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AIへの先行投資と需要のギャップについて
AIへの先行投資と需要のギャップについて
2024/6/25
大規模言語モデルは誰が構築している?
いまAIの大規模言語モデル(LLM)を積極的に構築しているのはマイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)、アマゾン(ティッカーシンボル;AMZN)、アルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)、メタ・プラットフォームズ(ティッカーシンボル:META)などのいわゆるハイパースケーラーです。彼らはキャッシュリッチなので自前で巨額の先行投資を実行しています。
■誰がハイパースケーラーのデータセンターを借りている?
そのようにして構築したLLMや「AIファクトリー」と呼ばれるデータセンターのキャパシティはいま雨後の筍のようにどんどん登場しているコヘアー、AI21ラボ、アンソロピック、スタビリティAI、キャラクター・ドットAIなどのAIスタートアップ企業に貸し出されています。
■誰がAIスタートアップ企業に出資している?
それらのAIスタートアップ企業はもっぱらベンチャーキャピタルから出資を得て独自の基盤モデルを構築しています。一例としてコヘアーの場合、イノヴァ・キャピタル、インデックス・ベンチャーズ、シュローダー・キャピタルなどから出資を受けています。
なぜ企業は基盤モデルの選定を急がない?
ただし、いま開発中の基盤モデルの大半は試作機、もしくは社内で使用するためのツールに過ぎず、外部顧客へのサービス提供はオープンAIなど一部の例外を除き未だ殆ど始まっていません。
AIスタートアップ企業の顧客となる一般企業の場合、いま急いでどのAIを採用するか決めなくてもあと1~2年すれば価格はもっと安くなるし、どのプラットフォームがより優れている? という勝者もハッキリするのでリスクが低くなります。このため企業のAI採用は2~3年先になると考えるのが自然です。
■莫大な先行投資と需要のギャップ
その場合、現在行われている莫大な先行投資と、それが売上高につながるタイミングではギャップが生じます。このギャップを株式市場が乗り切れるか? が問題になるのです。
チャットGPT、パープレクシティ、ミッドジャーニーなどの消費者向けアプリケーションが素晴らしい勢いで利用されているのと対象的に企業での基盤モデル採用のニュースがとても少ないのはこのためです。
■ドットコムバブルで登場した企業の9割は消えた
しかも現在基盤モデルを構築している企業の9割は失敗し、姿を消すと言われています。同様のことはドットコムバブルの時にも観察されました。
ベンチャーキャピタル的には1割だけが成功すればそれでいいのかもしれません。しかし上場企業の投資家の場合、9割の企業が失敗するとなるとやっぱりダメージを受けると思います。
投資家は何に注目すべきか?
AIバブルに異変が出るとすれば、2つのシナリオが考えられます。
まずマイクロソフトのアジュール、アマゾンのAWS、アルファベットのグーグル・クラウドなどのセグメント売上高前年同期比成長率が前期の実績よりダウンした場合、投資家はそれを嫌気します。
次にエヌビディア(ティッカーシンボル:NVDA)が「良い決算」を出せなかった場合、投資家の心中は穏やかではなくなるでしょう。
いまのところそのような兆候は一切、見られていません。
しかしだからといって「絶対安泰だ!」と決めつけるわけにはゆきません。次回の各社決算ではこの点を特に精査すべきです。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。