11/8の米大統領選挙まで1ヵ月半余り、9/26(月)の第1回大統領候補者討論会を控え、米大統領選挙への注目が高まっています。クリントン、トランプ両候補の選挙戦はこれまで拮抗していますが、初の直接対決となるテレビ討論会で支持率が動く可能性がありそうです。そこで今回は、両候補の主な政策から株式を中心に投資アイデアを検討しています。
いずれの候補もインフラ投資に前向きで、関連銘柄が注目されます。トランプ氏優勢の場合には、株式市場全般が不安定化する可能性があるほか、どちらの候補が勝つかによって金融セクター、医療セクター、クリーンエネルギー関連などでは明暗が分かれそうです。以下の資産が注目できるでしょう。
図表1:大統領選挙で注目できる銘柄リスト
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近づく米国大統領選挙
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11/8の米大統領選挙まで1ヵ月半余りとなり、大統領選挙で大きな山場となる、第1回候補者によるテレビ討論会が9/26(月)に迫ってきました。
同討論会はクリントン氏、トランプ氏の初の直接対決の場として支持率が動く可能性のあるイベントとして株式市場での注目も高まると考えられます。
これまでのところ両者の支持率は拮抗しています(図表2)。7/28にトランプ氏が戦没者遺族を非難したことで支持率が急落、クリントン氏のリードは一時8%近くまで拡大しましたが、9月に入ってクリントン氏にメール問題や健康問題が浮上し、トランプ氏との差が再び接近しています。
二人とも歴代の大統領候補と比べると好感度が低く、不人気候補同士の異例の争いとなっていると言われ、なかなか過去の経験則が通用せず、予断を許さない展開と言えそうです。
今後の日程は10月19日まで副大統領候補を含む4回の候補者討論会が開催され、11月8日に選挙となります(図表3)。
11月の本選では合計538人の選挙人の票のうち、過半数の270票以上を獲得した候補が勝利となります。一般の有権者の票は選挙人を選ぶことで結果に反映される間接選挙の形式をとります。
選挙人は各州の人口比で割り振られ、州ごとに最多票を得た候補がその州の票を全て獲得する総取り方式となります(ネブラスカ州とメイン州は例外的に比例割当方式です)。
伝統的に北東部やカリフォルニア州などの西海岸が民主党の地盤で、中西部や南部が共和党の地盤とされ、リアル・クリア・ポリティクスの票読みによるとクリントン氏が200票、トランプ氏が164票で、得票見込みでは支持率以上にクリントン氏が優位となっています。
残りの174票はどちらにもカウントし難いスイングステートと呼ばれる、フロリダ州、ペンシルベニア州、オハイオ州、ノースカロライナ州、バージニア州、コロラド州、アイオワ州、ネバダ州などです。今後、これらの州での支持率の動向が注目されます。
図表2:クリントン、トランプ両候補の支持率は拮抗
- 注:米リアル・クリア・ポリティクスによる集計。
※ブルームバーグデータよりSBI証券が作成。
図表3:大統領選挙の今後の日程
9月26日 |
第1回大統領候補討論会(ニューヨーク州) |
10月4日 |
副大統領候補討論会(バージニア州) |
10月9日 |
第2回大統領候補討論会(ミズーリ州) |
10月19日 |
第3回大統領候補討論会(ネバダ州) |
11月8日 |
大統領選挙 |
12月1日 |
選挙人による投票で大統領を正式に選出 |
2017年1月20日 |
新大統領が就任 |
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両候補の主な政策と株式市場への影響
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クリントン、トランプ両候補のテレビ討論会での直接対決でこれまでの均衡が破れる可能性があり、株式市場でも関連資産への投資が盛り上がる可能性があるでしょう。
クリントン氏と民主党およびトランプ氏と共和党の政策のうち、株式市場に影響のありそうな主なものを図表4にまとめています。大統領選挙の動向により注目できる資産について株式を中心に検討しています。
◯株式市場全体への影響
クリントン氏がオバマ大統領の政策を概ね引き継ぐと見られているのに対して、トランプ氏についてはその奔放で予見性の低い言動から通商・外交などの分野で混乱が起きる可能性が、各界有識者から指摘されています。
「トランプ氏の言動は大統領になれば変わるだろう」との楽観的な見方もありますが、型破りなキャラクターで国民の人気を得てきた同氏が本当に変わるのか、市場参加者には不安は残るでしょう。
