年の瀬も押し迫り、来年の「投資戦略」について考えておられる方も多いかもしれません。そこで、今回は2017年の世界の株式市場がどんな相場だったのかについて、国別および業種別の動向と、各国市場でどのような銘柄がよく上がったのかをまとめています。「投資戦略」を考える上でヒントになれば幸いです。
2017年はどんな相場だったのか |
2017年の世界の株式市場をひと言にまとめると、「近年になく安定して、大きく上昇した相場だった」と言えるでしょう。
これが良くわかるのが、バンガードトータルストックETF(VT)のチャートです(図表1)。同ETFは先進国株・新興国株ともに幅広く組入れるため、世界株価指数としても代用可能です。2014年から2016年にかけては、大勢としてもみ合いに終始したのに対して、2017年は年初から安定して大きく上昇しました。
2017年の年初はトランプ大統領の経済政策への強い期待で始まりましたが、実現には時間がかかりそうなことが程なく判明しました。しかし、市場の期待は繋がって大きな調整には至りませんでした。
リスク要因と目された欧州の選挙ではポピュリズムの台頭は限定的となる一方、「世界同時景気回復」が表面化して年央にかけて相場を押し上げました。8月末からは米国の法人税減税を含む税制改革への期待が高まって、年末にかけては米国株が相場の上昇を牽引しました。
国別には(図表2)、世界株価指数の上昇が21.3%に対して、米国が19.9%、日本が20.0%と似た水準となっています。ドイツは14.2%で劣後していますが、通貨ユーロの大幅な上昇を加味すると、実質的には日米よりも価値が高まったことになります。
新興国の上昇率はまちまちですが、香港、インド、ブラジルなど主要な市場は、20%を超える上昇となりました。世界経済のモメンタムが強まる一方で、米欧のインフレ率は上昇せず、米国の政策金利の引き上げは緩やかにとどまるとの見通しが株価の追い風になったとみられます。
業種別には(図表3)、米国市場の動きで代表させると、世界的に景気が回復したことを背景に、「景気敏感」業種の上昇率が高く、「ディフェンシブ」業種が相対的に弱い傾向が読み取れます。
ダントツの上昇率となった「情報技術」は、人工知能、IoTなど新しい技術の普及に加え、半導体の性能向上や通信スピードの上昇などにより、「情報技術」の活躍余地が広がっていることが背景にあるとみられます。
アップルが51.1%、マイクロソフトが37.6%、フェイスブックが54.2%、アルファベットが37.8%など、同業種の大手企業が軒並み大幅な上昇となったことも特徴と言えるでしょう。
「情報技術」が様々な産業で成長をリードする傾向は継続するとみられ、同セクターのパフォーマンスには来年も期待できそうです。
図表1:2017年の世界株式市場は安定的に上昇
- 注:バンガードトータルストックETF(VT)の5年週足チャートです。
- ※当社のWEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2:国別には多くの市場が20%前後の上昇を記録
- 注:16年末から17年12/21(木)の指数騰落率です。「世界株価指数」は、バンガードトータルストックETF(VT)の騰落率で代用しています。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:業種では景気敏感が優位で「情報技術」がダントツ
- 注:S&P500指数の10業種指数です。16年末から17年12/21(木)の指数騰落率です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国市場でよく上がった銘柄 |
米国市場もS&P500指数で年初来19.9%上昇と、例年に比べて大きく上昇した年になりました。
マクロ的にはトランプ大統領の経済政策が注目されましたが、年初来騰落率では「情報技術」の銘柄が多くランクインしています。背景については、(1)でご説明した通りです。その他、ヘルスケア機器、資本財の大手などもランクインしています。
個別では、上昇率トップはマイクロンテクノロジー(MU)でした。株価は2倍になっていますが、EPSはそれ以上に上方修正されたため、予想PERは4倍台まで低下しています。半導体メモリー市況が堅調となると、来年も大幅な株価上昇となる可能性がありそうです。
