米国の自動車市場が好調で引き続き注目できます。しかし、完成車メーカーの中期的な事業環境を見渡すと、政府による安全性や排ガスに関する規制強化がトレンドとなっており、開発負担が重くなっています。事業環境は足元がピークに近い可能性もありそうです。一方、このような規制への対応に資する製品を提供できる部品メーカーや、このようなトレンドに乗ることのできる企業は、自動車産業全般を上回る成長が期待できるため注目できるでしょう。今回は、完成車メーカーの開発投資強化から恩恵が期待できる自動車部品業界、電気自動車の普及、アクティブ・セーフティといった自動車周辺の成長テーマについて投資機会を考えてみました。注目企業として、北米の自動車部品大手3社と電気自動車のテスラ、モービルアイをご紹介しています。
銘柄 |
株価(8/3) |
52週高値 |
52週安値 |
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77.16ドル |
90.57ドル |
58.23ドル |
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54.85ドル |
59.42ドル |
41.21ドル |
|
45.99ドル |
54.52ドル |
38.60ドル |
|
59.93ドル |
63.17ドル |
31.10ドル |
|
259.99ドル |
291.42ドル |
181.40ドル |
好調な米国自動車市場、でも事業環境はピーク? |
米国の自動車市場はリーマンショックによる落ち込み(09年2月の年率換算904万台が底)から順調に回復して、足元の月次販売台数は年率換算1,700万台に達しています(図表1)。また、ガソリン価格の低下を受けて高価格帯の車が良く売れているため、GM,フォード、フィアットクライスラーなどの北米事業は業績が改善していますし、日本メーカーでも北米が利益改善の柱となっているメーカーが多いようです。引き続き北米自動車市場の好調は注目できるでしょう。
しかし、北米の完成車メーカーについて中期的な事業環境を見渡すと、
【1】 排ガス規制や燃費向上など政府による環境規制強化への対応(図表2)
【2】 政府や消費者の志向による安全性能向上への対応
【3】 ドル高による日欧メーカーに対する競争力の低下
などが収益の向かい風となる可能性があり、事業環境は足元がピークに近い可能性もありそうです。
一方、上記の【1】や【2】は自動車部品メーカーにとっては事業機会に繋がると考えられ、また、このような動きから恩恵を受ける分野もあります。そこで、今回は自動車市場の循環的な回復でなく、構造的な成長テーマについて投資機会を検討しました。完成車メーカーの開発投資から恩恵を受ける可能性のある自動車部品、政府による促進を背景に進む電気自動車の普及、急速に採用が進むアクティブ・セーフティを取り上げています。
図表1: 米国の自動車販売台数の月次推移(年率換算)
- ※ブルームバーグのデータをもとにSBI証券が作成
図表2: 主要国の排ガス・燃費規制
計測方法 |
15年目標 |
20年目標 |
25年目標 |
年平均削減率 |
|
---|---|---|---|---|---|
米国 |
CO2排出量 |
263g/マイル |
− |
163g/マイル |
4.7% |
欧州 |
CO2排出量 |
130g/km |
95g/km |
− |
6.1% |
日本 |
燃費 |
17km/リットル |
20.3km/リットル |
− |
3.6% |
中国 |
燃費 |
7リットル/100km |
(5L/100km |
− |
6.9% |
- 注:中国の燃費向上率は、現在検討されている数値を対象に計算しています。
- ※各種報道、政府資料に基づいてSBI証券が作成
成長テーマ【その1】 : 自動車市場を上回る成長が期待される自動車部品業界 |
現在の自動車産業は、安全性や燃費・排ガスに関しての政府による規制強化と消費者からのコネクティビティに対する急速な需要の高まりというトレンドへの対応を余儀なくされています。このようなトレンドに対応することのできる製品を提供できる部品メーカーや、このようなトレンドに乗ることのできる企業は、自動車産業全般を上回る成長が期待できるため注目できるでしょう。
