世界的な景気減速の影響を受けてクラウド関連の一部市場は18年後半から19年前半にかけて減速したようです。しかし、19年後半には持ち直したとみられ、構造的な成長要因を背景に2020年も注目の投資テーマになりそうです。インフラサービスを牽引するマイクロソフト、アマゾンドットコムに加え、ソフトウェアで特徴的なサービスを展開する中堅企業をご紹介いたします。
図表1:注目のクラウド関連銘柄
銘柄 | 株価(12/24) | 52週高値 | 52週安値 |
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マイクロソフト(MSFT) | 157.38ドル | 158.49ドル | 93.96ドル |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 1789.21ドル | 2035.80ドル | 1363.01ドル |
ショッピファイ A(SHOP) | 399.39ドル | 409.61ドル | 121.38ドル |
トゥイリオ A(TWLO) | 100.55ドル | 151.00ドル | 76.57ドル |
VMウェア A(VMW) | 151.02ドル | 206.73ドル | 120.80ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
2020年に向けて期待の投資テーマの一つとして「クラウドコンピューティング」があげられるでしょう。
クラウドコンピューティングは、コンピュータによる情報処理を自分の手元のパソコンで行うのではなく、インターネットを経由してクラウド事業者のコンピュータで行うサービスのことで、様々なメリットがあることから成長市場となっています。
クラウドコンピューティングの市場を細かくモニターできる指標はありませんが、高成長が続いていた「インフラサービス」を中心に18年後半から19年初めにかけて業界の成長は鈍化しました(図表2)。特に「IaaS」(インフラストラクチャーアズアサービス)は17年から18年にかけてマイナス成長になったようです。
しかし、以下のような企業の決算、コメントなどから19年後半には復調したとみられます。
- インテルのクラウド向け製品を含む「データセンターグループ」部門の売上が1-3月期の前年同期比6%減、4-6月期の同10%減から7-9月期には同4%増に回復。
- マイクロンテクノロジーの9-11月期決算発表で、「データセンターのサーバー向けDRAM需要が強く、19年後半には業界全体で高機能製品に対する品不足が発生している」。
クラウドコンピューティングは引き続き成長が見込める分野として注目できるでしょう。
第2節でアマゾン、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)などクラウドのインフラサービスを提供している大手の攻防について、第3節でソフトウェアのサービスを提供している関連の中堅銘柄に関してご紹介いたします。
尚、クラウドコンピューティングの基本的な仕組みとなぜ伸びているのかについては、2019/1/9付け「10分でわかる!?クラウドコンピューティングと関連銘柄」をご参照ください。
図表2:世界のクラウドサービス市場規模の推移
- 注:インフラサービスは、「IaaS」(インフラストラクチャーアズアサービス)、「CaaS」(クラウドアズアサービス、「PaaS」(プラットフォームアズアサービス)を含みます。ソフトウェアサービスは、「SaaS」(ソフトウェアアズアサービス)です。
- ※総務省「情報通信白書 令和元年版」よりSBI証券が作成
クラウドのインフラサービスをグローバルに展開している企業は数社に限られるため、投資対象として有望と考えられます。
現状は1位のアマゾンを2位のマイクロソフト、3位のアルファベットが急速に追い上げつつあり、そのほかIBM、セールスフォースドットコム、オラクルなどが市場に参加しています。
今後の成長見通しが最も良いのは、マイクロソフト(MSFT)と考えられます。その理由は「企業のIT部門との接点があり、クラウドサービスの新規開拓に有利」と考えられるからです。
クラウドの普及が進むにつれ、新規に顧客となる企業の規模は小さくなると考えられますが、このような環境下でメールソフトの「Outlook」、ビジネスソフトの「Office」などで企業のIT部門にとっかかりのあるマイクロソフトはクラウドの開拓営業を有利に進められるとみられます。
消費者向けのビジネスが主体であったアマゾンやアルファベット(グーグル)は、一般企業との関係を構築するために一から営業活動を行う必要があります。一方、企業のITシステムに深く食い込んでいるIBMについては、クラウド化が進むと既存のビジネスにマイナスの影響が出る部分があり、他社ほど積極的に事業推進しにくい面があるようです。
