アップルによるiPhoneへの採用意向やアプライドマテリアルズの製造装置受注の急増で、有機EL市場の拡大に期待が高まっています。そこで、今回は同市場の動向と今後を展望するとともに、グローバルに主要プレイヤーを概観しています。スマートフォンでの採用拡大に加え、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)用機器や将来的にはテレビ、照明分野での拡大も期待され、有機EL市場には中長期に渡る高成長が期待されます。
図表1:主要関連銘柄
銘柄 | 株価 (9/6)(円換算値) | 52週高値 | 52週安値 |
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サムスン電子 (005930) | 1,643,000ウォン | 1,694,000ウォン | 1,088,000ウォン |
ユニバーサル ディスプレイ(OLED) | 57.66ドル | 74.39ドル | 32.47ドル |
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 29.98ドル | 30.41ドル | 14.69ドル |
LGディスプレイ (034220) | 30,800ウォン | 32,350ウォン | 20,500ウォン |
出光興産(5019) | 1,932円 | 2,483円 | 1,597円 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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拡大が期待される有機EL |
有機EL市場の拡大に期待が高まっています。アップルでは17年中にもiPhoneに採用すると見込まれており、また、アプライドマテリアルズの受注で有機EL向け製造装置が2-4月期、5-7月期とも急増、同社は高水準の受注が16年いっぱい継続するとしたことから、一気に市場拡大への期待が高まってきました。
まず、「有機ELとは何か?」から確認しましょう。
有機ELは有機エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)の略で、有機化合物に電圧をかけると発光する現象をさします。この現象を利用した有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode:OLED)によるディスプレイが「有機ELディスプレイ」、照明が「有機EL照明」として製品化されています。
有機ELの市場はディスプレイ分野が先行して2010年頃から量産が始まり、サムスン電子が自社のスマートフォン「ギャラクシー」に搭載したことで拡大してきました。有機ELディスプレイ向けに発光材料を供給している米国のユニバーサルディスプレイの売上推移から世界の有機EL市場がどのように成長してきたかが概観できます(図表2)。
次に、有機ELはなぜ有望なのかを考えてみましょう。
有機ELは同じフラットディスプレイのLCD(液晶ディスプレイ)に比べて以下の特長があり、将来的にLCD市場のかなりの部分を置き換えていくと見込まれています(図表3)。
バックライトが要らず薄くて軽い・・・バックライトやカラーフィルターが要らず、LCDに比べて構造は非常に単純です。部材点数が少ないため、製造技術の進歩により将来的に低コストとなる可能性があります。
自発光なので省電力・・・画素1つ1つが発光するため、エネルギーのロスが少なく省電力です。
高画質・・・高輝度、高コントラストで、深い黒を表現することができます。表示入力信号に高速で応答するため、動画もクリアに表示されます。
さらに、薄く軽くできることから紙のように「折り曲げ」たり、また、「透明にする」ことが可能なため、これまでLCDが使われてこなかった新しい分野でも使用が広がる可能性があります。また、現在の主要用途はスマホのディスプレイですが、テレビや照明の分野でも有望と考えられています。
ユニバーサルディスプレイの会社説明資料から、有機ELディスプレイの市場見通しを示したのが図表4です。金額ベースでは、15年〜22年にかけて年平均成長率18%、面積ベースでは15年〜20年に同45%での高成長が見込まれています。
図表2:有機ELの歴史は米ユニバーサル ディスプレイ(OLED)の歴史

