中国企業の2021年10-12月期決算発表が3月末をもって一段落したなか、香港市場ではアナリストによる予想EPSの下方修正が目立っています。今回はハンセン指数とハンセンテック指数の構成銘柄のうち、予想EPSが下方修正あるいは上方修正された銘柄をそれぞれまとめました。足元の株価動向が必ずしも予想EPSの修正と連動していない背景も探ったうえ、今後の注目ポイントを整理してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(4/12) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
iS MSCIチャイナ(02801) | 22.26香港ドル | 35.84香港ドル | 18.36香港ドル |
Tracker Fund香港(02800) | 21.52香港ドル | 29.82香港ドル | 18.44香港ドル |
iS FTSE A50(02823) | 16.21香港ドル | 21.60香港ドル | 14.54香港ドル |
ツージンマイニン(02899) | 12.68香港ドル | 13.30香港ドル | 8.36香港ドル |
CNOOC(00883) | 11.06香港ドル | 11.84香港ドル | 7.55香港ドル |
テンセント(騰訊)(00700) | 366.40香港ドル | 625.07香港ドル | 297.00香港ドル |
金沙中国(01928) | 17.88香港ドル | 38.30香港ドル | 13.52香港ドル |
銀河娯楽(00027) | 45.30香港ドル | 70.49香港ドル | 34.03香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国企業の2021年10-12月期決算発表が3月末をもって一段落したなか、香港市場ではアナリストによる予想EPS(1株当たり純利益)の修正が進んでいます。4/12時点のブルームバーグ集計を確認してみると、全般的に下方修正が目立っています。たとえば、香港市場を代表するハンセン指数の場合、予想EPS(12カ月先、以下同様)の変化率は過去1カ月間でマイナス4.3%となりました。主にハイテク株で構成されるハンセンテック指数の場合はマイナス8.5%となりました。予想売上高(同)の変化率もハンセン指数とハンセンテック指数でそれぞれ、マイナス0.2%、マイナス2.3%となりました。
背景には、主に以下のことが考えられます。
1)中国の景気減速が続くなか、2021年10-12月期の企業決算は総じて市場予想を下回りました。
2)今回の決算発表会では多くの経営陣がマクロ環境の厳しさを認めました。また短期的な見通しについても慎重な発言が目立ちました。
3)決算発表会でのアナリストによる質問では、ロックダウンの影響やサプライチェーン問題に関連するものが目立ちました。上海のロックダウン延長が企業業績の下押し要因として警戒されていることがうかがえます。
具体的にハンセン指数とハンセンテック指数の組入銘柄のうち、過去1カ月間で予想EPSの下方修正が目立った銘柄を確認してみると(図表2)、上記の3)のロックダウンによる影響が受けやすい銘柄群、たとえばカジノや飲食店、オンライン旅行サービスなど、もしくはロックダウンによるサプライチェーンの混乱が懸念される自動車やスマートフォン部品の関連銘柄が多いです。
図表2 過去1カ月間で予想EPS(12カ月先)の下方修正が目立った銘柄(*基準日は4/12)
ハンセン指数の構成銘柄(*株価騰落率は4/12まで)
銘柄 コード |
銘柄名 | 主力業務 | 予想EPSの 変化率 |
決算発表後の 株価騰落率* |
---|---|---|---|---|
01928 | 金沙中国 [サンズ・チャイナ] | カジノ | -65.9% | -16.1% |
06862 | 海底撈國際 | 飲食店 | -32.6% | 5.9% |
02007 | 碧桂園控股 [カントリー・ガーデン・ホールディングス] | 不動産 | -27.4% | -1.3% |
00175 | 吉利汽車控股[ジーリー・オートモービル・ホールディングス] | 自動車 | -24.6% | -6.0% |
00027 | 銀河娯楽 [ギャラクシー・エンターテインメント] | カジノ | -19.2% | -4.6% |
02018 | 瑞声科技[AACテクノロジーズ・ホールディングス] | スマホ部品 | -17.5% | -9.5% |
02382 | 舜宇光学科技(集団)[サニーオプチカル・テクノロジー] | スマホ部品 | -15.0% | -25.2% |
01044 | 恒安国際集団[ハンアン・インターナショナル・グループ] | 衛生用品 | -13.5% | -1.8% |
01177 | 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマシューティカル] | 医薬品 | -11.4% | -15.5% |
00700 | 騰訊控股[テンセント・ホールディングス] | ゲーム・ フィンテック |
-10.9% | -5.6% |
ハンセンテック指数の構成銘柄(*株価騰落率は4/12まで)
銘柄 コード |
銘柄名 | 主力業務 | 予想EPSの 変化率 |