図表3は世界的な自動車部品大手(上場企業に限る)をリストアップしたものです。この中から、上記のトレンドに対応して業界を上回る成長が期待できる企業として、オレンジ色でハイライトした北米の3社を取り上げます。
特に注目できるのは、デルファイ オートモーティブです。同社はワイヤーハーネス(自動車の車内配線)を中心に電装関係の売上構成比が6割超と高く、自動車の電子化が進む中で、当社製品の使用比率が増加するトレンドにあります。完成車メーカーの開発ニーズの高まりに対して電装関係の知識を活かせる場面が増えてくると期待されます。
自動車部品大手で、比較的電装関係製品の比率が高いコンチネンタルで22%、日本のデンソーで16%ですので、同社の構成比の高さは図抜けています。同社はGMから分離した会社ですが、一度経営破綻して再生してきたという経緯を持ちます。その中で成長が見込める分野を選べたことが、このような事業構成が可能になった背景のようです。
また、マグナ インターナショナルは、未上場のボッシュ、コンチネンタルに次ぐ自動車部品の世界的大手です。完成車メーカーの投資負担や研究開発負担が高まる中、コアでない業務についてはアウトソースする動きがあり、自動車部品大手に事業機会が増える可能性があります。同社は幅広い自動車部品を手がける他、組立も行っているため、恩恵が期待されます。また、ハイドロフォーミングを使ったシャシーの形成に強みがあり、同技術は自動車の軽量化に効果があるため注目できます。
また、ジョンソン コントロールは、ビル管理システム等を兼営する企業ですが、自動車部品ではバッテリーに強みをもっていることに注目できます。
図表3 : 世界の自動車部品大手(上場企業に限る)
企業名 |
国 |
売上(億ドル) |
主力事業 |
---|---|---|---|
コンチネンタル |
ドイツ |
314 |
タイヤ |
マグナインターナショナル |
カナダ |
366 |
シャシー・内外装 |
デンソー |
日本 |
348 |
パワートレイン |
現代MOBIS |
韓国 |
301 |
部品モジュール |
ジョンソン コントロール |
米国 |
287 |
シート・バッテリー |
アイシン精機 |
日本 |
239 |
ドライブトレイン |
フォルシア |
フランス |
171 |
内装・シート |
デルファイオートモーティブ |
米国 |
170 |
ワイヤーハーネス |
バレオ |
フランス |
116 |
熱システム・照明 |
リア |
米国 |
133 |
シート |
- 注:ジョンソン コントロールは、ビル関係事業を除く売上。デンソー、アイシン精機は15年3月期、ジョンソン コントロールは14年9月期、それ以外は14年12月期。為替換算は7/31のレートによります。
- ※会社資料に基づいてSBI証券が作成
成長テーマ【その2】: 電気自動車の普及で注目されるテスラ モーターズ |
経済産業省が14年11月に取りまとめた「自動車産業戦略2014」では、電気自動車とプラグイン・ハイブリッド自動車の政府普及目標として、2020年に15〜20%、2030年に20〜30%としています。
現在の普及率は1%未満ですので、非常に意欲的な数字と感じられますが、予算措置を含めて普及促進の取り組みが強化されているのは事実です。また、これは日本だけのことではなく先進国を中心に世界的な動きでもあり、電気自動車の普及率が12%に達したノルウェーのようなケースもでてきています。充電インフラの整備など、まだまだ普及へのハードルもありますが、電気自動車は自動車産業の成長分野として注目できるでしょう。
電気自動車には、世界の自動車大手各社が積極的に取り組んでいます。例えば、米国の販売台数上位は図表4の通りです。このほかにも、BMWのi3や三菱自動車のi-MiEVなどが有名です。しかし、この分野の投資対象としては、電気自動車の構成比が100%であるテスラ モーターズに最も注目できるでしょう。
同社に関してはスポーツカーの「テスラ ロードスター」から出発して、当初はカルトな人気に支えられた特殊な会社との見方もあったかと思われます。しかし、現在生産している高級セダンから、クロスオーバー車(SUV的な乗用車)、普及タイプ車への展開戦略をもっていることから、持続的に成長可能な会社との見方に変わりつつあるようです。