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:有機ELパネルの構造

- ※出所:株式会社JOLED(ジェイオーレッド)
図表4:有機ELディスプレイの市場見通し

- 注:16年以降は米国の調査会社IHSの予想です。
- ※ユニバーサル ディスプレイの説明会資料(16年8月)をもとにSBI証券が作成
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パネル市場を独占するサムスン電子、発光材料を牛耳る米日2社 |
高成長が期待される有機EL市場の主要プレイヤーを、パネルメーカーと発光材料メーカーに分けてみてみましょう。
まず、パネルメーカーのシェアは調査会社IHSが公表した16年1-3月期のデータによると、
1位 韓国のサムスンディスプレイ(サムスン電子の子会社) 97.7%
2位 韓国のLGディスプレイ 0.9%
3位 台湾の友達光電(AUO) 0.7%となっています。
16年1-3月期の有機ELパネルの世界出荷枚数は9,081万枚で、スマホ用有機ELは前年同期比62.8%増加しています。
サムスン電子は自社のスマホ「ギャラクシー」に搭載するほか、中国のスマホメーカーにも供給を始めたことで有機ELパネルの生産が急増しています。さらに、アップルのiPhone向けに17年中にも供給を始めると見込まれており、16年に生産設備の拡充に8兆ウォン(約7,200億円)を充てる計画です。
LGディスプレイは有機ELテレビを商品化していますが、いまのところ既存の液晶テレビに対して十分には競争力が高まっておらず、スマホ用ほど販売は伸びていません。例えば、55インチ型の日本での小売価格は、液晶テレビが10〜25万円であるのに対して、LGの有機ELテレビは70万円以上で、本格的な普及にはもう少し価格差が縮まる必要がありそうです。
次に、有機ELの部材でキーになる発光材料の主要プレイヤーです。売上ベースで、
1位 米国のユニバーサルディスプレイ(OLED)
2位 日本の出光興産(5019)
3位 ドイツのノバレッド(未上場)、4位 米国のダウケミカル(DOW)、5位 韓国のサムスンSDI(006400)が上位です。
ユニバーサルディスプレイは、その銘柄コードが「OLED」(英語で有機ELはOLEDと呼ばれます)であることに象徴されるよう、有機EL事業に特化した企業です。有機EL関連で業界トップの4,200件の特許を保有、サムスン電子、LGディスプレイの有機EL事業の黒子役を果たしています。15年売上の67%をサムスン電子から、25%をLGディスプレイから得ていると推定され、有機ELの歴史とともに成長してきた会社です。
出光興産は独自特許を保有する青色発光材料に強く、韓国に有機EL材料の生産工場を保有しています。LGディスプレイと深い関係にありますが、15年からはサムスン電子にも青色発光材料の供給を始めています。
その他の日本企業では、保土谷化学工業(4112)、住友化学(4005)、ケミプロ化成(4960)などが有機EL材料の分野で活動しています。
尚、有機ELパネルに取り組んでいる日本企業は、シャープ(6753)、ジャパンディスプレイ(6740)、JOLED(ジェイオーレッド)(未上場)がありますが、残念ながらいまのところ量産まで進んでいません。
ただ、有機ELパネルは現在「蒸着法」で製造されていますが、真空環境が必要、3色を塗り分けるためのマスクが必要、材料のロスが多いなどコストが高くつく製造方法です。一方、「印刷法」による製造が実現した場合、真空環境がいらず材料の使用効率が格段に高いため、コスト競争力が高くゲームチェンジャーになると考えられます。その意味では、日本企業が将来的に巻き返す可能性もまだ残っていると言えそうです。
注目できるのは未上場ですが「JOLED」(ジェイオーレッド)です。同社は、パナソニックとソニーの有機EL部門を統合して、産業革新機構、ジャパンディスプレイが出資してできた会社で、「印刷法」による有機ELディスプレイの製造を目指しています。印刷法による有機EL製造の実用化に成功して量産に向けた実証プラントの稼働を計画しており、18年中の量産を目指しています。動向が注目されるでしょう。
尚、JOLEDに出資するジャパンディスプレイは、独自に蒸着法による有機ELディスプレイ製造を進めています。JOLEDへの出資は、ヘッジ的な意味合いもあるようです。
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主要関連銘柄のご紹介 |
市場:韓国(KOSPI) |
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決算期 |
売上高(10億ウォン) |
(前年比) |
純利益(10億ウォン) |
(前年比) |
EPS(ウォン) |
16.12予 |
206,701 |
3% |
23,012 |
41% |
154,891 |
17.12予 |
213,420 |
3% |
24,884 |
8% |
169,409 |
株価(9/6):1,643,000ウォン |
予想PER(16.12期):10.6倍 |
||||
|
市場:米国(NASDAQ) |
|||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 |
売上高(百万ドル) |
(前年比) |
純利益(百万ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.12予 |
197 |
3% |
42.4 |
189% |
0.87 |
17.12予 |
258 |
31% |
66.3 |
56% |
1.31 |
株価(9/6):57.66ドル |
予想PER(16.12期):66.3倍 |
||||
|
市場:米国(NASDAQ) |
|||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 |
売上高(百万ドル) |
(前年比) |
純利益(百万ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.10予 |
10,842 |
12% |
1,929 |
34% |
1.75 |
17.10予 |
12,223 |
13% |
2,438 |
26% |
2.23 |
株価(9/6):29.98ドル |
予想PER(17.10期):13.4倍 |
||||
|
市場:韓国(KOSPI) |
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---|---|---|---|---|---|
決算期 |
売上高(10億ウォン) |
(前年比) |
純利益(10億ウォン) |
(前年比) |
EPS(ウォン) |
16.12予 |
25,384 |
-11% |
486 |
-50% |
1,340 |
17.12予 |
25,952 |
2% |
880 |
81% |
2,444 |
株価(9/6):30,800ウォン |
予想PER(16.12期):23.0倍 |
||||
|
市場:日本(東証) |
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決算期 |
売上高(10億円) |
(前年比) |
純利益(10億円) |
(前年比) |
EPS(円) |
17.3予 |
3,145 |
-12% |
52.0 |
黒字転換 |
320 |
18.3予 |
3,246 |
3% |
59.5 |
14% |
362 |
株価(9/6):1,932 円 |
予想PER(16.12期):6.0倍 |
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- ※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成