M&A活況で米銀行に注目!! |
米国企業のM&A(合併・買収)が活発です。企業が他の企業を合併・買収するM&Aにおいては通常、当事者それぞれに投資銀行がアドバイザーとして就き、財務や法務に関するアドバイスを行います。これにより、投資銀行には取扱金額に応じてアドバイス収入が発生します。また、M&Aに際して証券の発行、既存証券の売買、資金の貸付などが付随して発生することも多く、M&Aの活況は銀行の収益を押し上げると期待されます。
今回は、M&Aの増加が業績の上振れ要因になると期待できる米銀行をご紹介します。現在、米大手銀行の予想PERは10〜13倍にとどまっており、市場平均(S&P500指数)の17倍台を大きく下回っています。足もとの業績にポジティブな動きがあると予想PERの上方への水準訂正が入りやすい局面にあると見られます。
図表1: 米国のM&A増で注目できる銘柄
ティッカー |
銘柄 |
株価(ドル) |
予想PER |
実績PBR |
投資銀行 |
予想収入 |
予想EPS |
---|---|---|---|---|---|---|---|
GS |
210.45 |
10.9 |
1.20 |
18.7 |
3.3 |
15.1 |
|
MS |
39.29 |
12.7 |
1.16 |
15.5 |
8.9 |
33.7 |
|
LAZ |
56.38 |
15.9 |
15.02 |
51.5 |
7.1 |
10.7 |
|
JPM |
67.42 |
11.5 |
1.17 |
6.7 |
0.8 |
0.8 |
|
BAC |
17.19 |
12.7 |
0.79 |
7.3 |
0.5 |
3.6 |
- 注:予想PERに対応する予想EPS、予想収入増加率、予想EPS増加率はいずれもコンセンサス予想によります。投資銀行業務比率は、14年実績。増収率、EPS増加率は15年予想です。
ブルームバーグよりSBI証券作成
上記5行は、図表2のM&A取扱金額上位から米国の上場銀行6行に絞り、さらに投資銀行業務の収入構成比(図表3)およびその他の要素を考慮して選定しました。各行の選定理由は、以下の通りです。
大手銀行では、「投資銀行」として知られる、ゴールドマン サックス、モルガン スタンレーでも投資銀行業務の収入構成比は2割以下とさほど高くありません。ただ、上述したように他のビジネスへの波及もあるため、実態はこの数字が示すよりも高いと考えられます。大手行の中でこの2行については、M&Aの活況で業績が上振れてくる可能性に注目できるでしょう。ゴールドマン サックスは、業績好調で、予想PERが低いことがポイントです。モルガン スタンレーは、業績モメンタムが強いことに注目できます。
ラザードは時価総額73億ドル(6月4日)の中堅企業ですが、投資銀行業務の収入構成比が5割を超えるためストレートに恩恵が期待できるでしょう。残り半分を占めるのは、安定的な収益が期待できる資産運用事業です。
JPモルガン チェース、バンク オブ アメリカ、シティ グループなど商業銀行業務を兼営する銀行では投資銀行業務の構成比が小さく、M&Aの活況だけで業績が良くなると言うのはむずかしそうです。他の要素も合わせて判断する必要があります。その点、JPモルガン チェースは、GEの事業再編で主導的役割を果たすと目され、構成比は大きくなくとも投資銀行業務が大きく伸びる可能性が注目できます。バンク オブ アメリカは、投資指標でPBRが1.0を大きく割り込んでいることに注目できます。
図表2: 北米のM&A取扱金額ランキング(15年初来)
会社名 |
取扱金額(億ドル) |
---|---|
モルガンスタンレー |
2,419 |
JPモルガン チェース |
2,402 |
ゴールドマン サックス |
2,206 |
センタービューパートナーズ |
2,034 |
バンク オブ アメリカ |
2,006 |
シティ グループ |
1,897 |
クレディ スイス |
1,599 |
ラザード |
1,182 |
バークレイズ |
1,158 |
グッゲンハイムキャピタル |
1,061 |
- 注:5月末時点。グレーの2社は非上場。
ブルームバーグよりSBI証券作成
図表3: 投資銀行業務の収入構成比(14年)
- ※ブルームバーグよりSBI証券作成
月間M&Aは過去最高を更新、業種にも広がり |
米国のM&Aの状況について確認しましょう。
