米ツイッター社の新規株式公開申請書類が公開された。赤字決算続きであることへの失望も聞かれる。
しかし、ツイッターはまだ会社としては若く未完成な段階。将来どのような姿になるかをイメージできるかが大切だ。
売上を伸ばす要素は十分にありそうだ。アメリカ国外での競争戦略がカギとなるだろう。
米ツイッター社の新規株式公開(IPO)申請書類が3日、米証券取引委員会(SEC)を通じ公開された。このことにより、今まではベールに包まれていた会社の概要がようやく明らかになったわけだが、「なーんだ、赤字じゃん。」というのが一般的な反応だったように思う。昨年上場したフェイスブックは、上場申請時点ですでに黒字を計上していただけに、なおさら意外な印象をお持ちの方も多いだろう。
事業内容などを考えると、ツイッターがフェイスブックと直接的に比較されてしまうのは仕方がなく、その結果として、ユーザー数、売上、財務内容などあらゆる面で小さく感じることは否定できない。ただ、ここでまず理解しておきたいのは、ツイッターは会社としてはまだ若く未完成な段階にあるという点だ。つまり、株式投資という観点に限って言えば、「今でしょ!」ではなくて(古い)、将来的にツイッターが会社として成長した時に、どのような姿になっているかをイメージできるかがポイントとなるだろう。
例えるなら、小学生を見てどのような大人になるのかを想像するようなもので、それくらい、成長期にある会社の将来を予想することは難しい(成長期でなくても難しいが…)。そこで、申請書類の中から今後を予想するうえでの物差しとなりそうな興味深いデータを拾ってみたので、ぜひご一読を頂きたい。
図1はツイッターの四半期業績だが、既に報じられたように営業赤字の状態が続いている。売上高が急速に伸びているにも関わらず赤字が一向に無くならない理由は明らかで、研究開発費が売上同様のペースで拡大し続けているからである。一般論で言えば、よほど収益性が高くない限りは売上の40‐50%を研究開発に投じている会社が黒字化することは不可能だ。ただ、図1の売上高(青)、営業損失(黄)、研究開発費(緑)の大きさを見ればわかるように、黒字化できるかどうかだけが論点なのであれば、研究開発費次第でどうにでもなりそうだ。要するに、ツイッターは目先の黒字化を追求していない、ということが理解できる。
そこで、図2においてネット関連企業の研究開発費率を比較した。グーグル以外は上場が2011年以降の比較的若い会社ばかりだが、ここで見てもわかるように、ツイッターの研究開発費率はネット関連企業の中でもかなり高い部類に入ることがわかる。研究開発費率が高いというのは、売上がまだ小さいということの裏返しでもある。つまりツイッターの経営陣は、自分たちにはまだまだ売上を伸ばせるポテンシャルがあると判断しているのだろう。図3では、同じ6社の売上高推移を比べているが(2011年1-3月期の売上を100とおいている)、ツイッターの売上の伸びが突出しており、まだ会社として機能し始めたばかりの段階にあることがここからもうかがえる。
では、ツイッターの売上はどこまで拡大すると想定すればよいのだろうか。
当社の売上の87%は広告収入だが(13年4-6月期時点)、その広告収入を(月間アクティブユーザー数) × (1人あたり広告収入)に分解して考察してみたい。
図4は、ツイッターの月間アクティブユーザーの四半期ごとの推移である。ここから読み取れるのは、(1)米国外のユーザーが大半を占めるということと、(2)米国外のユーザーの成長率は一貫して米国内のユーザーの成長率を上回っているということだ。今後、モバイルの普及に支えられて、とりわけ新興国においてインターネット利用者が増え続けることを踏まえると、現時点で既に米国外で確固たる地位を築いていることは好ましく感じられるだろう。
ただしその一方で、ツイッター自身が言及しているように、中国の微博(ウェイボー)、日本のLINEなどの強力なライバルとの競合関係を考慮に入れる必要もありそうだ。2013年4-6月期の月間アクティブユーザー数はツイッターが218百万人、フェイスブックが1,150百万人である。サービス内容の違いや、競争関係を考慮に入れつつ、ツイッターのユーザー数がフェイスブックの規模にどれだけ迫れるかを考えてみるのが良いだろう。
次に図5だが、ツイッターとフェイスブックの2社について、月間アクティブユーザー1人あたりの広告収入がどのように変化してきたか、四半期毎に並べてみたものである。双方のサービスを利用されている方であれば既にご存じだと思うが、ツイッター上の広告展開はまだまだ控えめな印象を受ける。ツイッターは、ユーザー数を増やすため、おそらくは意図的に広告展開を控えてきたのではないだろうか。そしてその結果が、そのまま現時点でのフェイスブックとの1人あたり広告収入の差となって表れていると考えられる。
ただし、この1人あたり広告収入についても成長のポテンシャルは十分に感じられる。図6をご覧頂くとわかるように、2013年4-6月期において、月間アクティブユーザー数に占める米国の依存度は22.5%だが、広告収入全体に占める米国のそれは75.2%だ。言い換えると、米国の1人あたり広告収入は、海外の約10倍ということになる。これは逆に言えば、アメリカ国外については一人あたり広告収入を拡大させる余地が残っているという意味だ。現時点では、ツイッターのアクティブユーザー1人あたりの広告収入はフェイスブックの40%程度だが、今後これがどこまで改善するかを意識すると良いのではないだろうか。
以上から、ツイッターの売上の殆どを占める広告収入について、「ユーザー数」 および 「1人あたり広告収入」 の双方に成長の余地があり、そのカギを握っているのはアメリカ国外での競争戦略であるという仮説を得ることができた。現在ツイッターに出資しているベンチャーキャピタリスト達は、今回の上場に際しツイッター株を売却する予定はないと報じられている。これはフェイスブックの上場時とは対照的な動きであり、出資者達が、ツイッターの中期的な成長に自信を持っていることの表れなのだろう。
現時点で公募価格が発表されておらず売り買いの判断を示すことは困難だが、これらの情報を整理しつつ、続報を楽しみに待つこととしたい。
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