16年の販売台数が7.6万台に過ぎない電気自動車メーカー、テスラの時価総額が年間1千万台を販売するGMのそれに近づいていることが話題となっています。そこで、テスラが自動車メーカーとして今どのような段階にあるのか確認するとともに、GM、フォードとのバリュエーションの比較を行っています。テスラの株価評価は行き過ぎとなっている可能性もありそうです。
図表1:当レポートで言及した銘柄(当社取扱い)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
|
テスラの時価総額がGM、フォードに肉迫
|
電気自動車メーカーのテスラの時価総額がGM、フォードに近づいていることが話題となっています(図表2)。
GM、フォードは4/3(月)に発表された3月の米自動車販売台数が年率換算1,662万台と市場予想の同1,750万台を大きく下回ったことを受けて株価は軟調です。
一方、テスラの株価は、以下のようなポジティブニュースが重なったことで上昇してきたと見られます。
・3/16(木)、3/17(金)に「モデル3」の生産開始に備えて11.5億ドルを株式と転換社債の公募で調達。
・3/28(火)に中国のネット企業テンセント(00700)による5%の株式取得が判明。
・4/3(月)に1-3月期の納入台数が会社ガイダンスの23,500台〜24,000台を上回る25,000台超と判明。
・4/13(木)にマスクCEOがトラックへの参入を表明(今年9月にセミトラックを、1年半から2年以内にピックアップトラックをお披露目へ)。
しかし、冷静に考えると年間1千万台を販売するGMと16年の販売台数が7.6万台に過ぎないテスラの時価総額が近いというのは、衝撃的な事実と言えるでしょう。図表3は世界の時価総額上位10社を昨年の販売台数とともに示していますが、トヨタ自動車(7203)が圧倒的に大きいのは別格として、テスラは本田技研工業(7267)にも近づいています。
米国の自動車産業関係者にはテスラがGM、フォード並みの時価総額であることに違和感を持ち、「ウォール街のやることは理解できない」とする人が多いようです。例えば、米国最大の自動車販売チェーン、オートネーションのCEOマイク・ジャクソン氏は、「テスラのバリュエーションは不可解だ。」としています。
そこで、(2)でテスラが今どういう段階にあるのかを確認、さらに、(3)でGM、フォードとのバリュエーションを比較しています。テスラの株価評価は行き過ぎとなっている可能性もありそうです。
図表2:テスラの時価総額が一時、米国の自動車トップに!!
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:世界の自動車メーカー時価総額上位と販売台数
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
|
テスラは今どのような段階にあるのか
|
テスラは2003年に創業、テクノロジー企業が集積するカリフォルニア州パロアルト市に本社を置く電気自動車メーカーです。
2008年に生産を始めたスポーツカーの「ロードスター」(生産は12年に終了)が最初のモデルで、当初はカルト的な人気を持つニッチプレーヤーとの見方をされていました。
しかし、トヨタ自動車とゼネラルモーターズが合弁で設立した自動車の製造会社「NUMMI」の工場を引き継いで、セダンタイプの「モデルS」を12年6月から、SUVタイプの「モデルX」を15年7-9月期から生産し、年間数万台の生産を行う自動車メーカーに成長してきました。販売店も世界の主要都市に265店を構えるまでになっています(16年末)。
さらに、3.5万ドルの普及タイプ「モデル3 」を17年後半から生産・納車開始予定で、年間数十万台の生産を行う量産メーカーへの転換が図られています。「モデル3」について17年の生産台数目標はまだ明らかになっていませんが、5/3(水)開催予定の1-3月期決算発表で今後の見通しが明らかになると期待されています。
「モデル3」実現の鍵となるリチウムイオンの電池パックについては、パナソニック(6752)と共同運営するネバダ州の「ギガファクトリー1」で17年1月から生産を開始しています。さらに、ギガファクトリー3、4に加え可能性としては5の建設予定地を年内に決めるとして、同社の事業拡大意欲の高さが窺がえます。
業績については、生産拡大に伴う投資負担が大きく、赤字決算が続いています(図表4)。16年の売上高は70億ドル(約7,600億円)、純利益は7.3億ドル(約800億円)の赤字でした。一方、18年には小幅な黒字への転換が見込まれています。
自動車事業以外に、蓄電システムを販売するほか、昨年11月にはマスク氏がCEOを務めていた太陽光発電の「ソーラーシティ」を傘下に収めています。自動車関連以外の売上構成比は、16年に3%です。
尚、同社が熱狂的なフォロアーをもつ背景には、CEOのイーロン・マスク氏のカリスマ性に負うところも大きいと見られます。
