米国上場の中国株は10/24に大幅に下落し、中国株は「ブラックマンデー」を経験しました。3月中旬のような暴落も警戒されましたが、10/25は予想外に反発しました。今回は、その背景と10/25の反発時に買われた銘柄を確認してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(10/25) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ニオ ADR(NIO) | 10.63米ドル | 44.27米ドル | 8.38米ドル |
ニューオリエンタルエデュケーション ADR(EDU) | 21.06米ドル | 29.80米ドル | 8.40米ドル |
トリップドットコム ADR(TCOM) | 21.88米ドル | 31.60米ドル | 14.29米ドル |
ピン多々 ADR(PDD) | 47.53米ドル | 102.02米ドル | 23.21米ドル |
iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | 21.94米ドル | 42.39米ドル | 20.94米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
10/24に米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は14.4%下落し、香港のハンセンテック指数は9.7%下落しました。10/24は中国株にとって、「ブラックマンデー」となりました。
10/24は中国共産党の新指導部が発足した後の最初の取引日に当たります。その日に米国および香港市場で中国株が大幅に売り込まれたのは、一言でいうと、「中国の新指導部に対する海外投資家の“手荒い歓迎”」(注)です。
(注:そのほかの要因もありますが、ここでは最も重要な要因を取り上げました。詳細は、10/25の【中国株フラッシュ】中国株の「ブラックマンデー」をご参照願います。)
つまり、新指導部が”習氏に近い”とされる人物で固められたことで、海外投資家はこれらから打ち出される政策は必然的に「マーケットフレンドリー」(市場に友好的)でないと予想しているようです(10/24時点では)。
たとえば「ゼロコロナ政策」や「科学技術の自立自強」、共同富裕などといった政策が今後も維持されることを海外投資家は警戒しています。これからの政策は中国当局がある程度の成長鈍化を容認し、米中対立の激化も辞さない政策として捉えられているためです。
しかし、10/24に急落後、HXC指数は10/25に4.6%上昇し、ハンセンテック指数は3.0%上昇し、中国株は急反発しました。それについて、ブルームバーグは「中国株、急反発−3期目の習政権の政策めぐる不安と割安感が綱引き」と報じました。つまり、中国新指導部の政策不安は懸念材料ですが、株価水準(バリュエーション)からすると割安感があるということです。
年初来の動きを確認してみると、HXC指数が1日で10%を超える下落率となったのは3/10です。その後、HXC指数は3/11に10.2%下落し、翌取引日の3/14も11.7%下落しました。当時は、米中対立の激化や中国ADRの上場廃止リスクなどで中国株が大幅に売り込まれ、ほぼ投げ売りの状況でした。
図表2 ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)の年初来推移

※各種資料をもとにSBI証券が作成
10/24の売りは「投げ売り」の様相という意味でいうと、3月中旬に似ています。しかし、前回と違って、今回HXC指数は翌10/25には小幅ながら反発しました。この点からすると、海外投資家が警戒する「習政権の政策をめぐる不安」は当時の「米中対立の激化や中国ADRの上場廃止リスク」ほど強くないようです。
最も考えられる要因は、以下の2つです。
1)「3期目の習政権の政策」が「マーケットフレンドリー」であるか否かどうか判断するには時期尚早
「3期目の習政権の政策」をめぐっては、あくまでも海外投資家の「第一印象」に基づいた不安がベースになっています。中国のこれからの政策が「マーケットフレンドリー」であるは否かは、「第一印象」ではなく、「3期目の習政権」の発言や行動をもって確認する必要があります。
2)バリュエーション面での割安感
前述のブルームバーグ記事で取り上げられたように、10/25の反発は「3期目の習政権の政策巡る不安と割安感」の「綱引き」の結果です。たとえば、HXC指数のPER(株価収益率)は10/25時点で31.8倍で、過去5年平均PER(60.2倍)や過去10年PER平均(68.3倍)のおよそ半分となっています。
