世界的にCOVID-19ワクチンの接種が順調に進んでいることから経済回復に対する信頼感が高まり、また、将来のインフレをヘッジする手段としても、コモディティへの注目が高まっているとみられます。主要コモディティの価格推移を概観した上で、関連の投資商品、関連銘柄をご紹介いたします。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(3/23) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エクソン モービル(XOM) | 55.22ドル | 62.55ドル | 30.11ドル |
フリーポート マクモラン(FCX) | 32.20ドル | 39.10ドル | 5.26ドル |
アルコア(AA) | 27.42ドル | 33.45ドル | 5.16ドル |
アルベマール(ALB) | 146.47ドル | 188.35ドル | 48.89ドル |
ノリリスク ニッケル (MMC Norilsk Nickel)(GMKN) | 22,252ルーブル | 28,224ルーブル | 17,100ルーブル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
昨年12月下旬に始まったCOVID-19ワクチンの接種は、3/22(月)までに米国で1億3,000万回、世界で4億4,700万回と順調に進み、経済回復への信頼感は世界的に高まっていると考えられます。
このような動きを受けて株式市場ではCOVID-19のパンデミックによる打撃が大きかった景気敏感株やバリュー株を物色する動きがみられ、その一カテゴリーとして、コモディティ関連銘柄も注目を集めています。
また、先日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、経済見通しを引き上げる中でも従来通りの金融緩和策を維持したことから、将来のインフレに対する期待が高まり、インフレをヘッジする手段としても注目できるでしょう。
3/23(火)にはドイツでCOVID-19の感染急増を理由に行動制限が延長されたことから、原油価格が急反落し、景気敏感株も利食いに押されましたが、一時的な動きと考えています。
そこで今回は、主要コモディティの価格動向と関連の投資商品をまとめました。第1節では主要コモディティの価格動向、第2節で現物やETFによる投資方法、第3節でコモディティ関連銘柄をご紹介します。
では、主要コモディティの価格動向をみてみましょう。
【原油】
WTIの先物価格はCOVID-19のパンデミックを受けて2020年4月には1バレル20ドルを割れる水準に下落しましたが、その後急反発して6月には40ドル台を回復、以後COVID-19第2波などを背景に10月まで40ドル前後でもみ合いました。
一方、11月にはCOVID-19のワクチン開発を受けた景気回復期待から再び上昇が始まり、2021年に入ってパンデミック前の50ドル台を回復、2月には60ドル台に上昇しました。3/4(木)の「OPECプラス」会合では減産幅の縮小が見込まれていましたが、減産幅がほぼ維持されたことで一時66ドル台まで上昇しました。3/23(火)にはドイツでCOVID-19感染の急増を理由に行動制限が延長されたことから、57ドル台まで急反落となっています。
今後については、供給側では「OPECプラス」の減産幅がいつ縮小されるか、回復が遅れている米国シェールオイルの生産動向(米国のオイルリグはパンデミック前の600基超に対して3月19日時点で318基にとどまる)、需要側では経済回復にともなう需要の回復がどのようなペースで進むかがポイントになると考えられます。
【ベースメタル】
主要なベースメタルの価格はCOVID-19のパンデミックを受けて2020年4月にかけて下落、その後は徐々に回復して2020年7月〜10月にかけてパンデミック前の水準を回復、2021年1月〜3月にかけて一段高となっています。特に銅、ニッケルが2021年3月初に140ポイントに達するなど上昇幅が大きいのは、シクリカルな需要回復に電気自動車の製造に多用されるという構造的な要因が加わっていることが理由と考えられます。
銅は電気自動車のモーターの巻き線や各種の配線に大量に使用されます。また、ニッケルは電気自動車に搭載される蓄電バッテリーの鍵になる金属として需要が拡大しています。一方、ニッケル価格が3月初めより大きく下落したのは、中国のニッケル生産大手の青山集団(Tsingshan Holding Group)が電気自動車のバッテリー向けに従来よりも安価な製法を開発して供給を増やすとしたことが影響しています。