同氏は、ペイパルホールディングス(PYPL)の前身企業「X.com」社を99年に共同で創業、02年に宇宙輸送を可能にするロケットを開発する「スペースX」社を創業したほか、次世代交通システム「ハイパーループ」の構想も注目を集めています。テスラには初期の段階から出資者として関わり、08年からはCEOとして会社を率いています。
図表4:テスラの業績と自動車販売台数
- 注:予想はBloomberg集計のコンセンサス予想によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
|
テスラとGM、フォードの比較
|
販売台数が数十倍以上違うのに、時価総額が近くなっていることの一つの説明としては、3社の売上見通しが全く違うことが挙げられます(図表5)。
GM、フォードは主力の米国自動車販売シェアが17.0%、14.6%と大きいため市場全体の動きの影響を免れませんが、米国自動車販売は、16年の1,747万台から17年、18年にかけて低調と見込まれています。このため、両社の売上は19年にかけて横ばい圏での推移が予想されています。
一方、テスラについては、16年の世界シェアは0.1%のため、市場全体の好不調に関わらず売上を伸ばすことが可能で、16年から19年にかけて3.8倍に増加すると見込まれています。
EPSについても、GM、フォードは16年実績から19年予想に向けて減少ないし横ばいが見込まれているのに対して、テスラは赤字から黒字への転換が見込まれています。
一方、株価のバリュエーションについて、テスラの成長を考慮するため19年の予想EPSを基準としたPERで比べると、GMの5.9倍、フォードの6.5倍に対してテスラは41.1倍です(図表6)。
さらに生産拡大に伴う設備の償却負担が重いことを考慮するために、純利益に償却費を足し戻したEBITDA(利払い、税金、償却前利益)を使ったバリュエーションであるEV/EBITDA(※)でも、GMの2.2倍、フォードの2.3倍に対してテスラは14.2倍となっています。
※EVは「株式時価総額+ネット有利子負債」、EBITDAは「利払い、税金、償却前利益」です。
3年後までの成長を勘案し、さらに償却負担を割り引いても、依然としてバリュエーションに大きな格差があり、テスラの株価評価が行き過ぎている可能性がありそうです。
行き過ぎてしまう要因は、足もとの事業拡大に障害となるようなものが見当たらないことでしょう。新しいモデルが次々出てきますし、それらの販売は事前の予約で埋まり、事業拡大に必要な資金は株式市場で調達できるといった形です。
ただ、数十万台の生産規模がやっと見えてきた会社ですので、数百万台規模への成長を織り込むのはタイミングとして早すぎるのではないかということです。
また、注意したいのは最近の株価上昇が売り方の買戻しによる需給が主因だった可能性です。
同社株式に関しては株価評価を懐疑的に見ている市場参加者も多く、売り残の株数が多いことで知られています。昨年11月末の売り残株数は35.7百万株で発行済株式数の29%に達していました。
このような高水準の売り残が(1)で挙げたポジティブニュースで買い戻しを迫られて株価の押し上げに貢献したと見られます(図表7)。需給で上昇した株価はもろい面があるため、注意が必要でしょう。
図表5:3社の業績予想
|
16年 |
17年予 |
18年予 |
19年予 |
売上高(億ドル) |
ゼネラルモーターズ |
1,664 |
1,630 |
1,593 |
1,657 |
フォード |
1,518 |
1,420 |
1,434 |
1,484 |
テスラ |
70.0 |
113.8 |
191.6 |
266.0 |
EPS(ドル) |
ゼネラルモーターズ |
6.35 |
5.98 |
5.98 |
5.63 |
フォード |
1.74 |
1.58 |
1.68 |
1.72 |
テスラ |
-5.03 |
-2.55 |
1.23 |
7.39 |
EBITDA(億ドル) |
ゼネラルモーターズ |
208 |
170 |
170 |
183 |
フォード |
164 |
125 |
132 |
144 |
テスラ |
3.4 |
11.7 |
23.3 |
38.0 |
- 注:予想はBloomberg集計によるコンセンサスによります。EBITDAは「利払い、税金、償却前利益」です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6:19年予想基準の株価評価でも大きな差
- 注:4/14(金)時点のデータによります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:空売りの買戻しが株価を押し上げた面も
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。