3番目のボーイング(BA)の大幅な上昇は、個人的にはかなり意外でした。昨年まで低迷していた業績は生産効率の向上で上方修正されましたが、株価がこれほど上がる修正ではない印象です。ただ、同社のライバルであるエアバスの株価も35.1%上昇しています。株式市場は世界的に航空機市場の長期的な成長を織り込みつつある可能性が窺がえます。同市場成長の背景である新興国経済が安定感を増していることも影響しているのかもしれません。
また、エヌビディア(NVDA)は、昨年に続いて今年も騰落率の上位にランクインしました。15年末の株価が32.96ドルですから、2年弱で実に5.9倍になったということになります。人工知能(AI)のトレーニングで独自の地位を築いていること、自動運転向けシステムが今後2〜3年で立ち上がってくるなど中期的な成長期待に加え、足もとではeスポーツ化でゲーム向けの成長が続いていることにも注目できるでしょう。
図表4:米国主要銘柄の年初来騰落率ランキング
コード |
銘柄 |
業種 |
年初来 |
予想 |
---|---|---|---|---|
MU |
マイクロン・テクノロジー |
情報技術 |
102.6 |
4.6 |
VRTX |
バーテックス・ファーマシューティカルズ |
ヘルスケア |
102.0 |
78.6 |
BA |
ボーイング |
資本財・サービス |
89.5 |
29.0 |
PYPL |
ペイパル・ホールディングス |
情報技術 |
87.5 |
39.8 |
NVDA |
エヌビディア |
情報技術 |
83.5 |
43.6 |
ATVI |
アクティビジョン・ブリザード |
情報技術 |
80.2 |
29.0 |
RHT |
レッド・ハット |
情報技術 |
76.7 |
42.8 |
LRCX |
ラムリサーチ |
情報技術 |
75.6 |
12.7 |
ISRG |
インテューイティブ・サージカル |
ヘルスケア |
70.9 |
41.6 |
ADBE |
アドビシステムズ |
情報技術 |
69.6 |
31.4 |
ILMN |
イルミナ |
ヘルスケア |
67.6 |
57.2 |
EL |
エスティローダー |
生活必需品 |
66.8 |
30.4 |
CAT |
キャタピラー |
資本財・サービス |
66.7 |
24.0 |
MAR |
マリオット・インターナショナル |
一般消費財・サービス |
62.0 |
31.6 |
AMAT |
アプライド・マテリアルズ |
情報技術 |
60.8 |
12.9 |
PGR |
プログレッシブ・コープ |
金融 |
57.2 |
23.3 |
SPGI |
S&Pグローバル |
金融 |
56.9 |
25.4 |
AMZN |
アマゾン・ドット・コム |
一般消費財・サービス |
56.7 |
100.5 |
ANTM |
アンセム |
ヘルスケア |
56.6 |
18.8 |
MCO |
ムーディーズ |
金融 |
56.4 |
25.0 |
- 注:S&P500指数採用企業のうち、時価総額が200億ドル以上の278銘柄を母集団としています。株価騰落率は、17年12月21日(木)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国市場でよく上がった銘柄 |
中国市場では、「情報技術」の銘柄が上昇したほか、「不動産」、「一般消費財・サービス」、「金融」など景気敏感業種の銘柄が幅広くランクインしています。また、製薬企業が3つ入っているのも目立っています。
「情報技術」では、スマホ用の高性能カメラレンズモジュールを提供する舜宇光学(02382)、通信設備および通信端末を製造する中興通訊( ZTE )(00763)、中国最大のインターネット企業であるテンセント(騰訊)(00700)、音声信号処理の半導体を主力とする企業で瑞声科技(02018)は、両社とも中国のスマホメーカーの台頭とともに成長しています。
また、「素材」の洛陽モリブデン(03993)は、リチウムイオン電池の正極材料に使用されるコバルトの世界シェアが高い点が注目されています。
「不動産」では、中国の不動産価格の上昇が続く中、開発用土地の積極的な取得を行ったり、他社の資産を買収した企業が評価されました。「一般消費財・サービス」では、自動車、ホテル、カジノなど、景気動向に対する感応度が高い銘柄が上昇しています。
尚、米国市場に上場している中国のネット通販大手、アリババグループ(BABA)は99.7%の上昇で、16位にランクインする位置にあります。
