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【エヌビディアの決定版】 エヌビディアのAIを語り尽くす

2023/6/14
投資情報部 榮 聡

今回は生成AI関連の中心的銘柄となっているエヌビディアを取り上げます。今年2月初めに生成AIが注目を集めて以来、エヌビディアについては「外国株式特集レポート」、「SBIグローバルウォッチ」「アメリカNOW!今週の5銘柄」などで何度も取り上げてきましたが、それらを総合して、いまお伝えしておくべき内容をまとめました。

図表1 言及した銘柄

銘柄 株価(6/13) 52週高値 52週安値
エヌビディア(NVDA) 410.22ドル 419.38ドル 108.13ドル
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) 124.53ドル 132.83ドル 54.57ドル
マイクロソフト(MSFT) 334.29ドル 338.56ドル 213.43ドル
  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

1 生成AI向けにGPU需要が急増するエヌビディア

今回は生成AI関連の中心的銘柄として、現在の米国市場で最も注目されている銘柄と考えられるエヌビディアを取り上げます。

今年2月初めに「ChatGPT」を契機に生成AIが注目を集めて以来、エヌビディアについては「外国株式特集レポート」「アメリカNOW!今週の5銘柄」「SBIグローバルウォッチ」などで何度も取り上げてきましたが、それらを総合して、いまお伝えしておくべき内容をまとめました。

〇AI相場を加速したエヌビディアの2-4月期決算発表

エヌビディアの2-4月期決算発表は、市場のAI物色を一気に加速しました。2-4月期業績は売上が前年同期比13%減、調整後EPSが同20%減となったものの、それぞれ市場予想を10%、19%上回りました。さらに、5-7月期の売上ガイダンスは110億ドルと市場予想の71.8億ドルを5割以上上回る驚異的な売上増の見込みです。

生成AI向けのGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)需要でデータセンター売上が急増していることが主因で、「ChatGPT」の出現で生成AIに注目が集まり、企業がAIを自身の事業に取り込むために非常に熱心に動いている結果と考えられます。

フアンCEOは、「1兆ドルに上る世界のデータセンターインフラは、企業が生成AIをあらゆる製品、サービス、事業プロセスに応用する中で、(CPUによる)汎用コンピューティングから(GPUを使った)加速コンピューティングに移行するであろう。」とし、急増する需要に対応するため、データセンター向け製品群の生産を大幅に増やしているとコメントしました。

〇アナリストの業績予想は大幅上方修正

アナリストはエヌビディアの決算発表を受けて、主要部門の四半期売上について図表2のような業績予想を行っています。データセンター売上に関しては、2-4月期実績の43億ドルから5-7月期に77億ドルに急増した後も、前四半期比で増加が続く予想となっています。

生成AI向けにデザインされたAIコンピューティングチップで、1個4万ドルの「H100」がIT企業による取り合いになっていたと伝えられています。イーロン・マスク氏が最近設立したX.aiがを数千個購入したほか、米国のテクノロジー大手各社は数万個の購入意向と伝えられています。

5-7月期の売上には仮需が入っている可能性があるとみられ、短期的な売上は、まだ上にも下にもぶれる可能性がありそうです。しかし、生成AIの普及を背景に中期的にデータセンター向けの売上が拡大することは間違いのないことと考えられます。これを反映して図表3のように、高い業績成長が見込まれています。

2027年1月期の売上は2024年1月期の1.8倍、EPSは同じく1.9倍に拡大する見通しです。アナリストの目標株価平均値は6/13(火)時点で452ドルまで引き上げられています。2024年1月期基準の予想PERは59.0倍と高いものの、2027年1月期基準では31.0倍まで低下する計算です。

〇高い業績成長が期待される背景

エヌビディアの業績が中長期で高い成長が期待される背景には、(1)AIの計算に同社が主力とする半導体のGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)が必須であり、かつ、(2)GPUを生産している企業が世界に2社しかない、という産業構造があります。

