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利下げ=買い!とは限らない
利下げ=買い!とは限らない
2024/7/16
7月11日に発表された米国の6月消費者物価指数(前年同月比)は3.0%でした。コンセンサス予想は3.1%、5月は3.3%でした。おなじくコア指数は3.3%でした。コンセンサス予想、5月はそれぞれ3.4%でした。
今回の消費者物価指数の発表が連邦準備制度理事会(FRB)にとって利下げへの道を開くものであったにもかかわらず、米国株は反落しました。
今日は、なぜ利下げ=買い!とは限らないかを説明したいと思います。
過去2回の景気後退のエピソードを実際に振り返ってみましょう。
リーマンショックの時、米国を代表する株価指数であるS&P500指数は2007年10月の高値1576から2009年3月の安値667まで-57%の大きな下げになりました。
連邦準備制度理事会(FRB)はサブプライムローンの問題を見るや機敏に利下げに転じ、政策金利であるフェデラルファンズ・レートを5.25%から0%へ落としました。それにもかかわらず、その過程で投資家は大損したのです。
新型コロナが誘発した世界的不況のときは2020年2月28日のS&P500指数3393の高値から3月31日の安値2292まで-32%の急落を演じました。
当時FRBは5ヶ月にわたり政策金利を1.55%で横ばいにキープしており、その意味で動きの少なさは現在の状況(=5.25%で1年間経過)と酷似していますが、経済が心臓発作を起こすと見るや、FRBはすかさず政策金利をゼロに下げました。だから決して中央銀行が手をこまねいていたとは批判できないと思います。
むしろ「利下げしても焼け石に水だ!」という場面が、実際にあったことを投資家は心に銘記すべきなのです。
現在、アメリカの投資家は「米国経済は強い。ソフトランディングがメインシナリオだ!」ということを強く織り込んでいます。
確かに米国経済は強いです。
しかしGDPを押し上げているひとつの理由は、AIブームで米国各地に巨大なデータセンターが建設されている先行投資が原因で、それを除くと既に米国の景気には陰りが見えているのです。
するとAIブームが一巡すれば俄に米国経済の足腰の弱さが露呈するリスクもあるということです。
もちろん、AIブームがいますぐに終わると性急にきめつけることは出来ません。実際、ブームはしばらく続くと考えるのが自然だと思います。
その場合でも、S&P500指数の株価収益率(PER)は現在21倍であり、過去10年の平均の17.9倍よりだいぶ割高で買われています。
言い直せばバリュエーション面で米国株に買い理由は乏しいのです。
今回のマーケットの変調は、あまりに「買い安心」になりすぎた投資家の慢心が原因であり、もっとリスクに対してピリピリした態度が必要だということです。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。