決算発表後の 株価騰落率* |
---|---|---|---|---|
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | ゲーム・ソフトウェア | -62.1% | -12.8% |
00268 | 金蝶国際軟件集団[キングディーInt'lソフトウェア] | ソフトウェア | -35.1% | 0.0% |
09698 | 万国数拠服務 | データセンター運営 | -32.1% | -13.4% |
09961 | 携程旅行網[トリップドットコムグループ] | オンライン旅行サービス | -30.7% | -8.0% |
00285 | 比亜迪電子(国際) [BYDエレクトロニック] | スマホ部品 | -29.8% | -12.0% |
02018 | 瑞声科技[AACテクノロジーズ・ホールディングス] | スマホ部品 | -17.5% | -9.5% |
00772 | CHINA LITERATURE LTD | 電子書籍 | -16.2% | 2.2% |
02382 | 舜宇光学科技(集団)[サニーオプチカル・テクノロジー] | スマホ部品 | -15.0% | -25.2% |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | 電気自動車 | -13.5% | 1.0% |
00700 | 騰訊控股[テンセント・ホールディングス] | ゲーム・フィンテック | -10.9% | -5.6% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
したがって、上記1)-3)の要因のうち、3)のロックダウンが足元の予想EPSの大幅下方修正につながった可能性が高そうです。それを前提に考えれば、ロックダウン解除が当面の注目ポイントの一つと言えそうです。実際、上海ロックダウンの一部解除が伝わった4/12に、飲食店大手の海底撈國際(06862)やカジノ大手の金沙中国(01928)、オンライン旅行サービス大手の携程旅行網(09961)、電気自動車(EV)メーカーの小鵬汽車(09868)などはいずれも反発しました。
一方、スマートフォン部品関連の戻りは総じて弱く、4/12は下落した銘柄もありました。「上海ロックダウンの一部解除」は“朗報”ですが、スマートフォンの需要鈍化が重石となったもようです。たとえば、中国でのAndroidスマートフォンの受注が1-3月に減少したと報じられています。また、半導体ファウンドリ世界最大手のTSMCの会長は3/30に、スマートフォンの需要は減速しはじめていると発言しました。したがって、スマートフォン関連銘柄をめぐっては、上海のロックダウン解除だけでなく、スマートフォンの受注や出荷の動向にも目を配る必要がありそうです。
なお、ゲーム大手のテンセント(00700)やキングソフト(03888)も4/12に上昇しました。中国当局が約8カ月ぶりに新たなゲームライセンスを認可したことが影響したもようです。ゲーム関連銘柄については、中国当局によるゲームライセンスの認可凍結が業績下方修正の要因の一つでした。今回新たに認可されたゲームライセンスのうち、テンセント(00700)やキングソフト(03888)の作品は含まれていません。しかし、市場では2018年と同様に両社も最終的には認可される可能性が高いと見込んでいるようです。
予想EPSの下方修正が多いなか、上方修正された銘柄もありました。ハンセン指数とハンセンテック指数の構成銘柄を確認してみると(図表3)、石油・天然ガスを筆頭に資源関連株の上方修正が目立ちました。背景として、ウクライナ危機を受けた資源高が長期化する可能性が高まってきたことが挙げられます。資源関連株の株価は決算発表後に利益確定売りで小幅に調整しました。同時期に原油先物価格が国際エネルギー機関(IEA)による備蓄放出の合意(供給増加)や上海のロックダウン延長(中国の需要減退懸念)を受け、下落したことも影響したと思われます。
図表3 12カ月先予想EPSの上方修正が目立った銘柄(過去1カ月間、*4/12時点)
ハンセン指数の構成銘柄(*株価騰落率は4/12まで)
銘柄 コード |
銘柄名 | 主力業務 | 予想EPSの 変化率 |
決算発表後の 株価騰落率* |
---|---|---|---|---|
00883 | 中国海洋石油 [CNOOC] | 石油・天然ガス | 23.6% | -0.5% |
00857 | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | 石油・天然ガス | 14.1% | -2.7% |
00267 | 中国中信[シティック] | コングロマリット(資源関連) | 4.6% | -2.2% |
03988 | 中国銀行 [バンク・オブ・チャイナ] | 銀行 | 4.0% | 2.3% |
00386 | 中国石油化工 [シノペック] | 石油・石油化学製品 | 3.0% | 6.2% |
02331 | 李寧 [リー・ニン] | スポーツウェア | 2.7% | -3.8% |
01038 | 長江基建集団 [チョンコン・インフラストラクチャホールディング] | コングロマリット (資源関連) |
2.5% | 6.2% |
