IPOの注目点
(1)売上減少が続いた音楽産業はストリーミングで復活
(2)初めての「音楽」のピュア・プレイ
(3)COVID-19による影響は分野によりまちまち
図表1:IPOの概要
企業名(コード) |
ワーナーミュージックグループ(WMG) |
上場市場 |
ナスダック |
---|---|---|---|
公表日 |
2/6(木) |
上場日(予定) |
6/3(水) |
予想公募価格 |
23.0〜26.0ドル |
募集・売出し株数 |
70百万株 |
公募規模 |
1,820百万ドル |
時価総額概算 |
133億ドル |
- 注:公募規模は、「募集・売り出し株数×予想公募価格の上限」で計算しています。時価総額概算は「IPO後の発行済株式数(オーバーアロットメントを含まない)×予想公募価格の上限」で計算しています。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※SBI証券では米国株式のIPOの申込み等の受付は行っておりません。当社では上場後に取扱銘柄へ追加を予定しております。
売上減少が続いた音楽産業はストリーミングで復活
90年代以降縮小が続いていた音楽産業の売上は、ここ5年はストリーミング市場の成長により拡大に転じています(図表2)。けん引しているのは、アップル・ミュージック、スポティファイ、アマゾン・ミュージックなどが提供している定額のサブスクリプションによって数千万曲が聴き放題になるサービスで、世界的に普及が進みつつあります。
IFPI(国際レコード・ビデオ製作者連盟)によると、世界の音楽ストリーミングの加入者は19年末に3億4,100万人で前年比34%増加していますが、32億のスマートフォンユーザーに対しては11%に過ぎず、普及余地が大きいと考えられています。国別には、スポティファイが生まれたスウェーデンの普及率が30%と高いのに対して、米国は25%、ドイツは16%で、日本に至っては7%にとどまっています。
ゴールドマンサックス社は、2023年に業界の売上は450億ドルに拡大すると予想しており、音楽産業は成長産業になったと考えられます。
初めての「音楽」のピュア・プレイ
世界の音楽業界を牛耳る大手3社のうち、ユニバーサル・ミュージックはフランスのメディア企業のヴィヴェンディ、ソニー・ミュージックは日本のソニー傘下にあり、また、スポティファイはストリーミングで音楽を販売していますが、音楽に対する権利を保有している会社ではありません。このため、ワーナーミュージックグループはグローバルに展開する音楽の会社で初のピュア・プレイ(注目する産業に特化した企業への投資機会)として、株式市場の注目を集めると考えられています。
COVID-19による影響は分野によりまちまち
COVID-19は世界的に「巣ごもり消費」を促した結果、インターネットTVのネットフリックスや音楽ストリーミングのスポティファイには恩恵となっています。ワーナーミュージックグループ売上の約半分を占めるデジタルの売上はストリーミング向けの伸びによって恩恵を受ける可能性が高いと考えられます。
一方、CD/DVDショップなどでの販売や、コンサートなどのライブイベントが軒並み中止となってアーティストに対するサービス売上や著作権の販売ビジネスには大きな影響が出ているとみられます。全体では、打撃はあるものの、恩恵となる分野もあり、壊滅的な業績悪化は避けられると期待できそうです。
会社概要
世界的な音楽企業の一角で、アトランティック・レコード、ワーナー・レコード、エレクトラ・レコード、パーロフォンなどのレコードレーベルのほか、音楽出版のワーナー・チャペル・ミュージックからなります。
大手メディア企業のタイム・ワーナー社から2004年に分離して独立音楽企業となり、翌年には株式を公開しました。その後、2011年にレオナルド・ブラヴァトニク氏が率いるアクセス社に買収されて今日に至っています。今回のIPOに際して、同氏とアクセス社が保有株の14%を売却します。
19年9月期売上の86%を占める「レコーデッド・ミュージック(Recorded Music)」は、アーティストの発掘とプロモーションを行い、音楽の販売を行う部門で、エド・シーラン、ブルーノ・マーズ、カーディ・Bなどに代表されるアーティストとの契約を保有しています。残りの14%を占める「ミュージック・パブリシング(Music Publishing)」は、音楽著作権の取得とライセンスを行う部門で、トゥエンティワン・パイロッツ、リゾ、ケーティ・ペリーなどとの契約を保有しています。
レコーデッド・ミュージック部門売上の61%をデジタルが占め、フィジカル(CDやDVDの販売)は15%、残りの24%はアーティストへのサービス、ライセンスなどが占めます。全売上の44%が米国、56%が海外です。
業績推移
19年9月期は、デジタルが前年比16%増とけん引して売上は同12%増、営業利益は同64%増でした。純利益が減少しているのは、18年9月期に税金関係の収支がネットでプラスになっていた反動です。
19年10月-20年3月期は、デジタルが前年同期比9%増となるもフィジカルが同23%減となったことやドル高による目減りもあって売上が前年同期比1%増にとどまりました。営業利益は、経営トップ2名に対する報酬スキームである「Senior Management Free Cash Flow Plan」の支払いが167百万ドル(前年同期比145百万ドル増)発生したことを主因に同24%減でした。
4月単月の売上は、レコーデッド・ミュージック部門のデジタルとミュージック・パブリシング部門の売上は増加したものの、その他の売上の減少を受けて前年比12%減(ドル高の影響を除いて同10%減)になったと開示しています。
筆者の見方
足もとの業績はさまざまな要因で冴えませんが、ストリーミング市場成長の恩恵を受けられる企業として中長期で注目できるでしょう。
図表2:世界のレコードミュージック産業売上
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表3:業績推移
17年9月期 |
18年9月期 |
19年9月期 |
18年10月− |
19年10月− |
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売上高(百万ドル) | 3,576 | 4,005 | 4,475 | 2,293 | 2,327 |
レコーデッド・ミュージック | 3,020 | 3,360 | 3,840 | 1,974 | 1,992 |
ミュージック・パブリシング | 572 | 653 | 643 | 323 | 339 |
営業利益(百万ドル) | 222 | 217 | 356 | 269 | 116 |
純利益(百万ドル) | 149 | 312 | 258 | 153 | 48 |
EPS(ドル) | 0.29 | 0.61 | 0.51 | 0.30 | 0.09 |
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。