このためトランプ氏優位となると、リスクを嫌う株式市場は下落する可能性があり、また、リスク回避的な動きから安全資産としての「金」投資が盛り上がる可能性がありそうです。
クリントン氏でも「富裕層や大企業への増税」を掲げているため、株式市場にさほどポジティブとは言えませんが、伝統的な民主党の政策であり、現状から急変するということはないでしょう。
◯クリントン氏とトランプ氏の政策の違い
金融、医療・保険、環境の分野では両候補に際立った見解の違いがあります(図表4)。
金融ではクリントン氏は規制強化、トランプ氏は規制緩和、環境の分野ではクリントン氏がクリーンエネルギーに注力するとしているのに対して、トランプ氏は地下資源の有効活用を訴えています。また、クリントン氏は昨年来、医薬品メーカーによる薬価引き上げを問題視していることを表明しています。
クリントン氏が優位になった場合、金融セクター、医薬品セクターの銘柄は売られ、クリーンエネルギー関連の銘柄が買われる可能性があります。
クリーンエネルギー関連では、電気自動車大手で蓄電池を生産、さらに太陽電池パネルのソーラーシティを買収したテスラ モーターズ(TSLA)や太陽電池パネル大手のファースト ソーラー(FSLR)などに注目できるでしょう。
トランプ氏が優位となれば、この逆が起こることが予想されます。ただし、これはトランプ氏の要因というよりは、クリントン氏でないことによる反動と考えられます。
トランプ氏が優位になった場合に買われる銘柄として、銃器メーカーのスミス アンド ウェッソン ホールディング(SWHC)が注目されるでしょう。
◯両者の政策が一致している点
インフラ投資を増やすことでは両候補は一致していますので、関連銘柄に注目できるでしょう。
インフラ投資の関連銘柄として注目できるのは、砂利や小石などの建設に使用される骨材や生コンクリートを供給するマーチン マリエッタ マテリアルズ(MLM)、バルカン マテリアルズ(VMC)です。
老朽化が著しいハイウェイの補修での使用が多く、また、その他の土木工事でも使用されるため、インフラ投資関連として外れることがない銘柄だと言えるでしょう。
また、建設機械のレンタルが主力事業で、米国の売上構成比が9割のユナイテッド レンタルズ(URI)は稼働率上昇による恩恵が期待できるでしょう。
ただし、共和党の綱領ではインフラ投資に言及しておらず、最近になってトランプ氏がクリントン氏への対抗上強調しているように見えます。共和党は連邦債務の削減を政策として重視しているためでしょうか。このため、実現の可能性は民主党・クリントン候補のほうが高いと考えられます。
また、高水準となっている学生ローンが社会問題として重要だとの認識でも両者は一致しています。金利減免など負担軽減などの施策が具体化すると、20代から30代の消費喚起や住宅取得の促進になることが期待できるでしょう。
若者向けのアパレル企業や住宅建設メーカーなどが注目されそうです。
図表4:クリントン氏とトランプ氏の主な政策
クリントン氏/民主党 |
項目 |
トランプ氏/共和党 |
・ウォール街を制御して金融システムを是正する。 |
金融 |
・ドッド-フランク法(2010年7月、オバマ大統領の署名により成立した米国の金融規制改革法)を批判、金融規制を緩和する。 |
・医療保険改革(オバマケア)を守り、ユニバーサルケアを推進。処方薬のコストを引き下げる。 |
医療・保険 |
・医療保険改革(オバマケア)を撤回する。メディケア、メディケイドは維持するが、費用の管理が必要。 |
・気候変動は差し迫った脅威。今後10年以内に電力源の50%をクリーンエネルギーにすることを目指す。 |
環境 |
・気候変動は最も差し迫った国家安全保障の問題からは程遠い。 |
・銃規制を強化し、殺傷能力の高い武器弾薬が出回らないようにする。 |
銃規制 |
・個人が武器を持つ権利を堅持。銃の登録制度や半自動小銃禁止法の復活に反対する。 |
・21世紀のインフラを建設する。田舎への投資、都市への投資にも言及。 |
インフラ投資 |
・政策綱領にはないが、トランプ氏が増やすと強調。 |
・富裕層、大企業への増税。 |
税制 |
・経済成長のための公正で簡素な税制を実現。法人税率の引き下げ。 |
・米国の雇用や賃金上昇につながらない貿易協定には反対。TPPにもこの基準を適用する。 |
通商 |
・米国を第一に置く貿易交渉が必要。国益を保護しない貿易協定は拒絶しなくてはならない。 |
・中国にはルールを守るよう圧力をかける。 |
中国 |
・中国の通商政策に厳しい姿勢。 |
- ※民主党・共和党の政策綱領、各種報道をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。