原油価格は既に底入れした可能性が高いと見られます。WTI原油先物期近物価格は2/11に一時26.05ドルを付けましたが、これが当面の安値となった可能性が高そうです。そう考えられる要因は、供給サイドの問題であった、【1】 サウジアラビアの対応が変化してきた、【2】 米国のシェール業界への打撃が明らかになりつつある、の2点です。
原油需給の見通しは、12/24の特集レポート「どうなる原油価格!歴史的な安値も目先は下値不安が大きい」の(3)で分析した通りで、今年後半には需給ギャップが縮小するとの見方でよいと思われます。一方、上記のような変化が出てきたことで、原油価格は既に底入れした可能性が高く、原油価格の上昇にベットするチャンスと考えられます。テクニカル面でも、一旦50日移動平均線を上回った後の初押しであり、絶好の買いチャンスに見えます。
図表1:原油関連商品
【 国内ETFはこちら 】
コード | 銘柄 |
---|---|
1671 | WTI原油価格連動型上場投信 |
1690 | ETFS WTI 原油上場投資信託 |
1699 | NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信 |
2038 | NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油 ダブル・ブル ETN |
【 海外ETFはこちら 】
コード | 銘柄 |
---|---|
VDE | バンガード 米国エネルギーセクター ETF |
XLE | エネルギーセレクトセクターSPDRファンド |
IXC | iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF |
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
原油価格の下落は主に供給サイドの問題 |
よく原油価格が下がると、「世界景気の減速懸念から」とか「中国経済への懸念から」とかと言われますが、14年からの原油価格下落で、このような需要サイドの要因は重要でなかったことをご説明します。議論の単純化のためです。
まず、世界の原油需要ですが、14年後半から原油価格が下落する過程で原油需要は減少していませんでした。
図表2の通り、季節性による上下はあるものの基調は増加しています。15年は価格下落が需要を刺激したこともあって、増加率は近年にない水準に達しました(例えば、15年7-9月期は前年比2.3%増)。16年の増勢は鈍るようですが、それでも前年比1%以上の増加が見込まれています。
また、中国の需要ですが、図表3の通り国際市場に影響を与える同国の原油輸入量は増加基調となっています。
輸入の一部は価格下落を利用した備蓄拡大とも言われますが、原油需要の基調も増加していると考えられます。というのも、原油需要の6割は運輸向けのためです(図表4)。
原油需要拡大のベースはモータリゼーションの進展にあり、自動車保有台数が年率2割近くで増加している中国の原油需要が減るのはなかなか難しいことと考えられます(13年の自動車保有台数は1.27億台、15年の販売台数は0.25億台)。
つまり、原油価格の下落に需要の動向はあまり重要な役割を果たしてこなかったと言え、原油価格の動向を占うには、主に供給サイドの動向を見ればよいと言えるでしょう。
図表2:原油の世界需要は実は堅調だった
- 注:予想は国際エネルギー機関(IEA)によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:中国の原油輸入量も増加傾向
- ※BloombergデータよりSBI証券が作成
図表4:原油需要の6割以上を運輸向けが占める
- ※IEA(国際エネルギー機関)の「Key World Energy Statistics 2015」よりSBI証券が作成
原油価格の大幅下落を招いた供給サイドの問題とは? |
では、原油価格の大幅下落を招いた供給サイドの問題とは何なのでしょうか?
