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新型コロナウイルスによる業績へのインパクトが小さそうな銘柄

2020/3/11
投資情報部 榮 聡

米国株式市場は、新型コロナウイルスに対する懸念をきっかけに下落に転じ大幅な調整となっています。新型コロナウイルスによる影響は、マクロ的には織り込みが進みつつあるとみられますが、個別銘柄では影響が出そうな銘柄は手掛けにくい状況が続きそうです。そこで今回は新型コロナウイルスによる業績へのインパクトが小さそうな銘柄をご紹介いたします。

図表1:注目銘柄

銘柄 株価(3/10) 52週高値 52週安値
ネットフリックス(NFLX) 364.13ドル 393.52ドル 252.28ドル
アマゾン ドットコム(AMZN) 1891.82ドル 2185.95ドル 1626.01ドル
エレクトロニック アーツ(EA) 103.38ドル 114.13ドル 86.24ドル
マイクロソフト(MSFT) 160.92ドル 190.70ドル 110.98ドル
セールスフォース ドットコム(CRM) 161.34ドル 195.72ドル 137.87ドル
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

1新型コロナウイルス、米企業への影響

米国株式市場は2月末から大荒れとなっています。

新型コロナウイルスの感染が「パンデミック」(世界的な疫病の大流行)になるのではとの懸念をきっかけに下落に転じ、3/9(月)には原油価格の2割を超える急落が追い打ちとなりました。

この下落を受けて2月下旬のピーク時には19倍台に達していたS&P500指数の予想PERは16倍台まで低下、昨年末あたりから目立っていた市場の過度な楽観はかなり修正されたとみられます。

マクロ的には新型コロナウイルスによる影響は織り込みが進んだとみられる一方、個別銘柄では影響のある銘柄は物色しにくい状況が続きそうです。そこで今回のレポートでは、新型コロナウイルスからの影響が小さいと考えられる企業をピックアップしてご紹介いたします。

その前に「コロナショック」は米国企業の業績にどのような影響を与えそうなのか確認してみましょう。

S&P500指数採用企業の1-3月期予想EPSは、19年末時点の前年同期比4.5%増から3/6(金)に同0.1%増まで下方修正されています。19年10-12月期の決算は比較的好調でしたので、この下方修正には新型コロナウイルスの影響がかなり含まれていると考えられます。

FactSet社の調査によると、2/14(金)までに四半期決算を発表したS&P500指数採用の364社について、38%に当たる138社が決算説明会で「コロナウイルス」に言及したそうです。

このうち47社が、 「影響を数値化するには早すぎる、または、難しい」「ガイダンスに影響は含めていない」として、影響はあるものの、その程度をはかりかねている企業も多いようです。

一方、「ガイダンスに影響を含めた」 「影響を考慮してガイダンスを変更した」としたのが38社あり、アップル、クアルコム、エヌビディア、アプライドマテリアルズ、シーゲートテクノロジー、スターバックス、ヤムブランズ、ウォルトディズニー、MGMリゾーツ、タペストリー、エスティーローダー、アンダーアーマーなどが含まれます。

主要企業で具体的なコメントがあったものを図表2にリストアップしています。

最近に発表した企業では、売上や利益にどの程度インパクトがあるか、数値で示す例も増えてきています。一方、アップルのようにガイダンスが未達とした企業では、どの程度の落ち込みになるか不明で、不安感も強くなりやすいでしょう。

図表2:新型コロナウイルスによる米企業業績への影響

企業名 日付 業績に関するコメント
スターバックス 1月28日 影響を考慮して10-12月期の好調を受けた20年9月期のガイダンス引き上げを控えた。
ウォルトディズニー 2月4日 閉鎖している上海、香港のパーク事業の営業利益が減少見通し。
エスティローダー 2月6日 1-3月期の売上を1〜2%ポイント押し下げる。
エヌビディア 2月13日 2-4月期の売上見通しを1億ドル引き下げた。
アップル 2月17日 1-3月期の売上ガイダンスは、サプライチェーンと中国需要の両面から達成できない見通し。
マイクロソフト 2月26日 ウィンドウズOSやノートPCを含むモア・パーソナル・コンピューティング部門の売上ガイダンスは未達となる見通し。
ビザ 3月3日 4-6月期の売上高の伸び率が当初予想を2.5〜3%下回る。
GE 3月4日 1-3月期のキャッシュフローが3〜5億ドル減少する。
  • ※各種報道をもとにSBI証券が作成