図表5:中国主要銘柄の年初来騰落率ランキング
コード |
銘柄 |
業種 |
年初来 |
予想 |
---|---|---|---|---|
03333 |
中国恒大集団[チャイナ・エバーグランデ] |
不動産 |
413.5 |
8.9 |
01918 |
融創中国控股[サナック・チャイナ・ホールディングス] |
不動産 |
366.7 |
22.5 |
00175 |
吉利汽車控股 [ジーリー・オートモービル] |
一般消費財・サービス |
244.1 |
20.4 |
02007 |
碧桂園控股 [カントリー・ガーデン・ホールディングス] |
不動産 |
208.3 |
13.3 |
02382 |
舜宇光学科技(集団)[サニーオプチカル] |
情報技術 |
193.7 |
34.9 |
03993 |
洛陽欒川钼業集団 [チャイナ・モリブデン] |
素材 |
150.8 |
27.4 |
01177 |
中国生物製薬 [シノ・バイオファーマシューティカル] |
ヘルスケア |
138.1 |
39.3 |
01031 |
金利豊金融集団[キングストン・フィナンシャル] |
金融 |
128.7 |
- |
00763 |
深セン市中興通訊 [ZTE] |
情報技術 |
114.8 |
21.9 |
02318 |
中国平安保険(集団) [ピンアン・インシュランス] |
金融 |
113.5 |
17.0 |
00700 |
騰訊[テンセント・ホールディングス] |
情報技術 |
112.9 |
49.1 |
00384 |
中国燃気控股 |
公益事業 |
110.6 |
18.2 |
01055 |
中国南方航空 [チャイナ・サザン・エアライン] |
資本財・サービス |
103.2 |
11.8 |
02018 |
瑞声科技[AACテクノロジーズ・ホールディングス] |
情報技術 |
102.0 |
27.4 |
02196 |
上海復星医薬(集団) |
ヘルスケア |
101.7 |
30.2 |
00069 |
香格里拉(亜洲) [シャングリラ・アジア] |
一般消費財・サービス |
98.8 |
40.8 |
01128 |
永利澳門 [ウィン・マカオ] |
一般消費財・サービス |
95.3 |
32.9 |
00960 |
龍湖地産[ロンフォー・プロパティーズ] |
不動産 |
94.1 |
9.6 |
01093 |
石薬集団 |
ヘルスケア |
92.5 |
35.3 |
02238 |
広州汽車集団[コウシュウキシャ] |
一般消費財・サービス |
91.3 |
9.4 |
- 注:当社が取り扱う香港上場企業のうち、時価総額が500億香港ドル以上の149銘柄を母集団としています。株価騰落率は、17年12月21日(木)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
その他市場でよく上がった銘柄 |
東南アジアでは、VN指数が42.3%も上昇したベトナムの銘柄が6つランクインしているのが目立ちます。ベトナム最大の不動産企業ビングループ(VIC)、食品大手のマサングループ(MSN)、同国最大企業のビナミルク(VNM)など、同国を代表する企業群が大幅に上昇しています。マクロ的な観点から国の成長を買うような性格の資金が流れ込んでいると考えられます。
ベトナム以外では、シンガポール、タイ、インドネシアが3銘柄ずつランクインしています。
騰落率トップのベンチャー コープ(VENM)は、電子機器の受託生産を行うシンガポール企業で、業績の修正とともに株価が上昇しています。顧客企業がIoT(モノのインターネット)関連として成長しているほか、同社が独占供給する遺伝子解析装置のイルミナ向けが伸びているようです。
タイのインドラマ ベンチャーズ(IVL)は石油化学メーカーで、1994年創業ですが積極的な買収でグローバルに事業展開、ペットボトルの原料となるポリエチレンテレフタレート(PET)では世界最大です。世界的な景気回復を背景に利益率が改善して、業績が伸長しています。
韓国市場は、スマホ、半導体、有機ELパネル、電池など、今年投資テーマとして注目された関連銘柄が多くあります。LG電子(066570)は液晶とテレビ向けの有機ELディスプレイ、サムスンSDI(006400)は電気自動車向けの電池、SKハイニックス(000660)は半導体メモリーの関連です。同国で時価総額最大のサムスン電子(005930)も、半導体部門の収益拡大が牽引して37.9%上昇しています。
