グロース株・ハイテク株が上昇を主導した昨年の相場と変わって、今年の中国本土・香港株式市場はグロース株・ハイテク株と景気敏感株・バリュー株の間で、スタイル・ローテーション(循環物色)の動きが目立ちます。足元ではスタイル・ローテーションの期間が短くなっており、モメンタムの予測が昨年より難しくなっています。このような相場環境では、一時的にモメンタムの強い銘柄やセクターを追うよりも、ETFを活用した分散投資が有効と考えます。そこで、今回は中国株ETFについてご紹介します。
図表1:主な言及銘柄
銘柄 | 株価(6/8) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
Tracker Fund香港(02800) | 29.12香港ドル | 31.34香港ドル | 23.90香港ドル |
iS MSCIチャイナ(02801) | 34.50香港ドル | 41.56香港ドル | 26.32香港ドル |
iS FTSE A50(02823) | 20.76香港ドル | 23.70香港ドル | 14.05香港ドル |
iS CSI300(02846) | 41.40香港ドル | 46.56香港ドル | 27.20香港ドル |
iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | 46.08米ドル | 54.53米ドル | 39.10米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
グロース株・ハイテク株が上昇を主導した昨年の相場と変わって、今年の中国本土・香港株式市場はグロース株・ハイテク株と景気敏感株・バリュー株の間で、スタイル・ローテーション(循環物色)が目立ちます。中国本土市場と香港市場はおおむね同じ動きをするため、以下では香港市場の業種別パフォーマンスから相場動向を確認してみたいと思います。
図表2の業種別ハンセン総合指数の動きをみると、【1】で囲んである年初から2月中旬までの期間は、情報テクノロジーが昨年の流れを引き継いで大きく上昇しました。その後一時的に素材やエネルギーも急上昇しましたが、2月中旬以降の【2】の期間では大方の業種で下落が目立ちました。米長期金利の上昇を嫌気した世界的なリスク回避が売りを誘いました。
図表2:業種別ハンセン総合指数の年初来推移
- (注)2020年12月31日を100として指数化
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
その後、3月末から5月初めにかけての【3】の期間では、素材やエネルギー、コングロマリットが上昇しました。ワクチン接種の普及で経済活動の再開に対する期待が高まり、景気敏感株や世界で事業展開しているコングロマリットが買われました。一方、情報テクノロジーはネット大手に対する中国当局の規制強化を嫌気し、一段安となりました。
しかし、5月中旬から5月末までの【4】の期間では、好調だった素材やエネルギーが調整しました。急騰による高値警戒感に加え、中国当局が商品先物の投機抑制措置を打ち出したため、利益確定売りを誘いました。一方、情報テクノロジーは5月中旬の年初来安値を底に持ち直しました。ヘルスケアは4月の回復基調が維持され、5月は一段高となりました。素材やエネルギーなど景気敏感株が売られるなか、情報テクノロジーやヘルスケアなどグロース株が再び買われた格好です。
6月の最初の1週間(【5】の期間)はエネルギーや生活必需品を除けば、やや調整ムードです。エネルギーの上昇は原油高によるもので、生活必需品の持ち直しは出遅れ物色が背景にあると思われます。ただいずれの上昇幅も今のところ限定的で、他の業種と合わせてみた場合、はっきりとしたトレンドは出ていないようにも見えます。
総じてみると今年のこれまでの相場は、グロース株・ハイテク株と景気敏感株・バリュー株の間でスタイル・ローテーション(循環物色)の動きが目立ちます。循環物色の先を予測し、そこに集中投資する戦略が有効だったかもしれません。しかし現実的にそのタイミングを正確に予測することは難しく、循環物色の期間が短くなっているため、一歩タイミングがずれてしまうと逆効果になりかねません。
このような相場環境では、個別銘柄や業種へ集中投資するよりも、ポートフォリオの一部にETFを取り入れた分散投資が有効と考えます。そこで今回は、中国株関連のETFについてご紹介します。これらのETFは中長期的に国・地域の分散投資の手段としても活用できます。
中国株ETFは、中国株を扱う証券取引所の代表的な指数に連動するものが中心です。そこでまず、主な証券取引所と株価指数について確認してみましょう。以下の図表3の通り、主な市場は中国本土(上海と深セン)、香港、米国に分けることができます。上場企業数は中国本土が4,135社、香港が2,550社、米国は248社となっています。なお、香港市場にはHSBCなど一部の海外企業も上場しています。
図表3:中国株の主な市場と主要株価指数
中国本土 | 香港 | 米国 | ||
---|---|---|---|---|
上海証券取引所 | 深セン証券取引所 | 香港証券取引所 | ナスダック、ニューヨーク、NYSEアメリカン | |
上場企業数(社) | 1,665 | 2,470 | 2,550 | 248 |
時価総額(10億元) | 44,546 | 36,424 | 43,733 | - |
平均PER(倍) | 16.31 | 31.26 | 19.30 | - |
上海証券取引所 | 深セン証券取引所 | 香港証券取引所 | 米国株式市場 | |
---|---|---|---|---|
株価指数 (中国株関連のみ) |