同社の技術的な確かさは、電気式駆動装置をトヨタのRAV4 EV、メルセデスのBクラス電気自動車に供給していることからも伺えます。電池パックの価格は、素材の見直し、技術改良や量産効果などによって今後低下する見通しで、数年後には電気式駆動装置と内燃機関の価格差はかなり小さくなるとの見方もあるようです。
電気自動車の市場が拡大したときに、電気自動車と言えば「テスラ」という消費者への浸透は大きな力になる可能性があるでしょう。これは例えば、ハイブリッドと言えばトヨタという浸透から、トヨタのシェアが依然として6割を超えていることからも重要な要素だと考えられます。
図表4 : 米国の電気自動車販売台数上位モデル(2014年)
モデル |
販売台数 |
---|---|
日産 リーフ |
30,200 |
シボレー ボルト |
18,808 |
テスラ モデルS |
17,410 |
トヨタ プリウス プラグイン |
13,264 |
フォード フュージョン エナジー |
11,550 |
- 注:シボレーは、GMのブランドです。
- ※各種報道に基づいてSBI証券が作成
成長テーマ【その3】: 事故を未然に防ぐアクティブ・セーフティで注目されるモービルアイ |
シートベルトやエアバッグなど事故が起こった際の被害を最小に抑える安全性能の「パッシブ・セーフティ」に対して、事故を未然に防ぐ安全性能は「アクティブ・セーフティ」と呼ばれます。アクティブセーフティで広く採用されているものにはアンチロックブレーキングシステム(ABS)がありますが、現在採用が増えつつあるのは障害物や人間を検知して衝突を回避する「自動ブレーキ機能」です。
同機能は最近テレビCMでもよく目にするように、完成車メーカー各社がセールスポイントとして宣伝しつつあるほか、各国政府による自動車の安全性評価基準にも盛り込まれる動きがあり、今後幅広い車種で採用が広がる可能性が高くなっています。
この分野で注目されるのは、アクティブ・セーフティの目となる「単眼カメラ」の技術をもつモービルアイです。前方にあるものを認識するための技術には、レーダー、カメラなどが使われます。現行の自動ブレーキ機能に広く使われているのはレーダーですが、レーダーは金属でない歩行者への対応が難しいほか、レーンの白線や標識などの認識には使えないという弱点があります。
これを補完するためにカメラによる画像の分析が併用されますが、その中でモービルアイの技術が最も進んでいると言われています。これは、2013年、2014年に契約されたアクティブ・セーフティ装置の100%に同社製品が採用され、図表5の通り契約車種数が加速的に増えていることからも伺えます。
現在、同社製品を採用する予定がない大手自動車メーカーは、トヨタとメルセデスに限られるまでになり、同社製品が業界標準的な位置づけになる可能性が高まっています。図表6の通り、前期は赤字でしたが、収益が急拡大する可能性が高まっていると見られます。
図表5 : モービルアイの契約車種数
- ※会社資料に基づいてSBI証券が作成
図表6 : モービルアイの売上・純利益推移
注目銘柄のポイント |
銘柄名 | 株価 (8/3) |
77.16ドル | 予想PER (倍) |
15.4 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/3) |
54.85ドル | 予想PER (倍) |
11.8 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/3) |
45.99ドル | 予想PER (倍) |
14.3 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/3) |
259.99ドル | 予想PER (倍) |
− | |
---|---|---|---|---|---|
ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/3) |
59.93ドル | 予想PER (倍) |
205.8 | |
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ポイント |
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※株価日足チャートは、2015/8/3時点のものです。