2新型コロナウイルスの影響が小さい業種

新型コロナウイルスによる業績への影響が小さいと考えられる業種(S&P500指数の24業種分類)として以下の4つを選びました。

  • ソフトウェア・サービス (S&P500指数採用 35銘柄)
  • インターネット販売 (     〃      4銘柄)
  • 通信サービス (     〃      4銘柄)
  • メディア・娯楽 (     〃      19銘柄)

ソフトウェア・サービスは、サプライチェーン混乱の影響がなく、販売もオンラインで行われることも増えているため、影響は限定的と考えられます。テレワークでの対応も行いやすい業態と考えられます。

インターネット販売は、外出を控え、人混みを避けるために利用が増えそうです。

通信サービスでは、スマホや通信基地局の生産に遅れがでると、新規顧客の開拓は影響を受けそうです。しかし、既存契約者に関するビジネスへの影響は小さいと考えられます。

メディア・娯楽は、ここに含まれるインターネット動画やゲームソフトの企業は、巣ごもり消費の活発化から恩恵を受けると考えられます。一方、遊園地や映画は外出を控えることから大きなマイナスの影響を被る企業もありそうです。

これら業種に属する62銘柄について、以下の条件でスクリーニングを行いました。

【スクリーニング条件】

  • (1)過去3ヵ月の予想EPS修正率がプラス
  • (2)年初来の株価騰落率がプラス

(1)はアナリストが業績予想を上方修正したことを示し、四半期決算が市場予想を上回るなど直近の業績が良い銘柄を選ぼうということで、(2)はS&P500指数が8%下落(3/6(金)時点)しているのに対して株価が堅調なものを選ぼうという意図です。

(1)はアナリストが業績予想を上方修正したことを示し、四半期決算が市場予想を上回るなど直近の業績が良い銘柄を選ぼうということで、(2)はS&P500指数が8%下落(3/6(金)時点)しているのに対して株価が堅調なものを選ぼうという意図です。

抽出された図表3の銘柄から、企業規模や事業内容を考慮して5銘柄を次節でご紹介いたします。

なお、あまり馴染みのない企業もあると思われますので、これらについては簡単に事業内容をご説明いたします。

  • レイドス・ホールディングス: 米国の防衛関連、航空産業、ヘルスケア向けのITサービスを提供している企業です。
  • アカマイ・テクノロジーズ: 世界中にデータセンターを設置して、インターネットのコンテンツ配信を請け負う企業です。例えば、ネットフリックスのストリーミング動画は、同社のサーバーから配信されているといった具合です。
  • ジャック・ヘンリー・アンド・アソシエーツ: 地方銀行向けのITサービスの企業です。
  • サービスナウ: 企業向けにワークフローをデジタル化するサービスや、人事、法務、経理などのサービスをクラウド経由で提供する企業です。
  • シトリックス・システムズ: 企業向けにデジタルワークスペース、ネットワーキング、セキュリティ、アナリティクスなどのサービスをクラウドで提供している企業です。

図表3:新型コロナウイルスの影響が小さい銘柄のスクリーニング

コード 銘柄 株価
(3/6)
(ドル)
予想
PER
(倍)
予想EPS
修正率
(3ヵ月)(%)
株価騰落
(年初来)
(%)
目標株価
修正率
(3ヵ月)
NFLX ネットフリックス 368.97 54.0 6.7 14.0 4.5
MSFT マイクロソフト 161.57 28.5 5.0 2.5 21.9
LDOS レイドス・ホールディングス 105.68 18.8 3.9 8.0 32.5
AMZN アマゾン・ドット・コム 1901.09 46.4 3.6 2.9 10.9
AKAM アカマイ・テクノロジーズ 90.62 18.5 2.7 4.9 10.8
CRM セールスフォース・ドットコム 164.08 51.5 2.0 0.9 11.8
JKHY ジャック・ヘンリー・アンド・アソシエーツ 161.44 43.8 1.5 10.8 11.2
NOW サービスナウ 317.24 74.8 0.7 12.4 20.7
EA エレクトロニック・アーツ 107.67 22.9 0.5 0.1 7.2
CTXS シトリックス・システムズ 117.91 21.6 0.3 6.3 13.0
ADBE アドビ 336.77 34.3 0.1 2.1 12.2
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

3注目銘柄をご紹介

図表3に抽出された銘柄群から、「巣ごもり消費」で恩恵を受けそうな銘柄3つと、新型コロナウイルスによる事業への影響が限定的と考えられるソフトウェアの成長企業2つを取り上げます。