上海総合指数 科創板50成分指数 |
深セン総合指数 中小・創業企業100指数 創業板指数 |
ハンセン指数 ハンセンH株指数 ハンセンテック指数 FTSE中国50 |
STOXX中国ADR指数 S&P/BNYメロン中国ADR指数 |
FTSE中国A50指数 | ||||
上海深セン300(CSI300)指数 | ||||
MSCI中国指数 |
- (注)データの基準日は、中国本土と香港が2021年5月31日、米国は2021年5月5日です。
- ※出所:香港証券取引所、米中経済安全保障調査委員会、各種資料をもとにSBI証券作成
次に各市場の主要株価指数について確認してみましょう。中国本土市場の指数として上海総合指数が一番知られていますが、近年は深セン市場の存在感が高まっていることもあり、深センを含めた上海・深セン300(CSI300)指数が中国本土の代表的な指数として注目されています。そのほかでは、大型株であればFTSE中国A50指数、中小型株なら中小・創業企業100指数、新興企業には創業板指数と科創板50成分指数があります。
香港市場の場合はハンセン指数とハンセン中国企業(H株)指数が代表格です。なお、ハンセン指数は市場の実勢をより良く反映させるために、単一銘柄の上限比率の引き下げや組入銘柄数の拡大(80銘柄に)を含めた見直しを実施する予定です。そのほかでは、香港上場の大型中国株指数としてFTSE中国50指数があります。また、2020年7月に新たに公表されたハンセンテック指数は「香港版ナスダック」として注目を集めています。
中国本土と香港、および米国に上場している中国企業から構成されている指数にはMSCI中国指数があります。なお、MSCI中国指数は指数算出会社のMSCIによって提供されているものです。またFTSE中国A50指数やFTSE中国指数は同じく指数算出会社であるFTSEラッセルが提供しています。
各指数の特徴や構成比率上位銘柄は図表4の通りです。MSCIとFTSEラッセルが算出している指数の構成銘柄については、各社のホームページやそれぞれの指数と連動するETF銘柄のファクトシート(一部はSBI証券のホームページの海外ETF取扱銘柄一覧)でご確認頂けます。
図表4:主要指数の特徴と組入比率上位銘柄
指数 | 特徴 | 構成比率上位5銘柄(注) | |
---|---|---|---|
中国本土市場 | CSI300指数 | 上海および深セン市場に上場している時価総額・流動性の高い300銘柄で構成されている。 | 貴州茅台酒(600519)、中国平安保険(601318)、招商銀行(600036)、宜賓五糧液(000858)、美的集団(000333) |
中小・創業企業100指数 | 深セン市場に上場している中小企業と新興企業向け市場「創業板」に上場している100銘柄で構成されている。 | 寧徳時代(CATL、300750)、東方財富(300059)、邁瑞生物(300760)、牧原食品(002714)、立訊精密(002475) | |
香港市場 | ハンセン指数 | 香港市場の代表指数。中国企業やグローバル企業55銘柄で構成されている。2020年半ばまでに80銘柄になる予定です。 | AIA(01299)、テンセント(00700)、HSBC(00005)、中国建設銀行(00939)、アリババ(09988) |
ハンセンH株指数 | 香港市場に上場している中国企業(H株)50銘柄で構成されている。 | テンセント(00700)、中国建設銀行(00939)、中国平安保険(02318)、小米(01810)、美団(03690) | |
ハンセンテック指数 | 香港市場に上場しているハイテク株30銘柄で構成されている。 | アリババ(09988)、テンセント(00700)、美団(03690)、小米(01810)、舜宇光学(02382) |
- (注)構成比率はハンセンテック指数を除いて2021年5月31日付で、ハンセンテック指数は指数の公表時点(2020年7月時点)のものです。いずれも今後変わる可能性があります。
- ※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
主要指数の株価推移は図表5と図表6の通りです。2010年12月31日を100として指数化したもので、およそ過去10年間の指数の動きが確認できます。
図表5:主要指数の株価推移(CSI300指数、FTSE中国A50指数、中小・創業企業100指数)
- (注)2010年12月31日を100として指数化
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6:主要指数の株価推移(ハンセン指数、ハンセンH株指数、FTSE中国50指数、MSCI中国指数)
- (注)2010年12月31日を100として指数化
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
過去10年間でみた場合、騰落率では中国本土A株のほうが高いですが、それと同時に株価変動も香港市場より高くなっています。また同じ市場であっても、各指数の構成銘柄や構成比率の違いなどによってパフォーマンスの差異が生じています。
中国株ETFの選択肢として、市場にかかわらず中国株に投資する際はMSCI中国指数に連動するETFが選択できます。中国本土A株に限定する場合は、CSI300指数やFTSE中国A50指数、中小・創業企業100指数と連動するETFが候補となります。うちCSI300指数は時価総額および流動性の高い300銘柄で構成されており、比較的に業種が分散されています。他方、大型株に特化するならFTSE中国A50指数に連動するETF、中小型株なら中小・創業企業100指数に連動するETFが選択できます。中小・創業企業100指数の場合は株価変動が大きい点に留意する必要があります。