これは、サウジアラビアと米シェールオイルの対決が長引いていることにあると見られます。
まず、原油価格が下落に転じた要因は、OPECの盟主であるサウジアラビアが米国のシェールオイルの台頭に危機感をもち、価格維持からシェア重視に方針を転換したことです。
サウジアラビアという国は、世界の原油生産の4割を占めて「価格カルテル」として機能できるOPEC(石油輸出国機構)の盟主であり、事実上、OPECを動かし世界の原油市場を動かす力があると考えられます(図表5)。
そのサウジアラビアのヌアイミ石油相が14年11月のOPEC総会後に「市場に価格を決めさせる」(Let the market decide the price)と宣言して今回の原油価格下落が始まりました。このような決定の背景には、シェール革命で生産を急ピッチで増やしていた米国に対する危機感があったと見られます。
米国の原油生産は80年代後半から低落傾向にありましたが、シェール革命によって10年辺りから急激に増加しました(図表6)。これが可能になった大きな要因は、OPECにより原油価格が高位に維持されていたことでした。そのため、相対的にコストが高いシェールの台頭を抑えるため、価格下落を容認する決定に至ったわけです。サウジアラビア側からすれば、自分達が減産して価格を維持して、シェールのシェア拡大を助けるのは有り得ない選択だということでしょう。
このような形で、サウジアラビア対米シェールオイルという戦いが始まったわけですが、ここまで価格の下落が大きく、また長期間にわたっているのは、シェールオイルの想定外の足腰の強さが要因です。
シェールオイルの採算原油価格は地域や油井によって大きな差があるものの、平均すると1バレル50〜60ドル当たりというのが欧米調査会社の一般的な見方でした。ですから、原油価格が1バレル50ドルまで下がれば、相当程度の生産が減ると考えられていました。しかし、以下のような形でコスト削減を行ったとされ、実際には15年7-9月期までほとんど生産が減りませんでした(図表9)。
1. 効率の悪い油井での生産をやめ、効率のよい油井に生産を集中してコストを下げた。
2. オイルサービスの会社が利益を削ってサービスを提供したことで、さらに生産コストが下がった。
3. 15年の時点では、ヘッジ売りが残っていてスポットより高い売価を確保できた。
このような状況で迎えた15年12月のOPEC総会では、サウジアラビアが減産に向けて積極的に動くことはなく、年明けには一時1バレル20ドル台後半まで下落するということが起きたわけです。
尚、中東の産油国とシェールオイルでどれくらい生産コストが違うかという比較が図表7になります。シェール革命とは、従来は長い年月をかけてシェール層から染み出した石油が「油だまり」となったところを掘りにいったわけですが、たまる前のシェール層に遡って採りに行くということです。
シェール層に亀裂を入れて水を注入し、一緒に吸い上げて原油を回収するわけですから、サウジアラビアの自噴する油井とは比べ物にならないくらいコストが高いと考えられるわけです。
図表5:原油生産の4割を占めるOPEC、その中で圧倒的に発言力が大きいサウジアラビア(14年、%)
- 注:世界の原油生産量(バレルベース)に占める比率です。
- ※BP社の「BP Statistical Review of World Energy June 2015」をもとにSBI証券が作成
図表6:米国の原油生産量の推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:シェールオイルに比べて生産コストが低い中東産原油
- 注:和光大学岩間教授による推定です。
- ※「中東協力センターニュース2014・8/9」をもとにSBI証券が作成
原油価格は底入れの可能性が高まってきた |
原油価格は底入れの可能性が高まってきたと見られます。図表8はWTI原油先物期近物価格の推移ですが、2/11には一時26.05ドルを付けましたが、これが当面の安値となる可能性が高そうです。
そう考えられる要因は、以下の2点です。
【1】 サウジアラビアの対応が変化してきた。
【2】 米国のシェール業界への打撃が明らかになりつつある。
【1】については、2/16のロシアなど4カ国による増産凍結の提案に参加するなど、これまでの同国の方針からすると大きな変化が見られます。
ヌアイミ石油相は同提案の記者会見で「(減産まで踏み込まなくても)これくらいの対応で十分だろう」と発言していることから、原油価格を大きく押し上げるつもりはなく(例えば、50ドルを超えるような)、あくまでシェールの生産を抑える方針は変わっていないと見られます。
しかし、1バレル20ドル台が定着してしまうのは、金融市場の混乱、財政が脆弱な一部の産油国、米国での過度の信用不安など周辺への影響が大き過ぎるとの判断があるのではないかと見られます。過度の安値は避けたい意向が窺えます。
【2】については、なかなか減ることがなかった米国の原油生産もやっと減少に向かっています。図表9は、米エネルギー情報局による米国の原油生産の推移と予想です。ピークであった15年4-6月期から約1年かけて約百万バレル減る見通しとなっています。
また、今年に入って1バレル30ドルを中心としたレンジでの推移は、シェール業界に打撃になったと見られ、テキサス州の法律事務所「ヘインズ&ブーン」は、破産を含むリストラクチャリングを検討し始めたエネルギー企業からの相談が増えているとしています。
米国の株式市場でも、一部の上流企業では、信用不安を想起させるような株価水準になっているものが散見されます。生産減少が図表9で予想されているレベルから加速する可能性がありそうです。
原油需給の見通しは、12/24の特集レポート「どうなる原油価格!歴史的な安値も目先は下値不安が大きい」の(3)で分析した通りで、今年後半には需給ギャップが縮小するとの見方でよいと思われます。
一方、上記のような変化が出てきたことで、原油価格は既に底入れした可能性が高く、原油価格の上昇に対してベットするチャンスと考えられます。テクニカル面でも、一旦50日移動平均線を上回った後の初押しであり、絶好の買いチャンスに見えます。
図表8:50日移動平均線を超えてきたWTI先物価格
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表9:米国の原油生産は日量8.5百万バレルまで減少へ
- ※米エネルギー情報局(EIA)のデータをもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。