これをイメージ図で示したのが図表4になります。AI技術について、サプライヤーからユーザー(最終顧客)へのサプライチェーンを考えた場合、AI技術のサプライヤー(AIモデルの提供企業)、AI技術を利用する事業者(最終顧客にAI技術を提供する事業者)は今後多数に増えると見られます。

一方、AIモデルを「トレーニング」するAI計算では、これに使えるコンピュータ(GPUチップ)を提供できる企業がエヌビディアとAMDしかなく、当面これが増える見込みもなく、AIサプライチェーンのボトルネックになっています。

さらに、2社しかない中でAI計算に使われるGPUでは、エヌビディアとAMDには大差がついているとみられています。このため、上記のようにエヌビディアが中長期にわたって高い業績成長を遂げると予想されています。

一方で、サプライチェーン上の他の参加者にとっては、AI計算がボトルネックとなっていて、さらにエヌビディアがそれを支配しているというのは、懸念すべき状況です。AI技術の提供で生み出される付加価値がボトルネックとなっている企業に集中してしまう可能性があるためです。

このような懸念を持っているがために、マイクロソフトはAMDをAI計算への進出で支援するといった動きが出てきます。少なくともエヌビディアの競合企業を育てることによって、ボトルネックの程度を解消することで、サプライチェーンの他の部分に落ちる付加価値を増やそうとしているわけです。この点については、これから熱い闘いが繰り広げられそうです。

図表2 エヌビディアの主要部門売上予想

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

図表3 エヌビディアの業績見通し(コンセンサス予想)

決算期 売上高
(億ドル)
  前年比 純利益
(億ドル)  
前年比 EPS
(ドル)
23.1 270 0% 61 -37% 2.44
24.1予 430 59% 190 210% 7.66
25.1予 546 27% 245 29% 9.98
26.1予 644 18% 283 16% 11.60
27.1予 792 23% 368 30% 14.53

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

図表4 AI技術のサプライチェーン(イメージ図)

※各種報道をもとにSBI証券が作成

2 GPUがAIに必須となったわけ

AI計算にGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)が必須となった経緯をご説明いたします。

〇AI計算とGPUの関係

AIの研究者がニューラルネットワーク(人工知能の一種)の計算処理を行うのにCPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)では負荷が高過ぎて難しかったものが、GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)を使うと効率的に計算できることを「発見」して、GPUとAIの間に関係ができました。これが2012年のことと言われています。

当初エヌビディアもGPUがAIの計算に使えるとは考えておらず、GPUがAI計算に使えるかもしれないとAI研究者に教えてもらったそうです。GPUが使える分野を画像処理以外に広げようとしていたエヌビディアにとっては非常に貴重な情報となり、AI計算にGPUを利用する方向で研究を進めることができました。

〇CPUとGPUの違い

CPUは「逐次処理」に最適化された数個のコア(計算処理の単位)から成りますが、GPUは複数のタスクに同時に対応できるよう設計された何千もの小さいコアで構成されているため「並列処理」が得意です。

これは画像を動かすためには同時に数多くの図の頂点の位置を計算する必要があるためにこのような構造になったものですが、これがAI計算を処理するのに合っていました。

このことから、AI計算にはGPUが必要で、たとえCPUの性能が向上したとしても代替できず、別の市場が確立されていることがお分かりいただけるでしょう。

〇GPUの製造業企業は世界でも限られる

GPUを製造している企業は、世界でエヌビディア、AMD、インテルに限られます。

エヌビディアはGPU中心で、AMDはCPUではインテルと競合し、GPUではエヌビディアと競合しています。インテルはCPUが中心で、GPUも手掛けますが、CPUの一部にGPUを組み込んだものが主で、通常GPU市場のプレーヤーとはみなされません。

ネットに公開されている情報(「HARDWARETIMES」の記事)によると、2022年7-9月期のPC向けGPUのシェアは、エヌビディアが72%、インテルが16%、AMDが12%となっています。これはAI計算に使われるGPUのシェアではありませんが、GPU市場での各社の力関係がうかがえ、エヌビディアが非常に強いことがわかります。