また、19年10月に米国防総省の100億ドル規模の案件をアマゾンと競ってマイクロソフトが獲得したことも、同社のクラウドが加速するきっかけとなる可能性が注目されています。
というのも、2013年に米中央情報局(CIA)のクラウド案件をアマゾンがIBMに競り勝って受注したことが「CIAショック」として関係者を驚かせ、業界の見方が大きく変わった前例があるためです。
それまでアマゾンのクラウドサービスは、自社で余ったサーバーを安く提供しているのだろうぐらいに考えられていました。しかし、CIAの案件ではサービスやセキュリティの水準が厳しくチェックされるため、アマゾンのクラウドが「余技のレベルでない」と証明されて拡大の契機になりました。
今回の案件では、圧倒的に有利と考えられていたアマゾンを抑えて受注したことから、マイクロソフトのクラウドが台頭する契機になるのではとの見方があるようです。
図表3は、「インフラ」に加えて、「ソフトウェア」のサービスも加えたクラウドの総合力ランキングですが、18年にはアマゾンをマイクロソフトが抜いてトップとなっています。
アマゾン ドットコム(AMZN)については、マイクロソフトに追い上げられるものの、引き続きインフラ市場でトップシェアをもつ強みを生かして高い成長を維持できると期待されます。
ネット通販事業の先行投資のために足もとの業績は停滞気味ですが、7-9月期のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)部門は売上が前年同期比35%増、営業利益が同9%増と好調を維持しています。
アルファベット A(GOOGL)は、クラウドでアマゾン、マイクロソフトに大きく出遅れましたが、2023年までに両社に追いつくことを目標に投資を急拡大しています。クラウド関連の売上高はグーグル事業の売上に含まれていて、まだ公表されていませんが(図表3の売上は調査会社による推定です)、2020年には公表される見込みです。2015年にアマゾンがAWSの売上を分別開示してから会社に対する見方が変わったこともあり、注目できるでしょう。
図表3:クラウド大手の売上(18年)
- ※IHSマークイットの公表データよりSBI証券が作成
クラウドのインフラサービスで期待できるのはマイクロソフトというお話をしましたが、ソフトウェアをサービスとして提供している中堅企業についても検討してみましょう。
銘柄ピックアップの条件を、(1)クラウドを投資テーマとした米国上場のETFのグローバルXクラウドコンピューティングETF(CLOU)とファースト・トラスト・クラウド・コンピューティングETF(当社取り扱いなし)の組み入れ上位10銘柄(2019/9/30時点)で、(2)今期・来期の予想増収率が10%以上、(3)時価総額が50〜1,000億ドル、としました。
図表4に抽出した銘柄の事業内容を見ると、人材管理や給与計算のソフトウェアを提供する企業が複数あるほか、特定業界向けのソフトウェア、サイバーセキュリティなどのサービスを提供しているものが含まれています(図表4)。
ただ、ソフトウェアをサービスとして提供するのは当たり前になってきているとみられ、先行きはクラウドで提供することが事業の差別化要因にはならなくなってきそうです。
そのような観点からは、事業に特徴がある、企業向けにeコマースサイトの構築ソフトウェアを提供するショッピファイ、アプリに通信機能を組み込めるサービスを提供する トゥイリオなどが注目できそうです。株価のバリュエーションは非常に高いため投資には注意が必要ですが、中長期の成長が見込まれている企業と言えるでしょう(図表5)。
中小企業向けにオンラインストアを開設できるプラットフォームを提供している企業です。PC、モバイル、SNSなど複数の販売チャンネルに対応する機能を早くから導入したことで成長してきました。また、支払い機能、資金提供、配送委託などの機能を加えることで、今後の成長も支えられると期待されます。
大企業向けでは、SAP、セールスフォースドットコム、オラクルなどがサービスを提供していますが、中小企業向けでは同社が業界のリーダーとされます。175ヵ国にまたがる60万社以上の顧客企業を擁し、18年12月期の海外売上は30%まで拡大しています。
ウェブ開発者向けに、電話、テキストメッセージ、ビデオなど様々な通信機能をアプリに組み込めるプラットフォームを提供する企業です。例えば、ウーバーはドライバーとのやり取りに使い、ノードストロームの販売員は顧客との通信にトゥイリオのサービスを利用しています。企業のウェブサイトは、通信機能を組み込むことが多くなっているため、同社サービスに対する需要は拡大が続くと期待されます。
