大統領選挙の開票は接戦が伝えられていますが、日本時間の9日午後には大勢が決していると見られます(9日午前10時の執筆時点)。9/26に第1回のテレビ討論会が開催されて以降、大統領選挙が市場参加者の頭から離れることはなかったでしょう。そのような環境で10月の半ばから7-9月期の決算発表が進みましたが、いつもの決算発表に比べて個別銘柄に対する市場の反応は鈍かった可能性がありそうです。例えば、「この決算は良いけれど、買うのは大統領選挙後にしておこう」ということも多かったのではないでしょうか。そこで今回は、大統領選挙後に買われる可能性が高い銘柄を探るために、決算発表を挟んでアナリストによる「予想EPS」と「目標株価」が上方修正された銘柄に注目しています。
図表1:予想EPSと目標株価が上方修正された注目銘柄
銘柄 | 株価 (11/8) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
メルク(MRK) | 60.51ドル | 64.85ドル | 47.97ドル |
アップル(AAPL) | 111.06ドル | 121.81ドル | 89.47ドル |
ハリバートン(HAL) | 47.12ドル | 50.23ドル | 27.64ドル |
プロクター & ギャンブル(PG) | 87.46ドル | 90.33ドル | 73.95ドル |
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 69.83ドル | 72.58ドル | 46.73ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
目標株価が引き上げられた銘柄群に注目!! |
株式市場はトランプ氏の勝利ならショック安、クリントン氏の勝利ならリリーフ・ラリー(リスクイベントの無難な通過による株価上昇)で反応すると見込まれていますが、いずれにしても選挙結果を織り込んだ後は、個別銘柄に目が移っていくと考えられます。そこで今回は、米国の主要企業で構成されているS&P100指数を母集団として、以下の条件でスクリーニングしています。
(1)過去4週間に今通期の予想EPSが上方修正された
(2)過去4週間に目標株価(※)が1%以上上方修正された
(※)「目標株価」は、Bloombergの集計によるアナリストが付与した目標株価の平均値によります。
アナリストが決算発表を検討した結果、業績にポジティブであると判断して(EPSを上方修正)、さらに、それは経常的な効果が見込めるために株価にも反映されるだろうと予想した(目標株価を上方修正)、ということですので、「企業アナリストが強気に見ている」銘柄と考えてよいでしょう。
抽出されたのは図表2の23銘柄で、さらに目標株価の引き上げに対して、それが市場で織り込まれているかどうかを勘案するために、(C)欄で「目標株価の修正率 - 株価騰落率」を計算して、この値が大きい順に並べてあります。
例えば、目標株価が5%引き上げられた銘柄で、実際の株価が3%下落した場合、この値は「5% − (-3%)」で、8%となります。目標株価の動きと実際の株価の動きの乖離を示し、プラスが大きいほど乖離していることになります。
リスト中に赤字でハイライトした上位5銘柄、医薬品メーカーのメルク、スマートフォンのアップル、オイル・サービスのハリバートン、日用品のプロクター&ギャンブル、半導体のテキサス インスツルメンツを注目銘柄としてご紹介いたします。
尚、リストの下半分は目標株価の引き上げに対して株価の上昇度合いが大きい銘柄になりますが、銀行・投資銀行が多く含まれています。PERの絶対水準が10〜11倍台と低いために、予想EPSのポジティブな動きに対して株価の反応が大きく出やすいためと見られます。これはこれで注目できる分野と見られます。
図表2:「予想EPS」「目標株価」とも上方修正された銘柄群(S&P100指数構成銘柄)
ティッカー | 銘柄 | 予想EPS 修正率(%) (4週) |
(A) 目標株価 修正率(%) (4週) |
(B) 株価 騰落率(%) (1ヵ月) |
(C) (A)-(B) (%ポイント) |
目標 株価 (11/7) (ドル) |
株価 (11/7) (ドル) |
予想 PER (倍) |
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MRK | メルク | 0.5 | 3.8 | -4.3 | 8.1 | 68.9 | 60.05 | 15.9 |
AAPL | アップル | 0.8 | 2.5 | -3.2 | 5.7 | 132.1 | 110.41 | 12.1 |
HAL | ハリバートン | 59.6 | 8.2 | 2.6 | 5.6 | 55.9 | 47.44 | - |
PG | プロクター・アンド・ギャンブル | 0.2 | 1.5 | -3.8 | 5.3 | 93.0 | 86.56 | 22.3 |
TXN | テキサス・インスツルメンツ | 0.1 | 2.7 | -2.6 | 5.3 | 74.3 | 69.01 | 20.9 |
TWX | タイムワーナー | 4.1 | 16.0 | 11.1 | 4.9 | 102.1 | 87.74 | 15.6 |
GOOG | アルファベット | 0.6 | 3.2 | 1.0 | 2.2 | 957.5 | 782.52 | 22.7 |
GD | ゼネラル・ダイナミックス | 0.1 | 1.7 | -0.4 | 2.1 | 172.2 | 152.39 | 15.6 |
MSFT | マイクロソフト | 1.0 | 6.4 | 4.5 | 1.9 | 62.9 | 60.42 | 20.7 |
MA | マスターカード | 2.5 | 5.2 | 3.6 | 1.6 | 117.1 | 105.96 | 28.5 |
C | シティグループ | 2.0 | 1.9 | 1.1 | 0.8 | 54.8 | 49.82 | 10.6 |
JPM | JPモルガン・チェース | 4.1 | 3.0 | 2.6 | 0.4 | 73.4 | 69.88 | 11.9 |
