直近発表の四半期決算で業績堅調が目立っていたのは、通信機器セクターでした。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で通信ネットワークへの投資が進められていることが背景と考えられます。株価が大幅高となっているアリスタネットワークのほか、業績堅調な通信機器銘柄をご紹介いたします。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(3/21) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
アリスタ ネットワークス(ANET) | 168.08ドル | 169.17ドル | 89.12ドル |
シスコ システムズ(CSCO) | 50.67ドル | 56.94ドル | 38.61ドル |
モトローラ ソリューションズ(MSI) | 271.66ドル | 275.16ドル | 195.18ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は直近の四半期決算発表で堅調が目立っていた通信機器セクターを取り上げます。
シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクなど地方銀行の破綻で高まった金融不安は金融当局の迅速な対応によって落ち着きを取り戻しつつあります。しかし、このような事態は銀行の融資態度の引き締まりを通じて景気に対してネガティブな要因になると考えられます。株式市場では景気感応度が低いセクターに対する物色が強まりやすいと考えられ、通信機器はその一つとみられます。
〇通信機器セクターの四半期決算は堅調
S&P500指数の通信機器セクター(小分類による5銘柄から成る)企業の業績は、図表2の通り堅調でした。
筆者が決算をチェックしていて気付いたのは、シスコシステムズとアリスタネットワークスの好決算でしたが、改めて同セクターに属する5銘柄をチェックすると、4銘柄が前年同期比増収増益、市場予想との比較では4銘柄が売上・EPSとも予想を上回っており、全体的に堅調です。
業績堅調の背景としては、通信機器の需要がしっかりしている中で、サプライチェーン問題が改善して製品の供給がしやすくなっていることが主因とみられます。
〇株価も堅調
通信機器セクターの業種株価は昨年末来3/21(火)までに9.2%の上昇で、S&P500指数の同4.3%の上昇を上回って堅調です。
個別銘柄の動きを見ると、図表3の通りアリスタネットワークスが大幅に上昇しており、業種指数のアウトパフォームには同社の上昇が寄与しているようです。
その他の銘柄については年初から横ばい圏で、相場全体の動きと比較してあまり大きな動きはありませんが、堅調と言ってよいでしょう。
〇Bloombergアナリストによる通信機器業界の見方
昨年12月6日付とやや古いレポートになりますが、Bloombergの業種アナリスト(シニアアナリストのジン・ホー氏)によるグローバル・データ・ネットワーク機器メーカーに関する見方をご紹介いたします。
それによると、
・通信機器セクターは景気減速を乗り切って、2023年も安定的な利益成長を遂げると見込まれる。
・景気後退に陥った場合には同業界は無傷ではいられないが、コロナ禍を経て通信の戦略的重要性が増したことで、大企業、クラウドサービス提供企業、通信会社の主要分野とも投資需要は堅調。
・サプライチェーン問題の改善を受けて受注から売上へのコンバージョン率が向上して売上見通しを押し上げられる可能性がある。
・製品の需要状況が最も強いのがアリスタネットワークスとノキアで、シスコシステムズ、ジュニパーネットワークス、エクストリームネットワークスは企業からの安定した需要が期待される。
・足もとの業績堅調を反映して業界のPER(株価収益率)は過去平均の水準まで戻しており、PERがさらに拡大するには、2023年下半期も利益成長が継続することを示す必要があろう。
以上の通り、通信機器セクターの足もとの決算は概ね好調、年初来の株価も堅調、業界アナリストによる見通しも比較的良好な業界環境が想定されています。そこで、第2節でアリスタネットワークス、第3節でシスコシステムズとモトローラソリューションズをご紹介いたします。
図表2 通信機器銘柄の直近四半期決算
銘柄名(コード) | 売上 前年同期比 (%) |
売上 前年同期比 (%) |
売上 予想比 (%) |
EPS 予想比 (%) |
---|---|---|---|---|
シスコ システムズ(CSCO) | 6.9 | 4.8 | 1.2 | 2.9 |
F5 インク(FFIV) | 1.9 | -14.5 | 0.1 | 6.1 |
ジュニパーネットワークス(JNPR) | 11.5 | 16.1 | -2.3 | 0.5 |
アリスタ ネットワークス(ANET) | 54.7 | 72.0 | 6.4 | 16.5 |
