9月24日に発表された、アプライド・マテリアルズと東京エレクトロンの経営統合は数字以上に大きなインパクトがある。
背景には、デジタル家電を取り巻く状況が過去10年間と大きく変わってきていることが挙げられる。
テクノロジー業界での更なる再編が今後の注目点となるだろう。
9月24日夜(日本時間)、アプライド・マテリアルズ(AMAT)と東京エレクトロン(8035)の経営統合が発表された。半導体製造装置の業界1位と3位が合併するというテクノロジー業界にとってかなり大きなニュースである。この発表を受け、 24日のアプライド・マテリアルズの終値は前日比+9%、25日の東京エレクトロンの終値は前日比+13%で引けており、マーケットに好感されたことがわかる。
近年は利益水準の落ち込みに苦しんではいたとは言え、両社とも非常に健全なバランスシートを持ち、まだまだ体力的に余裕はあったはずだ。では、なぜこのタイミングでの合併となったのだろうか。
左の図は、アプライド・マテリアルズと東京エレクトロンの営業利益率の推移である。サプライチェーンの川上に遡れば遡るほど在庫調整の影響を受けやすくなるため利益率は乱高下しやすく、特にここ数年は収益性が安定していないことがわかる。これは、業界再編を考える上での一つの材料となったであろう。
右の図は、半導体製造装置業界の上位10社における当該部分の売上を比較したものである(なお、売上を正確に切り分けられない企業がある、また、会社によっては決算月がずれているなどするため、業界構造を把握する参考程度にして頂ければ幸いである)。
業界全体の売上から見ると2012年のシェアは1位のアプライド・マテリアルズが14%、3位の東京エレクトロンは11%であり(ガートナー社調べ)、同程度の規模の売上を持つメーカーも多く独占的なプレーヤーが存在しない業界に見える。ただし実際のところ、半導体製造装置業界は細かい工程に分かれておりそれぞれの工程では淘汰が進んでいるため、この2社の合併は数字以上のインパクトを持つことになる。
アプライド・マテリアルズは何でも手掛ける総合メーカーで幅広い分野で高いシェアを持っている。一方東京エレクトロンは、エッチングと呼ばれる工程に特に強い。お互いの製品ラインアップに重複が少ない点が合併を後押しした背景の一つと考えられるだろう。
次に重要なのは、右側の図において、前期の売上が前々期の売上を下回っている点である。在庫調整の影響が大きい業界のため2-3年の動向だけで判断を下すのは早計かもしれない。しかし、半導体の今後の需要動向を楽観視することは難しいのもまた事実である。
その理由は、右図で示したように、ここ10年ほど半導体需要拡大のけん引役となってきた液晶テレビ、パソコン、デジタルカメラなどのデジタル家電需要が伸び悩んでいるためである。
ここで、その背景として考えられるのは、以下の2つである。
@ 機能面での進化が一巡し、家庭にも十分普及したため、現在持っている機種をできるだけ長く使おうという意思が働いている (買い替えサイクルの長期化)。
A スマートフォンやタブレットなどの高性能端末による機能の代替が進んでいる。
どちらも十分にありえる話だが、特に考慮すべきはAの影響である。
過去10年間を 「テレビ、音楽プレーヤー、カメラなどの製品がアナログからデジタルに置き換わり、デジタル家電が世界中で一気に普及した時代」 だとすれば、今後数年間は 「スマートフォンなどの高性能端末の登場により、複数のデジタル家電の役割を一台である程度まではこなせるようになり、その結果として、一人当たりのデジタル家電保有台数が減少に向かう時代」 となる可能性が高いからだ。
要するに、デジタル家電を取り巻く状況はこれまでと全く変わりつつあることを、今回発表された二社の経営統合は改めて教えてくれているのだ。
最後に今後についてだが、(1)まず今回の経営統合が、各国の独占禁止法を無事にクリアできるか(この点では中国がカギを握る存在となる)、そして(2)テクノロジー業界全体でさらなる再編が起こり得るのか、が注目点となる。その際には、経営判断が迅速な米国企業と、豊富なキャッシュを持つ日本企業が再び主役となる可能性が高いだろう。
(ご参考)
<米国株式>
ティッカー |
銘柄(英語) |
事業内容 |
市場 |
---|---|---|---|
AMAT |
半導体製造装置の最大手 |
NASDAQ |
|
LRCX |
IC製造用の半導体処理装置メーカー |
NASDAQ |
|
KLAC |
半導体検査装置メーカー |
NASDAQ |
<日本株式>
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