電気自動車に関しては、テスラなど専業メーカーだけでなく、フォルクスワーゲン、GM、フォードといった伝統的な自動車メーカーのシフト意欲が高まっているため、引き続きベースメタルの需給はタイトに推移する可能性が高そうです。
【金】
金の現物価格はCOVID-19のパンデミックによる経済活動の制限を受けて2020年8月に1トロイオンス2,075.47ドルを付けて、2011年以来の史上最高値を更新しました。一方、2020年11月にCOVID-19のワクチンが開発されて1,800ドル割れ、2021年2月から米国の長期金利が急上昇し、同時に実質金利のマイナス幅もマイナス1%からマイナス0.5%前後まで縮小したことで3月に1,700ドル割れを付けています。
世界中でワクチン接種が順調に進んでいることから、経済回復への信頼感は高まりやすく、長期金利の上昇、実質金利のマイナス幅縮小が続きやすいと考えられるため、金価格の抑制要因になると見込まれます。
一方、リスクシナリオとして、現在流通しているワクチンが効かない変異ウイルスの発生する場合には、安全資産としての金に対する需要が戻ってくるでしょう。また、米中、米ロ関係はバイデン政権の発足当初に市場が期待したよりも厳しさが増しているとみられます。国際情勢の緊張が高まる場合には金価格を支える要因となりそうです。
【農産物】
穀物価格はCOVID-19のパンデミックを受けてやや軟調に推移した後、2020年夏ごろから上昇を始め、2021年初にかけて大きく上昇しました。2020年の前半はパンデミックの影響で米中の「第一段階の合意」に基づく中国の購入が実行されなかったほか、食肉加工場の閉鎖を受けて家畜の飼育頭数が減った影響が出たとみられます。
一方、年後半の回復は中国による対米輸入が拡大したほか、パンデミックによる「巣ごもり消費」の中でも基礎的な食品に対する需要は堅調に推移したことが背景にあると考えられます。特にとうもろこし、大豆の価格上昇が大きくなっているのは、アフリカ豚コレラで大きな打撃を受けた中国の養豚業が事業の再建に動き、中国の購入が増えているためです。
2020年2月に公表された米国農務省予想によれば、2021年9月期の米国農産物輸出は中国向けや、とうもろこしがけん引して前年比16%増と需要の好調が見込まれており、堅調な価格推移が期待されます。
図表2:主要コモディティの価格(週足)
- 注:最後のデータは3/23(火)です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
第2節と第3節では、コモディティに投資するための投資商品をご紹介いたします。
【現物に投資するには】
金、プラチナ、銀については、SBI証券では現物を直接保有できる「金・銀・プラチナ取引」のサービスを提供しています。
(1)買付手数料がかかるほかは、売却手数料、保管料がかからない、(2)ほぼ24時間リアルタイムで取引可能、(3)現物への転換請求ができる、などの特徴があります。
【海外上場ETFで投資するには】
当社が取り扱っている海外上場ETFでコモディティに投資できるものとしては、以下があります。
〇金関連
SPDR ゴールド シェア(GLD) ・・・金地金価格(ロンドン金値決め)への連動を目指す。
iシェアーズ ゴールド トラスト(IAU) ・・・金地金を保有する。
ヴァンエック ベクトル 金鉱株ETF(GDX) ・・・ニューモント、バリックゴールド、フランクネバダなど世界の金鉱株に投資する。
〇銀関連
iシェアーズ シルバー トラスト(SLV) ・・・銀地金を保有する。
〇原油関連
バンガード 米国エネルギーセクター ETF(VDE) ・・・エクソンモービル、シェブロンなど米国のエネルギー企業に投資する。
iシェアーズ グローバル エネルギー ETF(IXC) ・・・エクソンモービル、トタルなど世界のエネルギー企業に投資する。
ヴァンエック ベクトル 石油サービスETF(OIH) ・・・シュルンベルジェ、ハリバートンなど米国の石油サービス企業に投資する。
〇その他コモディティに関連するETF
バンガード 米国素材セクター ETF(VAW) ・・・米国の素材セクター企業に投資する。
iシェアーズ グローバル素材 ETF(MXI) ・・・素材セクターの企業にグローバルに投資する。
