2014年から15年にかけて大幅に上昇したドル指数(ドルの総合的な実力を見る指標)がこのところ頭打ちです。FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げがより緩慢なものになるとの見方、米国経済の減速、ドル高抑制と捉えられる米高官発言など変化の兆しも見られます。ドル高修正はあるのでしょうか?そこで今回は、ドル相場を取り巻く環境を様々な角度から検証してみました。
仮にドル高修正となる場合は、ドル高を要因に買われにくかった資産への見直しが起こる可能性に注目できるでしょう。新興国株式、金、コモディティなどが見直される可能性がありそうです。また、ドル高で業績が抑えられていた米国のグローバル企業も物色されるでしょう。
図表1:関連銘柄リスト
銘柄 |
株価(4/20) |
52週高値 |
52週安値 |
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(新興国株式のETF) |
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35.26ドル |
44.19ドル |
27.61ドル |
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35.77ドル |
45.08ドル |
27.98ドル |
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56.63ドル |
70.41ドル |
44.81ドル |
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(金のETF) |
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119.58ドル |
122.37ドル |
100.24ドル |
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12.06ドル |
12.37ドル |
10.12ドル |
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(コモディティのETF・ETN) |
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14.51ドル |
22.34ドル |
12.03ドル |
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13.91ドル |
18.68ドル |
11.70ドル |
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
「利上げ=ドル高」ではない!? |
2014年から15年にかけて大幅に上昇したドル指数がこのところ頭打ちです(図表2)。米国は利上げサイクルだからドルは高いはずだ、との見方にも変化が生じている可能性がありそうです。
米当局高官から一段のドル高を牽制と捉えられる発言が出るなど、大統領選挙でも為替相場が議論になっていることも気になります。
ドル相場は幅広い資産価格の形成に影響を与えるため、もし変化があれば大きな影響が想定されます。そこで今回は、ドル相場を取り巻く環境を様々な角度から検証してみました。
まず、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げとドル指数の関係を見てみましょう。尚、ドル指数は複数の主要通貨に対するドルの値動きを示すもので、ドルの総合的な価値を測るのに有用です。
直感的には「利上げ=ドル高」と思いがちですが、過去の検証を行ったところ必ずしもそうなってはいませんでした。図3は、94年2月、99年6月、04年6月、15年12月の利上げ局面における米国の政策金利とドル指数の推移を示しています。
94年2月と04年6月のケースでは、ドル指数は弱含み〜横ばい圏となりました。99年6月のケースは、はっきりと上昇していますが2回目の利上げまでは弱含みでした。
9年ぶりに利上げとなった直近のケースでは、15年12月以降にドル指数は弱含みとなっていますが、過去の例からは不思議でないと言えるでしょう。過去の利上げ局面に比べて今回の利上げペースは緩やかとされ、さらに利上げ回数は年4回の可能性があったものの足元では年1〜2回に下方修正されました。
利上げしてもドルがあまり上がらない可能性は十分にありそうです。「利上げだから、必然的にドル高になる」ではなく、「利上げはドル高に繋がりやすいが、そうならない場合もある」くらいで考えておくのが良さそうです。
図表2:頭打ちとなっているドル指数
- 注:16年4月のデータは、ICEのドルインデックスが4/19、FRBのドルインデックスが4/16です。ICEのドルインデックスの通貨ウェイトは、ユーロ57.6%、日本円13.6%、英ポンド11.9%など、FRBのドルインデックスの通貨ウェイトは、中国元21.6%、ユーロ16.6%、カナダドル12.7%、メキシコペソ12.1%、日本円6.5%などとなっています。
- ※BloombergをもとにSBI証券が作成
図表3:必ずしも「利上げ=ドル高」ではなかった
