4月に利下げを見送った中国人民銀行が5/20に一転して、市場予想を上回る利下げを実施しました。その後、中国当局は5/23に減税を含む包括的な経済支援措置を発表しました。5月中旬までは経済支援をためらっていた中国当局が、ついに経済支援を本格化しました。今回は経済支援措置の詳細を確認するとともに、恩恵が期待できる業種や銘柄をご紹介します。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(5/24) | 52週高値 | 52週安値 |
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長城汽車(02333) | 12.42香港ドル | 39.00香港ドル | 8.96香港ドル |
吉利汽車(00175) | 14.12香港ドル | 29.80香港ドル | 10.00香港ドル |
BYD(01211) | 254.80香港ドル | 324.60香港ドル | 164.00香港ドル |
コウセイコパー(00358) | 12.26香港ドル | 19.04香港ドル | 10.72香港ドル |
中国アルミ(02600) | 3.44香港ドル | 7.49香港ドル | 2.92香港ドル |
CNOOC(00883) | 11.22香港ドル | 11.84香港ドル | 7.55香港ドル |
福耀ガラス(03606) | 35.05香港ドル | 58.45香港ドル | 25.70香港ドル |
中国南方航空(01055) | 4.14香港ドル | 5.65香港ドル | 3.83香港ドル |
エアチャイナ(00753) | 5.26香港ドル | 6.75香港ドル | 4.67香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
4月に利下げを見送った中国人民銀行が5/20に一転して、市場予想を上回る利下げを実施しました。その後、中国当局は5/23に減税を含む包括的な経済支援措置を発表しました。5月中旬までは経済支援をためらっていた中国当局が、ついに経済支援を本格化しました。
背景として、以下の3点があると考えられます。
1)5月中旬に発表された4月の主要経済指標がそろって鈍化し、2022年のGDP成長率目標(5.5%前後)の達成がより困難となることが示唆されました。
2)人民元安の加速で資金流出懸念が強まっていましたが、5月中旬以降、人民元安は一服し、対ドルで元高方向へ傾きました。中国当局に利下げの余地を与えました。
3)上海の新型コロナ感染者数が減少し、上海市当局は5/16に、6月中旬から下旬を目途にロックダウン解除の見通しを示しました。ロックダウンが解除されれば経済支援措置の効力も高くなりやすいです。
中国上層部の動向を確認してみると、5/18の李克強首相の発言からは、経済支援に対する緊迫感が伝わります。李首相のコメントは以下の通りです。「3月以来、特に4月に一部の経済指標は明らかに鈍化し、経済の下押し圧力が強まった。一方、我が国の物価水準は安定しており、依然として政策の余地はある。ただし、困難に対して正面から向う必要がある。上半期および通年の経済運営が合理的な範囲に収まることを確実にするため、中央経済工作会議や政府活動報告(中国国務院常務委員会が主催)による政策の策定は上半期にほぼ完成させなければならず、各部門は緊迫感をもって対応し、確実な政策をできるかぎり5月中に打ち出さなければならない。」同時に、「プラットフォーム経済を支持し、プラットフォームやデジタル企業の国内外での株式上場を支援する」とも表明した。
その後、李首相の指示通り、1)中国人民銀行が5/20に利下げ、2)中国国務院常務委員会は5/23に包括的な経済支援措置を発表しました。上記の李首相の発言からすると、今後は各部門が2)に沿って具体策を打ち出すこととなりそうです。今回は1)と2)の詳細を確認するとともに、恩恵が期待できる業種や銘柄をご紹介します。
図表2 経済支援措置の中身
日付 | 主な金融・経済支援措置 |
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5/15 | 中国人民銀行は、1軒目の住宅取得者を対象に住宅ローン金利の下限を0.2%引き下げた。同時に、2軒目の住宅取得については、住宅ローン金利の下限を据え置いた。 |
5/20 | 中国人民銀行は、5年物ローンプライムレート(LPR、事実上の政策金利)を4.60%から4.45%へ引き下げた。0.15ポイントの引き下げは、2019年8月の金利改革が実施されてから、最大の下げ幅となる。 |
5/23 | 中国国務院常務委員会は包括的な経済支援措置を発表。経済の安定成長を確保するため、下記6つの分野で33の措置を実施する。 1)財政支援:企業を対象に1,400億元(約2.7兆円)余りの追加減税措置を実施する。(インフラ建設を支える)地方特別債の使用は8月末までに完了させる。 2)金融支援:中小企業支援の融資規模を倍増し、中小企業の社会保険料の支払いを延期する。支払いが困難な個人に対しては、住宅ローンや消費者ローンの元本と利息の支払いを延期する。 3)サプライチェーン支援:サプライチェーンの回復を支援し、スムーズな貨物輸送を確保する。航空会社に対する緊急融資額を1,500億元増やし、国内線および国際線の運航を段階的に増やす。 4)消費・投資の促進:自動車の購入制限を緩和し、乗用車購入税を600億元削減する。3,000億元規模の鉄道建設債券の発行を支援する。 5)エネルギー安全保障の確保:採炭政策を調整し、石炭の生産能力を増強する。石炭供給を確保するための手続きをスピードアップさせる。水力や石炭発電のプロジェクトを追加で立ち上げる。 6)基本的な民生の保障:失業保険をはじめ低所得者向け支援の実施をきちんと行う。 |