02269 | 薬明生物技術[ウーシー・バイオロジクス・ケイマン] | バイオ医薬品 | 2.4% | 7.4% |
00939 | 中国建設銀行 [チャイナ・コンストラクション・バンク] | 銀行 | 1.8% | 1.4% |
01113 | 長江実業集団[CKアセット・ホールディングス] | 不動産 | 1.6% | 6.8% |
ハンセンテック指数の構成銘柄(*株価騰落率は4/12まで)
銘柄コード | 銘柄名 | 主力業務 | 予想EPSの 変化率 |
決算発表後の 株価騰落率* |
---|---|---|---|---|
00020 | SENSETIME GROUP INC | AIソフトウェア | 35.6% | -15.6% |
02015 | 理想汽車 [リーオート] | 電気自動車(EV) | 33.3% | -8.2% |
06618 | JD HEALTH INTERNATIONAL INC | インターネットヘルス | 11.6% | 15.0% |
00981 | 中芯国際集成電路製造 [SMIC] | 半導体 | 5.1% | -15.9% |
09999 | 網易 [ネットイース] | ゲーム | 1.2% | 2.8% |
00522 | ASMパシフィック・テクノロジー(ASMPT) | 半導体 | 1.0% | -6.7% |
00992 | 聯想集団 [レノボ・グループ] | パソコン | 0.6% | -13.7% |
06060 | ZHONGAN ONLINE P&C INSURAN-H | インターネット保険 | 0.1% | -5.4% |
01347 | 華虹半導体[フアホン・セミコンダクター] | 半導体 | 0.1% | -19.2% |
00241 | 阿里健康信息技術[アリババヘルスインフォメーションテクノロ] | インターネットヘルス | 0.0% | (四半期決算の 発表なし) |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
他方、上海ロックダウンの一部解除や欧州委員会によるロシア産原油の禁輸提案が報じられると、再び反発しました。資源関連株は当面、原油先物価格など資源価格の動向に左右される展開が続きそうです。ウクライナ危機やロシア制裁の長期化を背景とした資源高が続くのであれば、資源関連株への投資意欲も続く可能性がありそうです。主要指数の構成銘柄でない銘柄でも、資源関連株(たとえばツージンマイニン(02899))の予想EPSの上方修正が目立ちました。
その他の上方修正銘柄は銀行や半導体が目立ちました。銀行の場合は、不動産市場の鈍化による業績への影響が懸念されましたが、主要銀行の決算内容はおおむね市場予想を上回りました。ただし、予想EPSの変化率を確認してみると、小幅な上方修正にとどまっています。株価も小幅な上昇となっています。一方、同じく予想EPSが小幅に上方修正された半導体関連株は、株価が大きく調整しました。フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が下落基調を続けているほか、米長期金利の上昇を嫌気したグロース株への売りが背景にあります。
総合的にみると、4/12までの株価動向からは予想EPSの上方修正と株価上昇、予想EPSの下方修正と株価下落は必ずしも比例するわけではないことが言えそうです。ウクライナ危機や上海のロックダウンによる影響(ひいてはインフレや世界のスタグフレーション懸念)、および米長期金利の動向や中国の政策など不透明な要因が多いことが背景にあると考えられます。
中国国内の要因を考える際、上海のロックダウンや中国の政策方針をめぐっては足元で転換の兆しが示されています。たとえば、上海では一部地域でロックダウンが解除されました。中国当局が「ゼロコロナ政策」から「ウィズコロナ政策」へ転換を図ろうとしていることがうかがえます。2021年の中国経済の減速は、不動産市場やネット大手に対する規制強化と並んで「ゼロコロナ政策」の堅持も一つの要因でした。その意味でいうと、「ウィズコロナ政策」への転換は注目点と言えます。
2021年末からの動きを確認してみると、中国当局は不動産市場、ネット大手、コロナ政策の順に政策の転換を図っています。ただし、いずれも「一気の逆転」ではなく、「漸進的転換」となっています。そのスピード感は3月までやや鈍い印象でしたが、足元で加速する気配が出ています。たとえば、上海ロックダウンの一部解除と同時に、ゲームライセンスの認可再開を発表したことがそのサインです。決算発表後、アナリストによる予想EPSの下方修正が目立つなか、ハンセン指数とハンセンテック指数が比較的底堅い動きを示しているのは、中国当局がいよいよ本格的な政策転換に踏み切ることへの期待があると考えられます。
もし、中国当局がその期待にタイムリーに応えられなかった場合、再び失望売りを誘発する可能性があるかもしれません。他方、明確な政策転換を示すとともに、これまでに幾度も「意志表明」してきたように金融面や財政面の支援措置も打ち出した場合は、中国株にとって大きな支援材料となりそうです。目先は4/15に発表予定の中期貸出制度(MLF)金利の引き下げがあるかどうかが注目点となります。
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