- 注:「FFレート(フェデラル・ファンド・レート)」は、FOMC(米連邦公開市場委員会)の金利誘導目標の上限をグラフ化しています。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
購買力平価から見るとドルは高い!? |
為替相場は2つの通貨の相対的な関係で決まるため、株式や債券とは違うレベルの難しさがあり、様々の要因から影響を受けると言われます。その中でも為替相場の決定要因として有力な「購買力平価」について確認してみましょう。
「購買力平価」は、各通貨で購入できる財やサービスが同じようになる水準に為替レートが決まるという考え方です。例えば、ビッグマックが米国で3.5ドル、日本で400円であれば、ドル円レートは1ドル=114円(400円÷3.5ドル)に決まるのが妥当だというのが基本的な考え方です。
これを幅広い財・サービスに広げて指標化したものが「購買力平価」になります。図表4はOECD(経済協力開発機構)が計算したもので、例えば、日本円の購買力平価は106.04円/ドルとされ、4/19の108.98円/ドルはこれに対してドルが3%高いという具合です。
制度の違いや貿易の障害などがあるため購買力平価が厳密に成立するはずもなく、大雑把な指標と見るべきで前後2割程度に収まっていれば許容範囲と考えてよいでしょう。
先進国通貨に対してはほぼ購買力平価に近く、ドルはニュートラルな水準と言えそうです。ユーロに対してはドルがやや割高、豪ドルに対してはドルがやや割安といった状況です。一方、新興国通貨に対してはそのような範囲を大きく超えており、ドルが割高になっている傾向があり、ドル安となる余地があると言えそうです。
また、通貨のファンダメンタルズとして、その国の成長率も影響を与えると考えられますが、図表5の通り米国はこのところGDP成長率が減速傾向にあります。GDPの7割を占める個人消費の減速を伴っている点が懸念されます。過去2年を見ると1Qは特に弱い数字が出る癖があるようですが、当面のドルの弱気材料と言えるでしょう。
図表4:「購買力平価」で見ると新興国通貨に対してドルは割高
- 注:OECD(経済協力開発機構)が15年のGDPから算出した購買力平価(各国通貨/ドル)と4/19スポット相場の比較です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:減速が続く米国のGDP成長率
- 注:16年1Q予想は、ブルームバーグ集計によるコンセンサス予想です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
通貨先物市場ではドル高ベットが縮小傾向 |
最後に、通貨先物市場で投機的ポジションの状況を見てみます。
図表6はシカゴマーカンタイル取引所の投機筋(Non-Commercial)のネット建玉枚数です。プラスはドルの売り超(各国通貨の買い超)、マイナスはドルの買い超(各国通貨の売り超)を示しています。
これを見ると、15年中はいずれの通貨でも「各国通貨売り・ドル買い」でした。しかし、15年末頃より同ポジションは縮小してきたことがわかります。円と豪ドルについては、買い超(ドル売り超)に転じています。
ユーロはまだ売り超ながら、その幅は縮小傾向です。例外は英ポンドですが、これはユーロ離脱の可能性を睨んだ個別要因によると言えるでしょう。
ドル買いのポジションは縮小してきたと言え、通貨市場のドルに対する見方は、昨年の「ドル高期待」から、最近は全体としてニュートラルになってきていると見られます。
以上をまとめると、以下のように言えるでしょう。
(1)利上げが必ずしもドル高とはならない
(2)購買力平価では、対先進国通貨でニュートラル、対新興国通貨では割高
(3)米GDP成長率の低下はドルの懸念材料
(4)投機筋のポジションは全体として、ドル高へのベットからニュートラル(通貨毎に異なる)に動いてきた
総合すると、利上げが継続される中でもさほどドルは上がらないかもしれない、状況によってはドル高の修正となる可能性も十分あると言えそうです。
さて、ドルの投資環境について見てきましたが、「ドル高修正」となる場合に注目できる資産とはどのようなものでしょうか?
ドル高がネックとなって買いにくかった資産に注目できるでしょう。新興国の資産、金、コモディティなどが注目できます。例えば、新興国の株式について見ると(図表7)、年初来先進国株式をアウトパフォームする傾向となっていて注目できるでしょう。金はドルの代替資産の性格があるため、ドル安はプラスとなります。コモディティは国際市場でドル建で取引されるため、ドル安は各国通貨建の価格低下となり、需要拡大につながります。
逆にドル高と見る場合は、単純に米国の資産を買うことでリターンが狙えるでしょう。また、為替への感応度が高い日本株が世界市場をアウトパフォームすることが期待できるでしょう。
図表6:「各国通貨売り・ドル買い」ポジションは縮小傾向
- 注:シカゴマーカンタイル取引所の通貨先物の建玉推移です。週1回、火曜日分が金曜日に発表されます。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:新興国株式は先進国株式に対してアウトパフォームする傾向
- 注:「新興国株価指数÷先進国株価指数」を計算して、11年初を100として指数化しています。新興国株価指数の先進国株価指数に対する相対株価になります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。