※中国政府発表をもとにSBI証券が作成
全般的にみて、今回の経済支援措置はインフラ建設や不動産への支援が重点となっています。景気鈍化が鮮明になるなか、中国当局は主にオールドエコノミーによって経済を下支えしようとしているようです。自動車産業への支援は消費促進の項目に入っていますが、実際は消費促進というより、裾野の広い自動車産業を支えることで工業生産を押し上げようとしている意図と考えられます。単独項目に挙げたサプライチェーンへの支援も工業生産の持ち直しを意識したものと言えます。
したがって、現時点での経済支援措置は、中国経済の3つのけん引役である「投資」、「工業生産」、「消費」のうち、前者の2つにフォーカスしています。上海ロックダウンの影響で消費の鈍化が鮮明になり、経済回復の足かせになる可能性もあることを考えると、今後中国当局はロックダウンの解除とともに消費促進策を打ち出す可能性もありそうます。いずれにしても、中国当局は2022年のGDP成長率目標の達成に向けて本格的に動き出しました。2008年の金融危機時ほどの大規模な支援になる可能性は低いとしても、今年下半期の経済回復につながる可能性は高いとみられます。足元で世界経済のリセッション入りに対する懸念が強く、不安定な相場が続いていますが、主要中国株指数は世界主要株価指数に比べて底堅く推移しています。中国の政策余地(金融緩和や財政出動)が大きく、中国当局も経済支援に向けて動き出したことが中国株を下支えしていると考えられます。
今回の経済支援措置の中身からすると、以下の業種や銘柄が恩恵を受ける可能性があると考えられます。
図表3 恩恵が期待できる業種・銘柄
日付 | 主な金融・経済支援措置 | 備考 | 恩恵を受けると予想される業種・銘柄 |
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5/15 | 住宅ローン金利下限の引き下げ | ・住宅ローン金利は5年物LPR(ローンプライムレート)を基準に上限と下限が設定される。今回はその下限を引き下げたため、直接住宅ローン金利を引き下げたことに等しい。また1軒目の取得は主に実需となるため、実需の喚起で不動産市場を下支えしようとする狙いと思われる。 | 不動産、建設資材 ・比較的資金力のある国有企業、民間企業では財務基盤がより健全な企業が恩恵を受ける可能性がある。たとえば、中国海外発展(00688)、 チャイナRランド(01109) 、龍湖集団(00960)など。 ・ただし、住宅ローンの引き下げと不動産販売の持ち直しはタイムラグがあるため、不動産販売の実績を確認したいと思う投資家も多いと想定される。 ・建設資材は、コウセイコパー(00358)や中国宏橋(01378)、中国アルミ(02600)、コンチセメント(00914) など 。 |
5/20 | 5年物LPRの引き下げ |
・5年物LPRは中長期貸出の基準金利となるため、今回の引き下げは住宅ローンや企業の中長期の資金調達コスト引き下げにつながる。5/15の住宅ローン金利下限の引き下げと合わせて考えると、今回の金融緩和は主に不動産市場の回復を狙ったものと解釈できる。 ・同時に、中国人民銀行は1年物LPRを据え置いた。米国が利上げサイクルにあることから、中国は過度な米中金利差の拡大や人民元安を防ぐため、1年物LPRを据え置いた可能性がある。 |
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5/23 | 経済支援措置 | ・現時点で産業向けの支援策として示されたものは、不動産、自動車、航空、インフラ建設、エネルギーとなる。 ・自動車は乗用車購入税の削減とあるが、新エネルギー車の購入税は既に削減されているため、今回の措置は従来のガソリン車が対象となることを示す。上海ロックダウンの影響でガソリン車の販売が急減(新エネルギー車は底堅い)したことが背景と思われる。新エネルギー車は中長期的なトレンドとして需要も堅調だが、より裾野の広いガソリン車の販売を促進することで景気回復をもたらしたい意向と考えられる。 |
自動車(資材・部品含む)、航空、建設、エネルギー ・今回の乗用車購入税の削減は、吉利汽車(00175)や長城汽車(02333)など従来の自動車メーカーがより恩恵をを受ける可能性が高い。 ・中央政府レベルで新エネルギー車に対する支援が一切ない場合、BYD(01211)や新興EV3社のニオ(09866)、シャオペン(09868)、リーオート(LI)にとって短期的にマイナス材料となる。ただし、地方政府レベル(たとえば広東省と湖北省)では新エネルギー車の販売促進措置が打ち出されており、今後さらに拡大すればプラス材料となり得る。 ・自動車資材・部品関連銘柄は、中国アルミ(02600)や 福耀ガラス(03606)など。 ・航空は、中国東方航空(00670)、中国南方航空(01055)、エアチャイナ(00753) など。 ・建設は、中国中鉄(00390)、中国鉄建(01186)、中国交通建設(01800)など。 ・エネルギーは、チャイナシェンハ(01088)、ヤンクアン(01171)、CNOOC(00883)、ペトロチャイナ(00857) など。 |
※各種資料をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。