図表5 CPUとGPUの構造の違い(イメージ図)

※各種資料をもとにSBI証券が作成

3エヌビディアがAI計算を支配するようになった背景

AI計算に用いられるGPUコンピュータにおいて、エヌビディアは少なくとも80%以上、おそらく90%以上の市場シェアを保有していると推定されています。このような状態に至った背景をご説明いたします。

〇エヌビディアの僥倖

エヌビディアがAI計算を支配するようになったのは、専ら画像処理に使われていたGPUの利用範囲を広げようとして、科学計算への応用を推進していたことが背景になります。

GPUはCPUの指示を受けて画像処理を行う「受動部品」でしたが、GPUが中心となって計算を行うためには専用のソフトウェアが必要なため、これをソフトウェア群「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)として2006年に発表し、大学での講座を設けるなどして地道に普及に努めていました。

これが2012年にGPUがAI計算に使えるかもしれないとわかったときに役立つこととなりました。科学計算というさほど大きいと思えない市場向けに地道な努力を行っていたことが花開いたとも言えますし、僥倖、つまり、偶然によるラッキーとも言えるでしょう。

いずれにしてもAI計算にGPUが使われていると広く世の中で認識された2016年の時点で、エヌビディアはGPUをAI計算に使うにあたり、10年間近くのリードを確保できることとなりました。

〇AI計算への投資でリードを拡大

エヌビディアは上記のように僥倖に恵まれましたが、2016年以降にはAI計算向けの市場拡大に向けて大規模な研究開発投資を行って、この分野でのリードを拡大していきました。

エヌビディアのデータセンター向け売上は同社の成長をけん引して、2023年1月期には50%を超えるまでになっています(図表6)。2020年4月に買収したデータセンターネットワークのメラノックスも構成比上昇に寄与していますが、AI計算が成長をけん引してきたとみられます。

〇生成AIの「トランスフォーマー」への対応

生成AIに進歩につながった「トランスフォーマー」が2017年に出現したときには、エヌビディアはAI研究者との関係の深さを背景にその重要性に気が付くことができ、ソフトウェアのチューニングをいち早く始めることができたとされます。その成果が今回5-7月期の売上急増見込につながったとみられます。

「トランスフォーマー」はOpenAIのGPT(generative pre-trained transformer)のtransformerで、「自然言語処理」分野のAIに使われる「深層学習モデル」です。「トランスフォーマー」の出現が「ChatGPT」のような大規模言語モデルが高い性能を発揮することができるようになった画期と言われています。

〇AMDのAI計算における動き

AMDもGPUがAI計算に使えることが判明して2010年代後半には開発を始めたと考えられますが、これまでにエヌビディアが築いた参入障壁は大きいと考えられ、当面エヌビディアの優位は揺るがないと考えられます。

AMDもデータセンターでのAI計算を処理するための製品(「AMD Instinct」シリーズ)を投入していますが、売上規模は公表されていません。

AMDの2022年12月期のセグメント情報では、データセンター向けの売上が60.4億ドル、売上構成比は26%です。このうち、中心となるのはサーバー向けCPUの「EPYC」とみられ、このほかにも、FPGAs、アダプティブSoCs、DPUsなどの売上が計上されており、最後にAI計算に用いられているとみられる「データセンターGPU」があげられています。

このため、AI計算に使われるGPU製品の売上は、おそらく10億ドルには達していないとみられます。2023年1月に150億ドルを売り上げたエヌビディアとは大差がついていると考えられます。

同社は6/13(火)に「ChatGPT」のような大規模言語モデルを扱うことができる、メモリー容量を増やした「AMD Instinct MI300X」を発表しましたが、株式市場の反応からは競合状況を大きく変えるようなものとは考えられていないようです。

ファイナンシャルタイムズの5/27(土)記事で、AI分野への投資を専門に行うAir Street Capital社のNathan Benaich氏は「エヌビディアは競合企業に対して2年のリードをもっていると推定する」とコメントしています。

図表6 エヌビディアのデータセンター売上

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

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