1)と2)を総合的に考えると、割安感を背景とした株価の持ち直しが続くかどうかは、「3期目の習政権の政策」が「マーケットフレンドリー」である否かに左右されそうです。海外投資家が懸念しているように「マーケットフレンドリー」でない場合、一段とバリュエーションの調整が進む可能性があります。一方、「マーケットフレンドリー」であると判明した場合は、反発が続く可能性があります。
10/26前場の香港市場では、ハンセン指数とハンセンテック指数がいずれも続伸しました。中国当局が人民元および金融市場の安定を重視する声明を発表したためです。同声明では、人民元の安定化と、株式市場・債券市場・住宅市場の健全な発展を維持すると表明しました。
足元の相場急落を受け、中国当局が初めて相場支援を「表明」した格好です。それを受け、投資家のセンチメントは少なくとも「極度の悲観」から持ち直すことになりそうです。今後、反発がさらに続くかどうかは、中国当局が具体的な相場および経済策を打ち出すかどうかが注目されます。他方、今回の中国当局の「意思表明」からすると、少なくとも中国当局は人民元や株式市場の動向を注視していると言えます。
中国株「ブラックマンデー」の翌日に反発した際、米国市場で買われた銘柄は、図表3の通りです。
全般的にみると、10/25の上昇率が大きい銘柄は、10/24に大幅に下落した銘柄となっています。いわゆる典型的な「リターンリバーサル」の動きです。たとえば、比較的時価総額が大きい銘柄の場合ですと、新興EV3社のニオ ADR(NIO)・シャオペン ADR(XPEV)・リーオート ADR(LI)やフィンテックを手掛けるワンコネクトフィナンシャルテクノロジー ADR(OCFT)、オンライン教育を手掛けるニューオリエンタルエデュケーションADR(EDU)、旅行予約サイトを運営するトリップドットコム ADR(TCOM)、EC大手のピン多々 ADR(PDD)などです。
10/26前場の香港市場の動きからは、反発が続いた際、「リターンリバーサル」の継続が見られました。したがって、短期的に米国市場の中国株でも似たような動きとなりそうです。ただし、米国上場の中国株はより株価変動が大きくなりやすい点に留意が必要です。
図表3 10/25の反発時に買われた銘柄
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 25日騰落率 | 24日騰落率 |
---|---|---|---|
HXC | ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数 | 4.6% | -14.4% |
OCFT | OneConnect Financial Technol | 21.3% | -18.1% |
NIO | 蔚来汽車[ニオ] | 12.5% | -15.7% |
KC | Kingsoft Cloud Holdings Ltd | 12.0% | -10.0% |
BTBT | Bit Digital Inc | 11.8% | -2.9% |
NEGG | ニューエッグ・コマース | 11.3% | -5.1% |
XPEV | 小鵬汽車 | 10.9% | -11.9% |
EDU | ニュー・オリエンタル・エデュケーション・アンド・テク | 10.0% | -16.0% |
IQ | アイチーイー | 9.5% | -1.0% |
API | Agora Inc | 8.6% | -18.7% |
HOLI | 和利時自動化駆動技術 | 8.4% | -10.4% |
MOMO | 陌陌科技 | 8.3% | -4.4% |
LI | 理想汽車 | 8.3% | -17.4% |
BILI | ビリビリ | 8.1% | -16.8% |
EH | EHang Holdings Ltd | 7.6% | -5.1% |
TCOM | 携程旅行網[トリップドットコムグループ | 7.5% | -15.0% |
LX | LexinFintech Holdings Ltd | 7.3% | -13.2% |
IMAB | I-Mab | 7.0% | -9.2% |
PDD | ピン多多[ピンドゥオドゥオ] | 6.9% | -24.6% |
BEKE | KE Holdings Inc | 6.1% | -16.1% |
WB | 微博 | 5.5% | -12.6% |
YY | JOYY | 5.3% | -10.7% |
ATHM | 汽車之家 | 5.1% | -9.6% |
SOL | レネソーラー | 5.0% | -0.9% |
ZTO | ZTOエクスプレス(ケイマン) | 4.9% | -21.6% |
NIU | Niu Technologies | 4.9% | -14.9% |
UXIN | Uxin Ltd | 4.8% | 0.5% |
KNDI | カンディ・テクノロジーズ・グループ | 4.6% | 0.8% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。