図表4は、北米のM&A金額の四半期推移です。15年の2Q(4−6月期)は、4月、5月の2ヶ月で1-3月期を超えました。14年2Qはトレンドを外れて水準が高かったため、前年同期比でプラスとなるか微妙ですが、足もとは活況と言ってよいでしょう。実際、5月のM&A金額は2,430億ドルと、月間の過去最高記録を更新しています(ディールロジック社)。
図表5にあげた4月以降の大型案件を見ますと、ヘルスケア、資本財、メディア、半導体と業種に広がりがあることが確認できます。現在の米国のM&Aの活況は、特定産業の事情から発生しているというよりは、もっと幅広い背景から増えているのではないかと考えられます。
図表4: 北米のM&A金額の推移
- 注:15年2Q(4-6月)は、4月、5月の2ヶ月分。
ブルームバーグよりSBI証券作成
図表5: 4月以降のM&A大型案件
発表日 |
内容 |
---|---|
4月17日 |
イスラエルのテバ・ファーマシューティカルズが米同業のマイランに349億ドルで買収提案 |
5月13日 |
資本財のダナハーが同業のポールを138億ドルで買収合意 |
5月26日 |
ケーブルTVのチャーター・コミュニケーションズがタイム・ワーナー・ケーブルと560億ドルで買収合意 |
5月28日 |
半導体のアバゴ・テクノロジーズが同業のブロードコムを370億ドルで買収合意 |
6月1日 |
半導体のインテルが同業のアルテラを167億ドルで買収合意 |
- 各種報道よりSBI証券作成
増加の背景は?今後も続く? |
このM&Aの増加は今後も続くのでしょうか?
現在、米国でM&Aが増加している背景は、[1]売上成長が鈍化していること、[2]手元資金が潤沢であること、と考えられます。
図表5は、S&P500指数構成銘柄の売上高の前年比推移です。ドル高による海外売上の目減りに加え、足もとでは国内需要ももたついていることから、15年の予想は前年比マイナスに落ち込む見通しです。一方、EPSは同5%前後のプラスが見込まれていますが、売上が減る中で利益を増やすのは本来苦しいはずです。
このような環境下、株式市場から利益を増やす強いプレッシャーにさらされている米国の企業経営者が、M&Aで利益増の機会を模索しても不思議ではないでしょう。そして、M&Aの実行を考えるときに弾薬となる手元資金は、図表6の通り高水準となっています。
米国の経済成長見通しは下方修正傾向で推移しており、企業の売上が伸びにくい環境が続いています。このような背景を考えると、今後もM&Aの活況が続く可能性が高いと考えられます。M&Aの増加によって業績の上振れが期待できる米銀行は、投資対象として注目できるでしょう。
図表5: S&P500指数構成銘柄の売上高伸び率
図表6: S&P500指数構成銘柄の手元資金推移
- 注:売上高、手元資金ともにブルームバーグ集計による1株当たりの数値。2015/6/5時点。
ブルームバーグよりSBI証券作成
ピックアップした銘柄のポイント |
銘柄コード | GS | 銘柄名 | |
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ポイント |
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銘柄コード | MS | 銘柄名 | |
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ポイント |
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銘柄コード | LAZ | 銘柄名 | |
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ポイント |
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銘柄コード | JPM | 銘柄名 | |
---|---|---|---|
ポイント |
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銘柄コード | BAK | 銘柄名 | |
---|---|---|---|
ポイント |
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*株価日足チャートは、2015/6/5時点のものです。