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パウエル議長はどのようなレガシーを残すか正念場を迎えている
パウエル議長はどのようなレガシーを残すか正念場を迎えている
2024/11/13
トランプ次期大統領は「パウエルFRB議長には辞めてもらう!」と明言しています。
アメリカ合衆国では、大統領が連邦準備制度理事会(FRB)の議長を直接罷免することは難しいです。
連邦準備制度の独立性を守るために、FRB議長は「正当な理由」がない限り解任されることはないからです。
FRB議長は14年の任期を持つ理事の一人であり、議長としての任期は4年ですが、大統領が任命した議長を解任するためには具体的な理由が必要です。
もし大統領がFRB議長を解任しようとした場合、その行動が法律に合致しているかどうかが争点となり、最終的には裁判所、特に最高裁判所での判断が必要になる可能性があります。
過去にも複数のアメリカ大統領が金利政策を巡ってFRB議長に圧力をかけた事例があります。
ウィリアム・マーチン・ジュニアがFRB議長を務めていた期間(1951年〜1970年)、大統領からの圧力が存在しました。特に1965年、リンドン・ジョンソン大統領はマーチン議長をテキサス州の自宅牧場に招き、FRBの利上げ決定に対して強い不満を表明しました。ジョンソン大統領は、経済成長を促進するために低金利を望んでおり、FRBの引き締め政策に反対していました。このような政治的圧力にもかかわらず、マーチン議長はFRBの独立性を守り、物価安定と健全な経済成長を目指す金融政策を推進しました。
1970年代に、ニクソン大統領は再選のために経済を加速させたいと考えており、FRB議長のアーサー・バーンズに対して金利を下げるよう圧力をかけました。バーンズ議長はニクソン大統領からの圧力に屈し緩和的な姿勢をとりニクソンが選挙に有利になるようにしました。後々米国が手のつけられないインフレになった遠因はバーンズにあると考えられています。
1980年代初頭、ボルカー議長はインフレを抑えるために高金利政策を行いましたが、これにより一時的に経済が冷え込みました。レーガン政権内では不満が広がり、間接的に圧力をかけました。
トランプ大統領は前回大統領だった時代にパウエル議長を批判し、金利を引き下げるよう強い圧力をかけました。
さて、今回ですが、ジェローム・パウエルFRB議長は、新型コロナ後の経済再開の局面で高インフレという課題に直面しました。しかし相次ぐ利上げでインフレ率を低下させることに成功しました。現在、トランプ氏の側近らはFRBの独立性を弱める計画案を作成していると報じられています。今後の政策運営において、政治的圧力に屈することは再びインフレを招き、FRBの独立性や議長自身の評価に悪影響を及ぼす可能性があります。
パウエル議長がFRBの独立性を堅持し、政治的圧力に屈することなく、経済の安定と物価の安定を目指すことが、長期的な経済の健全性とパウエル自身のレガシーを守る上で重要です。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。