DD | イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール | 1.4 | 2.0 | 1.7 | 0.3 | 76.3 | 69.51 | 21.5 |
PYPL | ペイパル・ホールディングス | 0.1 | 3.6 | 3.5 | 0.1 | 46.5 | 41.28 | 27.6 |
DOW | ダウ・ケミカル | 3.3 | 1.3 | 1.2 | 0.0 | 61.1 | 53.65 | 14.8 |
MS | モルガン・スタンレー | 6.2 | 5.0 | 5.2 | -0.3 | 35.6 | 34 | 12.7 |
LMT | ロッキード・マーチン | 1.9 | 1.2 | 2.5 | -1.2 | 269.4 | 239.27 | 19.6 |
CVX | シェブロン | 6.9 | 2.6 | 4.5 | -1.9 | 115.3 | 106.85 | 84.6 |
BAC | バンク・オブ・アメリカ | 4.9 | 3.2 | 5.5 | -2.2 | 18.0 | 17.01 | 11.6 |
UNH | ユナイテッドヘルス・グループ | 1.2 | 1.6 | 3.9 | -2.2 | 165.1 | 141.93 | 17.7 |
GS | ゴールドマン・サックス・グループ | 7.6 | 4.1 | 6.9 | -2.8 | 190.3 | 181.48 | 11.6 |
BK | バンク・オブ・ニューヨーク・メロン | 3.4 | 5.4 | 8.5 | -3.1 | 47.4 | 44.03 | 14.0 |
BA | ボーイング | 12.1 | 1.6 | 6.9 | -5.2 | 152.6 | 143.03 | 20.1 |
- 注:ハリバートンの予想EPSの修正は、0.178ドルの赤字予想から0.072ドルの赤字予想への修正です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
注目銘柄の投資ポイントは? |
銘柄名 |
株価(11/8) |
60.51ドル |
予想PER(倍) |
16.1 |
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ポイント |
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銘柄名 |
株価(11/8) |
111.06ドル |
予想PER(倍) |
12.2 |
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ポイント |
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銘柄名 |
株価(11/8) |
47.12ドル |
予想PER(倍) |
- |
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ポイント |
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銘柄名 |
株価(11/8) |
87.46ドル |
予想PER(倍) |
22.5 |
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ポイント |
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銘柄名 |
株価(11/8) |
69.83ドル |
予想PER(倍) |
21.2 |
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ポイント |
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- ※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
7-9月期の増益転換確認で来期増益への信頼感が高まる |
S&P500指数構成銘柄の決算発表は11/8時点で442銘柄まで進み、7-9月期決算企業についてほぼ発表が終わっています。既発表企業の実績EPSは前年同期比3.0%増となっており、S&P500指数採用企業の利益は2年ぶりに増益転換したことが確認できました。
S&P500指数の年間予想EPSは16年12月期が118.82ポイント、17年12月期が133.04ポイントで、11/8のS&P500指数の2139.53ポイントは、それぞれ予想PER18.0倍、16.2倍と計算できます。
この予想EPSはアナリストによる個別企業の業績予想をBloombergが集計したもので、「ボトムアップ予想(積み上げによる予想)」(これに対してストラテジストが作る「トップダウン予想(マクロ的な前提による予想)」があります)と呼ばれます。
ボトムアップ予想は将来の企業業績について楽観的となる傾向があるため、多くの市場参加者は「楽観的な業績予想によれば、来年はこれくらいのPERまで下がるのだな」程度にしか見ていないと見られます。
しかし、今回7-9月期の増益転換が確認されたことで、10-12月期の増益、17年12月期の増益に対する信頼感が高まり、「17年12月期基準で16.0倍まで下がらないとしても、増益分を半分程度織り込んで17倍くらいには下がりそうだ」くらいには見てきそうです。
予想PERの18.0倍というのは歴史的に見て高く、何かリスク要因が浮上すると株価は下落となる可能性が高い水準です。しかし、16〜17倍であればその程度もかなり緩和されるため、相場全体にとっても今回の7-9月期決算の増益転換は大きな意味があると言えるでしょう。
図表3:米国企業の利益は2年ぶりに増益転換!
- 注:S&P500指数採用企業のEPSで、16年3Qは11/8時点の既発表企業の集計によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。