モトローラ ソリューションズ(MSI) | 16.6 | 26.3 | 6.8 | 4.8 |
注:シスコシステムズは11-1月期、その他は10-12月期決算です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 通信機器銘柄の株価推移
注:最後のデータは3/21(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇アリスタ ネットワークス(ANET)
【通信ネットワークのアップグレードから恩恵】
<会社概要>
2008年に設立された通信機器の会社。
ネットワーク機器向けの独自のOSであるEOS(Extensible Operating System)を擁し、企業、クラウド事業者、大学などにネットワーク機器を販売しています。データセンターのネットワーク機器ではリーダー企業の一つで、データセンターのイーサネットスイッチでは業界2位の市場シェアを獲得しています。
9,000以上の顧客がありますが、2022年12月の売上でマイクロソフトとメタプラットフォームズが10%以上を占める顧客となっています。2022年12月末の売掛金では、28%と16%を占める企業があります(顧客名は開示されていません)。
<業績動向>
データセンターのネットワーク機器では、現在広く普及している100ギガ品から200ギガ品、400ギガ品へのアップグレードが進んでいることを背景に2021年頃から高い売上成長が実現しています。このような高い売上成長が永遠に続くわけではありませんが、Bloombergのコンセンサス予想がある2027年12月期までは5%以上の売上成長が見込まれており、2027年12月期の予想EPSは7.56ドル(2023年12月期の予想EPSは7.56ドル)となっています。
10-12月期の売上は前年同期比55%増で、7-9月期比でも8%増と製品の需要拡大が続いています。サプライチェーン問題が解消に向かっていることも追い風となっているとみられます。2022年12月期は前年比49%の増収を達成しましたが、2023年12月期も前年比25%の増加が見込まれます。
1-3月期の売上ガイダンスは、前年同期比45〜51%増に相当する12.75〜13.25億ドルとし、市場予想の12.1億ドルを大きく上回りました。調整後の粗利率は約60%、調整後営業利益率は約40%を見込んでいます。
図表4 アリスタネットワークスの業績推移
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇シスコ システムズ(CSCO)
【需要堅調の中、サプライチェーン問題が改善】
・ネットワーク通信機器の世界的大手で、柱はネット接続用ルーターとスイッチです。11-1月期決算は売上・EPSとも市場予想を上回り、2-4月期の売上ガイダンスは前年同期比11〜13%増と、同5.8%増の市場予想を軽々と上回りました。底堅い需要がある中、サプライチェーンの問題が改善したことで売上が加速しているとみられます。需要については、景気の影響が懸念されますが、拡大し続ける通信量に対応するために、ネットワーク機器の現代化やアップグレードの需要が強いようです。
・11-1月期の売上は前年同期比7%増、調整後EPSは同5%増と堅調でした。売上の約5割を占める「セキュアー、アジャイルネットワーク」の売上が前年同期比14%増、前四半期の同12%増からも加速して全体をけん引しています。ソフトウェアの売上も同10%増と堅調です。2023年7月期の売上ガイダンスは前年比4.5〜6.5%増から同9〜10.5%増に、調整後EPSは3.51〜3.58ドルから3.73〜3.78ドルに引き上げています。
〇モトローラ ソリューションズ(MSI)
【5Gへの移行がビジネス機会を広げる】
・大手通信機器メーカーで、トランシーバーやデジタル無線機器、通信システムを提供、政府・公共機関向けが柱です。警察、消防などの公共安全機関が使用する無線システムは、音声のみから4G/5Gによるデータ通信も使用するようにアップグレードが進みつつあり、同社には新たな機器やアプリケーションの事業機会になっています。
・10-12月期の売上は前年同期比17%増で、製品およびシステムインテグレーションが同21%増、ソフトウェアおよびサービスが同9%増です。高い伸びとなっているのは、陸上移動無線(Land Mobile Radio)、ビデオセキュリティと同コントロールがけん引しています。1-3月期の売上は前年同期比12〜13%増、2023年12月期は前年比6.0〜6.5%増のガイダンスです。
図表5 シスコシステムズの業績推移
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6 モトローラソリューションズの業績推移
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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