香港市場の場合は、香港市場の代表指数であるハンセン指数に連動するETF、中国企業(H株)だけならハンセンH株に連動するETFを選択することができます。また中国企業で大型株に投資するならFTSE中国指数に連動するETF、ハイテク株に特化するならハンセンテック指数に連動するETFが候補となり得ます。ハンセンテック指数の場合は株価変動がハンセン指数より大きい点に留意が必要です。なお、ハンセンテック指数に連動するETFは、現段階でSBI証券では取り扱っておりません。
そこで最後に、SBI証券で取り扱っている中国株ETFを取引市場別のリストでご紹介します(図表7と図表8)。米国市場に上場しているETFにはブル・ベア型ETFもありますが、通常のETFより値動きが大きくなりやすいので注意が必要です。また、ETF銘柄を選択する際は、連動する指数の構成銘柄やパフォーマンスのほか、流動性(出来高など)の確認も重要です。一定期間を通して出来高が著しく低い銘柄は避けるべきでしょう。
ETF投資のリスクは流動性リスクのほか、基準価額との乖離リスクや為替リスクなどがあります。他方、ETF投資は比較的少額の資金で分散投資ができるメリットがあります。今年のような循環物色の動きが強い投資環境下だけでなく、中長期的な分散投資の手段としても活用することができます。
図表7:香港市場に上場している中国株ETF
ティッカー | 市場 | 名称 | 連動指標 | 備考 |
---|---|---|---|---|
02800 | 香港 | Tracker Fund香港ETF | ハンセン指数 | 香港のハンセン指数と連動する投資成果を目指す。 |
02801 | 香港 | iS MSCIチャイナETF | MSCI中国指数 | MSCI中国指数と同等水準の投資成果を目指す。 |
02823 | 香港 | iS FTSE A50ETF | FTSE中国A50指数 | FTSE中国A50指数により測定される中国市場のA株の実績に概ね対応する投資成果をあげることを目指す。 |
02828 | 香港 | ハンセンH株指数ETF | ハンセンH株指数 | ハンセンH株指数を構成する全銘柄に投資し、同指数に連動する。 |
02838 | 香港 | ハンセン FTSEチャイナ50 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数を構成する全銘柄に投資し、同指数に連動する。 |
02846 | 香港 | iS CSI300ETF | CSI300指数 | CSI300指数の実績に概ね対応する投資成果をあげることを目指す |
03040 | 香港 | Global X MSCI 中国ETF | MSCI中国指数 | MSCI中国指数の運用成績に概ね連動する投資成果を目指す。 |
03110 | 香港 | Global X 高配当利回りETF | ハンセン高配当利回り指数 | ハンセン高配当利回り指数の運用成績に概ね連動する投資成果を目指す。 |
- (注)投資成果は手数料・報酬および経費控除前です。
- ※当社WEBサイトのETF一覧表を通じてSBI証券が作成
図表8:米国市場に上場している中国株ETF
ティッカー | 市場 | 名称 | 連動指標 | 備考 |
---|---|---|---|---|
CHAD | NYSE Arca | Direxion デイリー CSI 300 中国A株 ベア ETF | CSI300指数 | CSI300指数のパフォーマンスの-1倍(マイナス1倍)となる投資成果を目指す。 |
CHAU | NYSE Arca | Direxion デイリー CSI 300 中国A株 ブル2倍 ETF | CSI300指数 | CSI300指数の200%のパフォーマンスに連動した投資成果を目指す。 |
CNXT | NYSE Arca | ヴァンエック ベクトル 中国AMC中小企業・創業板ETF | 中国の中小・創業企業100指数 | 中国の中小・創業企業100指数に連動した投資成果を目指す。 |
CXSE | NASDAQ | ウィズダムツリー 中国株ニューエコノミーファンド | ウィズダムツリー・チャイナ・エックスステートオウンド・エンタープライズ・インデックス | 国有企業を除く中国企業へ投資することを目的とし、ウィズダムツリー・チャイナ・エックスステートオウンド・エンタープライズ・インデックスの価格及び利回りのパフォーマンスに連動する投資成果を追及する。 |
FXI | NYSE Arca | iシェアーズ 中国大型株 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数によって測定される証券の価格および利回り実績と同等水準の投資成果を目指す。 |
YANG | NYSE Arca | Direxion デイリー FTSE中国株 ベア 3倍 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数の運用実績の逆数の3倍(300%)に連動する日次投資成果を目指す。 |
YINN | NYSE Arca | Direxion デイリー FTSE中国株 ブル 3倍 ETF | FTSE中国50指数 | FTSE中国50指数の運用実績の3倍(300%)の日次投資成果を目指す。 |
- (注)投資成果は手数料・報酬および経費控除前です。
- ※当社WEBサイトのETF一覧表を通じてSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。