ネットフリックス(NFLX)

  • インターネットTVの世界最大手です。新型コロナウイルスで消費者が「巣ごもり消費」する場合に、最も恩恵が大きい企業の一つと言えそうです。定額見放題のサービスのため、既存加入者が視聴頻度をあげても売上は変化しませんが、新規加入者数にはポジティブな影響が出ると期待されます。
  • 同社の株価は「Disney+」や「アップルTV」との競合が懸念されて昨年央にかけて調整しましたが、これら競合サービスが実際に開始されるにつれて回復基調となっています。10-12月期決算では、米国とカナダの新規加入者数が55万人と市場予想の61万人を下回ったものの、海外の新規加入者数は833万人と市場予想の720万人を大きく上回りました。また、業績も市場予想を上回って好調です。

アマゾン ドットコム(AMZN)

  • 新型コロナウイルスの影響で、ショッピングセンターへ行くのを控えることや、スーパーでの買い物の頻度を落とすことが想定され、インターネット通販に対する需要が拡大すると期待されます。北米事業の売上は19年10-12月期も前年同期比22%増と好調でしたが1-3月期も高い伸びが期待されます。
  • 同社の業績は配送期間を短縮するための物流投資で利益が抑えられていますが、北米事業の減益率は7-9月期から10-12月期にかけて縮小したことから最悪期を脱した可能性があるとみられます。一方、クラウドサービスのAWSは、マイクロソフトやアルファベットとの競合があるものの、10-12月期の売上が前年同期比34%増と高成長を維持して同社の成長をけん引しています。

エレクトロニック アーツ(EA)

  • 同社はゲームソフト制作大手で新型コロナウイルスによる「巣ごもり消費」の恩恵を受ける可能性がありそうです。スポーツライセンスを活かした「FIFA」「NBAライブ」や射撃ゲーム「バトルフィールド」などが主力タイトルです。プラットフォーム別の売上は、ゲームコンソール67%、モバイル17%、PC16%、販路別には、オンラインが75%、パッケージが25%です(19年3月期)。
  • 20年3月期は「Apex Legends」「Star Wars Jedi: Fallen Order」などの投入により業績が回復、21年3月期も増収増益が見込まれます。さらに、22年3月期は大型タイトル「バトルフィールド」の投入が予定されており、業績の予見性が高くなっています。ゲーム業界を席巻した「フォートナイト」に売上を食われて伸び悩みましたが、その影響も一巡したと考えられます。

マイクロソフト(MSFT)

  • クラウドのインフラを提供する企業としてアマゾンに次ぐ2位の位置にあり、急速に追い上げています。メールソフトの「Outlook」、ビジネスソフトの「Office」などで企業のIT部門に接点があるため、クラウドの新規開拓営業に有利と考えられます。また、19年10月に米国防総省の100億ドル規模の案件をアマゾンと競ってマイクロソフトが獲得したことも、同社のクラウドが加速するきっかけになるのではと注目されています。
  • 10-12月期決算は前年同期比14%増収、同37%増益と引き続き好調でした。インテリジェント・クラウド部門が27%増収と成長をけん引、その中心である企業向けクラウドの「Azure」は前年同期比62%増と、7-9月期の同59%増を上回る伸びを記録しています。2/26(水)には、モア・パーソナル・コンピューティング部門の売上ガイダンスが、ノートPCの「サーフェス」とOEM向けウィンドウズOSの落ち込みにより未達になると発表しています。ただ、サプライチェーン分断の影響を受けるもので一時的であり、同社の評価に対する影響は限定的と考えられます。

セールスフォース ドットコム(CRM)

  • 企業向けに販売支援(顧客関係管理)、顧客サービス支援、マーケティング支援などのソフトウェアをクラウドで提供する企業で、顧客関係管理ソフトウェアでは世界最大です。企業のクラウド採用拡大を受けて高成長が続いており、24年1月期までの4年間で売上260〜280億ドルへ倍増を目指しています。
  • 19年11月-20年1月期決算は、世の中のデジタル化推進を受けて売上が前年同期比35%増と高い伸びが維持され、市場予想も上回りました。19年8月に買収したTableau社の売上を含みますが、これを除いた場合でも売上の伸び率は25%に達します。2-4月期の売上ガイダンスが市場予想を上回り、好調な決算を受けて21年1月の売上ガイダンスの上限を2億ドル引き上げて210〜211億ドルとしています。
  • ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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