ロシアは、今年株価指数ではマイナスと不振でした。世界で物色の中心となった「情報技術」の銘柄がなく(ネット検索のヤンデックス A(YNDX)は米国上場です)、上昇率の上位は「素材」銘柄が占めました。
図表6:その他市場主要銘柄の年初来騰落率ランキング
国 |
コード |
銘柄 |
業種 |
年初来 |
予想 |
---|---|---|---|---|---|
東南アジア(上位15銘柄) |
|||||
シンガポール |
VENM |
ベンチャー |
情報技術 |
103.1 |
17.5 |
タイ |
GPSC |
グローバル パワー シナジー |
公益事業 |
80.5 |
33.6 |
インドネシア |
BBNI |
バンクネガラインドネシア |
金融 |
78.7 |
13.9 |
ベトナム |
VIC |
ビングループ |
不動産 |
78.6 |
57.7 |
ベトナム |
MSN |
マサングループ |
生活必需品 |
69.0 |
35.2 |
ベトナム |
HPG |
ホアファット グループ |
素材 |
63.9 |
9.0 |
インドネシア |
BDMN |
バンク ダナモン インドネシア |
金融 |
62.4 |
14.7 |
タイ |
AOT |
タイ空港公社 |
資本財・サービス |
62.1 |
37.1 |
ベトナム |
VNM |
ビナミルク(ベトナム乳業) |
生活必需品 |
61.6 |
29.5 |
インドネシア |
UNTR |
ユナイテッド トラクターズ |
エネルギー |
61.2 |
17.2 |
タイ |
IVL |
インドラマ ベンチャーズ |
素材 |
59.7 |
19.3 |
シンガポール |
GLPL |
グローバル ロジスティック プロパティーズ |
不動産 |
53.2 |
40.4 |
ベトナム |
GAS |
ペトロベトナムガス |
公益事業 |
52.5 |
21.3 |
シンガポール |
CTDM |
シティ デベロップメンツ |
不動産 |
48.6 |
20.3 |
ベトナム |
CTG |
ベトインバンク |
金融 |
47.2 |
13.0 |
韓国(上位10銘柄) |
|||||
韓国 |
066570 |
LG電子 [エルジーエレクトロニクス] |
一般消費財・サービス |
93.8 |
9.7 |
韓国 |
006400 |
サムスンSDI |
情報技術 |
85.8 |
20.4 |
韓国 |
000660 |
SKハイニックス |
情報技術 |
71.6 |
5.1 |
韓国 |
086790 |
ハナ・フィナンシャル・グループ |
金融 |
61.0 |
7.8 |
韓国 |
051910 |
LG化学 [エルジー・ケミカル] |
素材 |
50.8 |
13.6 |
韓国 |
010950 |
エス・オイル |
エネルギー |
47.0 |
12.4 |
韓国 |
003550 |
LG |
資本財・サービス |
46.7 |
7.1 |
韓国 |
105560 |
KBフィナンシャル・グループ |
金融 |
45.6 |
7.6 |
韓国 |
096770 |
SKイノベーション |
エネルギー |
39.2 |
8.0 |
韓国 |
005930 |
サムスン電子 |
情報技術 |
37.9 |
8.4 |
ロシア(上位5銘柄) |
|||||
ロシア |
MAGN |
マグニトゴルスク・アイアン&スチール |
素材 |
29.5 |
7.9 |
ロシア |
SBER |
スベルバンク・オブ・ロシア |
金融 |
28.8 |
6.6 |
ロシア |
NLMK |
ノボリペツク製鉄所 |
素材 |
25.7 |
10.0 |
ロシア |
VSMO |
VSMPOアヴィスマ |
素材 |
20.5 |
- |
ロシア |
SIBN |
ガスプロム・ネフチ |
エネルギー |
14.3 |
4.8 |
- 注:当社の取扱銘柄で、東南アジアは時価総額が3,000億円以上の115銘柄、韓国は時価総額が10兆ウォン(約1兆円)以上の47銘柄、ロシアは1,000億ルーブル(約1,900億円)以上の19銘柄を、それぞれ母集団としています。株価騰落率は、17年12月21日(木)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。