米国市場でスピンオフ(分社化)への注目が高まっています。最近ではイーベイによるペイパルの分離・上場が注目されましたが、企業経営者が株主価値の最大化を考えるときに、スピンオフが選択肢として浮上しているようです。実際に、スピンオフ企業で構成されるブルームバーグスピンオフ指数は安定して市場平均を上回る好パフォーマンスをあげており、投資の切り口として注目できそうです。そこで今回は、現在スピンオフを計画している企業から2銘柄、既にスピンオフしている企業から3銘柄、注目できそうな銘柄としてご紹介します。
銘柄 |
株価(8/10) |
52週高値 |
52週安値 |
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91.95ドル |
92.92ドル |
70.12ドル |
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30.24ドル |
41.10ドル |
29.40ドル |
|
69.21ドル |
71.60ドル |
52.06ドル |
|
39.05ドル |
42.55ドル |
33.98ドル |
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50.11ドル |
52.52ドル |
32.05ドル |
スピンオフ企業の株価パフォーマンスは市場平均を上回る傾向 |
米国市場でスピンオフ(分社化)への注目が高まっています。最近ではイーベイによるペイパルの分離・上場が注目されましたが、企業経営者が株主価値の最大化を考えるときに、スピンオフがひとつの選択肢として浮上しているようです。実際、そのパフォーマンスも良好です。
図1は、ブルームバーグスピンオフ指数とS&P500指数を指数化して比べたものですが、03年初を100として、S&P500が2.3倍になっているのに対してスピンオフ指数は5.9倍に達しています。
ブルームバーグスピンオフ指数は、米国の上位企業から分離・独立した銘柄で構成され、取引初日から3年間を期限に組み入れることをルールに計算されています。指数の組み入れ銘柄は随時変化していきますが、安定して市場平均を上回っていることから投資の切り口として注目できるでしょう。
同指数の現在の構成銘柄上位は図表2の通りです。アボット ラボラトリーズから分社したアブビー、イーベイから分離したペイパル、ファイザーから分離したゾエティス、バクスターから分離したバクスアルタ、ディーン フーズから分離したホワイトウェーブ フーズなどが主要な組み入れ銘柄となっています。これらの企業や現在スピンオフの計画を発表している企業、今後スピンオフを発表してくる企業は、投資対象として注目できるのではないでしょうか。
図表1: ブルームバーグスピンオフ指数とS&P500指数
- ※ブルームバーグのデータをもとにSBI証券が作成
図表2: ブルームバーグスピンオフ指数の構成上位10社(構成比1%以上)
コード |
銘柄名 |
事業内容 |
時価総額 |
分社後 |
分離前の企業 |
---|---|---|---|---|---|
ABBV |
アブビー |
バイオ医薬品 |
1,136 |
12年12月 |
アボット ラボラトリーズ |
PYPL |
ペイパル ホールディングス |
ネット決済 |
477 |
15年7月 |
イーベイ |
ZTS |
ゾエティス |
動物用医薬品 |
241 |
13年1月 |
ファイザー |
BXLT |
バクスアルタ |
バイオ医薬品 |
254 |
15年6月 |
バクスター |
WWAV |
ホワイトウェーブ フーズ |
食品 |
87 |
12年10月 |
ディーン フーズ |
NWSA |
ニューズ コーポレーション |
メディア |
81 |
13年6月 |
旧ニューズ コーポレーション |
CPGX |
コロンビア パイプライン グループ |
パイプライン |
87 |
15年6月 |
ナイソース |
ADT |
ADT コーポレーション |
警備サービス |
56 |
12年9月 |
タイコ |
MNK |
マリンクロット |
医薬品 |
118 |
13年6月 |
コビディエン |
NAVI |
ナビエント |
教育ローン |
58 |
14年4月 |
サリー メイ |
- 注:当社取扱いの企業に限ってリストアップしています。バクスアルタは8月にシャイアから買収提案を受けています。
- ※ブルームバーグデータを基にSBI証券が作成
スピンオフ企業はなぜパフォーマンスが良いのか? |
なぜ、スピンオフ企業の株価パフォーマンスは良いのでしょうか?