19年8月時点で16万社が同社のサービスを利用しており、ネットフリックス、Airbnb、Lyft、hulu、ツイッター、ブッキングドットコムなど有名なインターネット企業を含みます。
ITリソースの仮想化ソフトウェアの標準的な製品を提供する企業です。従来型のITシステムにも広く採用されていることから、クラウドに移行するとマイナスになる部分があります。しかし、クラウドのインフラ大手3社アマゾン、マイクロソフト、グーグルと提携しているため、マイナスを相殺してプラス成長を確保することができています。
19年8月にアプリケーションの開発基盤を提供するPivotal社とセキュリティ技術のCarbon Black社の買収を発表(2020年後半に取引完了見込み)しています。将来的に多くの企業が複数のクラウドインフラ企業と取引するようになるとの見通しから、そのような状況に対応するための準備と考えられています。
図表4:クラウド中堅企業の事業内容(時価総額順)
銘柄(コード) | 事業内容 |
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VMウェア A(VMW) | 仮想化技術のソフトウェアを提供。 |
ショッピファイ A(SHOP) | クラウドを活用して企業向けにeコマースサイトの構築ソフトウェアを提供。 |
ワークデイ A(WDAY) | クラウドを活用して企業向けに財務・人事関連のソフトウェアを提供。 |
ペイコム ソフトウェア(PAYC) | クラウドで人材管理や給与計算などを効率化するソフトウェアを提供。 |
トゥイリオ A(TWLO) | クラウドベースでアプリに通信機能を組み込めるサービスを提供。 |
クーパ ソフトウエア(COUP) | クラウドで企業向けに支出監理のプラットフォームを提供。 |
ドロップボックス A(DBX) | クラウドで作業効率化プラットフォームを提供。 |
プルーフポイント(PFPT) | クラウドベースでサイバーセキュリティサービスを提供。 |
ペイロシティ ホールディング(PCTY) | クラウドで人材管理や給与計算などを効率化するソフトウェアを提供。 |
Zスケーラー(ZS) | モバイル、クラウド向けセキュリティ大手。 |
リアルページ(RP) | クラウドで不動産業界向けにソフトウェアを提供。 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:クラウド中堅企業の投資指標(時価総額順)
銘柄(コード) | 株価 (12/23) (ドル) |
予想PER (来期) (倍) |
増収率 (来期予想) (%) |
増益率 (来期予想) (%) |
株価騰落 (年初来) (%) |
株価騰落 (3ヵ月) (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
VMウェア A(VMW) | 152.68 | 21.8 | 11.7 | 6.5 | 11.3 | 0.4 |
ショッピファイ A(SHOP) | 389.13 | 446.8 | 35.5 | 406.4 | 181.1 | 24.2 |
ワークデイ A(WDAY) | 165.61 | 76.0 | 20.5 | 21.5 | 3.7 | -5.1 |
ペイコム ソフトウェア(PAYC) | 265.02 | 61.9 | 23.4 | 25.3 | 116.4 | 21.9 |
トゥイリオ A(TWLO) | 100.39 | 392.1 | 31.5 | 92.5 | 12.4 | -11.1 |
クーパ ソフトウエア(COUP) | 148.75 | 413.2 | 28.0 | 42.9 | 136.6 | 3.8 |
ドロップボックス A(DBX) | 17.775 | 30.5 | 14.7 | 22.7 | -13.0 | -12.3 |
プルーフポイント(PFPT) | 116.28 | 61.5 | 20.0 | 9.1 | 38.7 | -8.9 |
ペイロシティ ホールディング(PCTY) | 121.11 | 56.9 | 20.0 | 21.6 | 101.1 | 20.7 |
Zスケーラー(ZS) | 48.17 | 170.2 | 29.1 | 92.5 | 22.9 | -4.3 |
リアルページ(RP) | 53.79 | 28.0 | 14.5 | 9.8 | 11.6 | -16.5 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。