ヴァンエック ベクトル レアアース ETF(REMX)・・・レアアースを産出する企業にグローバルに投資する。
iシェアーズ グローバル フォレスト ETF(WOOD) ・・・森林を保有したり、材木関連事業を営む企業にグローバルに投資する。
【国内上場ETFで投資するには】
当社で取り扱っている海外上場ETFでは、金・銀以外で商品そのものに投資できるものはありません。一方、国内上場のETFでは細かく商品に投資できるものがあります。
当社WEBサイトのトップページから、【国内株式】→【ETF・ETN】→【商品・その他】に遷移していただけると国内市場に上場しているETFの一覧がご覧いただけます。
こちらでは、個別商品の価格に連動を目指したETFが取り揃えられています。原油、金、プラチナ、白金などのメジャーな商品のほか、WisdomTree社が提供しているETFシリーズには、銅、ニッケル、小麦、とうもろこしなどに投資できるものがあります。ただし、出来高が非常に小さいものも含まれていますので、その点は十分注意ください。
〇原油
原油・天然ガス生産の川上部門と石油精製、化学製品の川下部門を併営する総合エネルギー企業の最大手です。強固な財務基盤を背景に原油価格が下落して利益が大幅に落ち込む中でも配当を維持してきました。今年度に関しても維持する方針を打ち出していますが、原油価格の回復はこれをサポートする要因となるでしょう。
原油・天然ガス生産の川上部門を中心に展開するエネルギー企業として最大手です。2020年10月に米シェールオイル大手のコンチョリソーシズを97億ドルで買収して、低コストで原油を生産できる資産を手に入れています。原油価格の回復は、キャッシュフローの回復を配当または自社株買いとして株主に還元する余地の拡大につながると期待されます。
〇金
米国の産金大手で、金の生産シェアは12%を占めるトップです(2019年)。売上のうち90%を金が占めるほか、銀、亜鉛などを生産しています。2020年の金生産量5.9百万オンスに対し、2021年〜2025年は6.2〜7.0百万オンスに増やす計画で、2020年末の金埋蔵量は業界最大の94百万オンスです。
カナダの産金大手で、金の生産シェアは11%を占める2位です(2019年)。売上のうち94%を金、残り6%を銅が占めます。2020年の金生産量は4.8百万オンスです。中核でない埋蔵資産の一部を処分する戦略であるため、当面は生産がやや減少する可能性もありますが、2023年からは増加に転じると見込まれています。
〇銅
米国の非鉄金属大手で、2020年12月期の売上のうち、80%を占める銅、13%を占める金が主力です。銅の生産量は、チリのコデルコ(未上場)、英・豪のBHPグループに並ぶ最大手です(2019年)。主力の銅の生産量は、COVID-19のパンデミックの影響で2019年の33億ポンドから2020年は32億ポンドに減少しましたが、2021年は38億ポンド、2022年は43億ポンドに増える計画です。
〇ニッケル
ノリリスク ニッケル (MMC Norilsk Nickel)(GMKN)
ロシアの非鉄金属大手で、2020年12月売上のうち、43%を占めるパラジウム、21%を占めるニッケル、同じく21%を占める銅などが主力です。パラジウムでは世界生産の70%を占める最大手(2020年)、ニッケルでは世界生産の25%を占める最大手です(2019年)。生産量はNadezhda製錬プラントの2つの溶錬ラインのうち1つに関して近代化投資を行うことから、パラジウム、ニッケルとも2023年にかけて若干の減少となる計画です。また、2月末から地下水による浸水で操業が止まっている鉱山があり、2021年の生産は計画外で低下する可能性があります。
〇アルミニウム
2016年にアルコアが分割して誕生した会社で、ボーキサイト採掘、アルミナ精錬、アルミニウム鍛造など川上部門を展開。アルミニウムの原料となるアルミナの生産量は、オーストラリアのアルミナ・リミテッド、中国の 中国アルミ(02600)と並んで世界トップ級です(2019年)。アルミニウム市場は、中国が国内稼働率の問題から世界の他の地域の余剰分を吸収する形が続いており、需給は堅調と見込まれています。
中国宏橋(01378)[チャイナ・ホンチャオ・グループ]
中国のアルミニウム製品メーカー大手。一次アルミニウムの生産量では世界トップ(2019年)で、融解アルミニウム合金、アルミ合金地金、アルミ合金鍛造圧延製品を製造します。
〇リチウム