スピンオフの場合は、M&Aと違って当事者が分社したほうが企業価値が高まると考えて分社化するわけですが、やはり自社や自社が属する業界のことは自身が最もよくわかっていて、実際にそうなることが多いのだと言えそうです。
スピンオフによって隠れていた企業価値が顕在化するケースとして以下の3つが代表的であると思われます。それぞれのケースについて、具体例をあげて考えてみましょう。
図表3 : 代表的なスピンオフの理由
ケース |
スピンオフの理由 |
---|---|
A |
性格が異なる事業を分けてそれぞれが成長を目指す |
B |
スピンオフで事業展開の制約を取り除いて成長を期待する |
C |
事業モデルが異なる企業を分けて、個々の透明性を高めて株式評価の上昇を期待する |
- ※当社資料よりSBI証券が作成
[ A ] のケース・・・【アボット ラボラトリーズとアブビー】
アブビーは、バイオ医薬品メーカーで、アボット ラボラトリーズの研究開発部門が12年に分社化された会社です。一方、アブビーをスピンオフしたアボット ラボラトリーズは、診断薬、医療機器、ブランド後発薬、栄養補助製品を事業領域とする会社になりました。
研究開発を中心とした製薬とそれ以外の事業では必要な人材や経営資源の違いが大きいことから、分社することでそれぞれの分野で競争力を高めることが目的と思われます。特に当時台頭してきたバイオ医薬品大手との競争に備えることが重要な動機だったと考えられます。
12年12/10の分社後、アブビーの株価は85%上昇、アボット ラボラトリーズの株価は61%の上昇となっています。
[ B ] のケース・・・【イーベイとペイパル】
イーベイは、オークションを中心にネット通販事業を営んでいる会社です。今回分社したペイパルは02年に買収しています。ペイパルは、ネット上で個人間でお金のやり取りができる決済システムを運営しています。イーベイのネットオークション事業との親和性が高く、しかも高成長が続いていたため、イーベイにとって魅力的であったことは想像に難くありません。
しかし、イーベイの傘下にあることで、ペイパルはイーベイ以外の企業との取引拡大で制約を受けた部分もあったようです。15年7/20の分社化によって、ペイパルの事業展開が加速することが期待されています。
このケースでは、スピンオフにより恩恵を受けるのがペイパルに偏るため、イーベイは分社化後のペイパルの利益増加に関与する仕組みを組み込んでいます。このため、分社によってペイパルが成長した場合、イーベイも恩恵を受けることになります。
[ C ] のケース・・・【マリオット インターナショナルとマリオット バケーションズ ワールドワイド】
コングロマリット・ディスカウントという言葉があります。これは、一つの企業に性格の異なる様々な事業が混在していると、株式市場で割り引いて評価されることを指します。Cのケースは、このコングロマリット・ディスカウントを解消することが目的といえます。
若干古くなりますが、マリオット インターナショナルのケースをご紹介します。マリオット インターナショナルは、ホテルの運営を行っている企業ですが、土地・建物など固定資産をあまり持たずにホテルのオーナーから運営の受託をして伸びていくビジネスモデルを「売り」にしていました。しかし、同時に保有していたリゾート会員権の販売事業では施設を保有する必要があり、会社全体として中途半端になっていました。
そこで、固定資産を持たないで運営受託する事業(マリオット インターナショナル)と、ある程度固定資産を持って行う事業(マリオット バケーションズ ワールドワイド)に分けることにより、株式市場での評価の高まりを期待したものです。
11年11/8の分離上場から現在までで、マリオット インターナショナルの株価は2.4倍、マリオット バケーションズ ワールドワイドは3.6倍と、いずれも大きな上昇となりました。この間ホテル株全般が強かったということもありますが、分社化が成功したケースと考えられています。
スピンオフを計画している企業は? |
現在スピンオフを計画している主要企業をご紹介します。
まず注目できると考えられるのは、ダナハーのケースです。
・ダナハー(DHR)・・・単純なスピンオフではありませんが、産業向けテクノロジー企業のダナハーがろ過技術で世界的なポールを買収した上で、2つの会社に分離しようとしています(5/13発表)。ダナハーはポールを買収したのち、ダナハーの社名を引き継ぐ「科学および技術の成長企業」と、産業機器の新会社に分離する計画です。ポールの買収は今年中に、分離は16年中に完了の予定です。
その他、スピンオフの意向を表明している企業として以下があります。
・ジョンソン コントロールズ(JCI)・・・自動車部品大手でビル管理システムも兼営する同社は、自動車事業(自動車シートと内装)の分離を戦略的な選択肢として検討していることを7/10に発表しています。
・ヒューレット-パッカード(HPQ)・・・企業向けの情報システム事業をHewlett Packard Enterpriseとして分離する計画で、11月までの完了を目指しています。
・フィアット・クライスラー(FCA)・・・同社の一部門であるフェラーリをニューヨーク市場に上場する予定です。
また、以下は報道ベースでスピンオフの可能性があると言われているものです。
・アラガン(AGN)・・・ブランド医薬品部門を残し、ジェネリック医薬品部門の一部、あるいは全てをスピンオフ、または売却することを検討しているとの報道がありました。(7/25 ブルームバーグニュース)
・クアルコム(QCOM)・・・半導体チップ事業と通信規格のライセンス事業に分離する可能性があるとしています。(7/22 ウォール・ストリート・ジャーナル)
注目銘柄のポイント |
現在スピンオフを計画していて、その内容から注目できると考えられる2銘柄と、既にスピンオフしていてブルームバーグスピンオフ指数の主要構成銘柄から3銘柄をピックアップしてご紹介いたします。
銘柄名 | 株価 (8/10) |
91.95ドル | 予想PER (倍) |
23.8 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/10) |
30.24ドル | 予想PER (倍) |
13.2 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/10) |
69.21ドル | 予想PER (倍) |
18.8 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/10) |
39.05ドル | 予想PER (倍) |
40.2 | |
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ポイント |
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銘柄名 | 株価 (8/10) |
50.11ドル | 予想PER (倍) |
45.2 | |
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ポイント |
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※株価日足チャートは、2015/8/10時点のものです。