の各社が中央集権的なAIというビジョンを持っているのに対しアップルは分散、ないしは拡散したコンピューティングを考えているのです。
アップルがそうする理由は半導体の性能がどんどん向上すると普通の人が日常に使うAIのタスクの殆どが、手元のデバイスで、インターネットに接続されてなくても大体こなせてしまうということによります。
コンピュータの歴史はメインフレーム→ミニコンピュータ→パーソナルコンピュータ→スマートフォンという風にどんどん小さく、分散されてゆく歴史でした。実際、iPhoneの処理能力は1960年代のメインフレーム・コンピュータのベストセラーIBM360を軽く上回ります。たとえばアップルがオープンAIと業務提携しChatGPTに似たパーソナル・アシスタントをアップルのM4という半導体に埋め込むというのは荒唐無稽なシナリオではないと思います。
その絡みでは、すでにマイクロソフトは「コパイロット+PC」というコンセプトを打ち出しています。
別の表現をすればこれまでは「ユーザーがクラウドを通じてAIに自分の情報をアップロードする」という行為がAIの使い出を飛躍的に向上するカギを握っていたけれど、ユーザーはなかなかそれをやりたがらないことが判明したということです。
だから逆にAIのほうがPCやiPhoneのようなデバイスのレベルまで下りてきて、すでにそのデバイスの中に記憶されている過去の作業やデータを呼び出しやすいようにするという使い方です。これはパワフルな価値提案です。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。