リチウムイオン電池に使われる金属であることから、需要拡大が注目されています。リチウム(炭酸リチウム)の価格は、市場の供給過剰を受けて2018年5月の1トン当たり16,000ドルをピークに2020年12月の7,150ドルまで下落しましたが、EV向けの需要拡大を背景に2021年に入って反発に転じ、2021年2月の価格は8,500ドルまで上昇しています。
特殊化学品の老舗で、2020年12月期の売上は、リチウムイオン電池などに使用されるリチウムが37%、難燃剤などに使用される臭素化学品が31%、触媒事業が26%を占めます。リチウム生産では世界的大手で、チリのアタカマ塩湖、オーストラリアのグリーンパッシズ鉱山、米国のネバダ州塩湖などで生産しています。
チリの肥料・化学製品メーカーで、2020年12月期の売上は、特殊植物栄養素が39%、リチウムおよび派生製品が21%、ヨウ素および派生製品が18%、カリウム製品が12%、産業化学ほかが10%を占めます。リチウムの生産では中国の天斉リチウム(深センの上場企業)に次ぐ世界2位、生産コストは世界最低レベルとみられています。
〇農産物関連
農産物自体の生産を主力事業として上場している企業は見当たりませんが、農産物価格の上昇が恩恵となる企業をご紹介いたします。
世界最大級の農機メーカーで、コンバインやトラクターなどの農機と芝刈り機が売上の約6割、建機と林業向けフォークリフトが約3割を占めています。農産物価格の上昇や農家の財務状態の改善を受けて農機市場が回復、また、建機市場も改善しつつあることから、21年10月期の売上は20%近い増収が可能とみられています。トラクターの売上はピーク時の50%以下に落ち込んでいることから、更新需要による売上増加は複数年にわたると見込まれています。
2019年6月にダウ・デュポンから分離した農業関連大手。とうもろこしや大豆などの種苗と除草剤や殺虫剤などの農薬が2本柱です。穀物価格の上昇を受けた作付けの拡大や2021年に展開する大豆向け製品のマージンが高いことから業績の拡大が見込まれています。
図表3:投資指標
銘柄(コード) |
株価 |
予想 |
株価騰落 |
時価総額 |
売上 |
純利益 |
---|---|---|---|---|---|---|
エクソン モービル(XOM) |
55.22 |
20.2 |
35.6 |
2,338 |
2,439 |
123 |
コノコフィリップス(COP) |
51.71 |
23.0 |
30.6 |
701 |
333 |
30 |
ニューモント(NEM) |
60.12 |
15.5 |
1.7 |
482 |
140 |
32 |
バリック ゴールド(GOLD) |
20.24 |
15.6 |
-9.5 |
360 |
131 |
23 |
フリーポート マクモラン(FCX) |
32.20 |
14.6 |
34.6 |
470 |
202 |
33 |
アルコア(AA) |
27.42 |
14.8 |
32.0 |
51 |
104 |
4 |
アルベマール(ALB) |
146.47 |
43.2 |
3.1 |
171 |
32 |
4 |
ソシエダードキミカイミネラデチリ ADR(SQM) |
52.08 |
45.5 |
10.2 |
131 |
22 |
3 |
ディアー(DE) |
357.49 |
23.4 |
38.1 |
1,121 |
384 |
50 |
コルテバ(CTVA) |
45.85 |
24.6 |
22.2 |
341 |
147 |
14 |
銘柄(コード) |
株価 |
予想 |
株価騰落 |
時価総額 |
売上 |
純利益 |
---|---|---|---|---|---|---|
ノリリスク ニッケル(MMC Norilsk Nickel)(GMKN) |
22,252 |
7.1 |
-6.1 |
35,213 |
167 |
69 |
銘柄(コード) |
株価 |
予想 |
株価騰落 |
時価総額 |
売上 |
純利益 |
---|---|---|---|---|---|---|
中国アルミ(02600) |
3.37 |
50.6 |
23.4 |
747 |
1,913 |
17 |
中国宏橋(01378) |
10.36 |
5.3 |
43.7 |
945 |
976 |
125 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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