ナスダック100指数は過度な集中に対処するため、7/24から「特別リバランス」を実施することとなりました。今回は、その「特別リバランス」の中身と発表後の相場動向を踏まえたうえで、「特別リバランス」の影響を確認してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(7/3) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
マイクロソフト(MSFT) | 359.49米ドル | 351.47米ドル | 213.43米ドル |
アップル(AAPL) | 193.73米ドル | 194.48米ドル | 124.17米ドル |
エヌビディア(NVDA) | 474.94米ドル | 480.88米ドル | 108.13米ドル |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 132.83米ドル | 146.57米ドル | 81.43米ドル |
テスラ(TSLA) | 293.34米ドル | 314.67米ドル | 101.81米ドル |
メタ プラットフォームズ A(META) | 312.05米ドル | 316.24米ドル | 88.09米ドル |
アルファベット A(GOOGL) | 123.76米ドル | 129.04米ドル | 83.34米ドル |
ブロードコム(AVGO) | 903.43米ドル | 921.78米ドル | 415.07米ドル |
アドビ(ADBE) | 532.23米ドル | 523.79米ドル | 274.73米ドル |
インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ) | 385.74米ドル | 383.50米ドル | 254.26米ドル |
iシェアーズ ラッセル 2000 ETF(IWM) | 195.97米ドル | 201.99米ドル | 162.50米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ナスダック社は7/7(米現地時間、以下同様)に、ナスダック100指数の「特別リバランス」を発表し、市場で注目を集めました。相場の上昇をけん引してきた大型ハイテク株の影響力を縮小する(指数におけるウェイトを引き下げる)ためと報じられたためです。
今回はその「特別リバランス」の中身と、発表後の相場動向を踏まえたうえで、特別リバランスの影響を確認してみたいと思います。
まず、今回の「特別リバランス」について、Q&A方式でポイントを整理してみたいと思います。
Q:「特別リバランス」とは?
A:ナスダック社が公表している「ナスダック100指数の方法論」では、「特別リバランスは指数の完全性を維持するために必要であると判断される場合、指数のリバランス手続きに記載されたウェイトの制限に基づいていつでも実施することができる。」と記載しています。
つまり、「特別リバランス」は定期のリバランスとは異なり、ウェイトの制限に基づく特別な調整と言えます。
Q:なぜ今、「特別リバランス」?
A:ナスダック社は7/7の発表資料で、指数内の過度な集中に対処するためにウェイトを再分配する(個別銘柄の削除または追加はない)と説明しました。
「過度な集中」とは、平易にいうと一部銘柄がナスダック100指数の構成銘柄に設けられたウェイトの制限(上限)を突破したことを意味します。背景には、年初から大型ハイテク株の上昇が突出して、指数におけるウェイトも高まったためです。
たとえば、ナスダック100指数に連動するインベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ)の組み入れ比率(7/18)を確認してみると、「マグニフィセント・セブン」(壮大な7銘柄、※)と呼ばれている大型ハイテク株の合計比率は指数の半分を超えています。(※壮大な7銘柄:マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アマゾン、テスラ、メタ プラットフォームズ、アルファベット。アルファベットの場合は議決権が異なるGOOGLとGOOGがあります。)
図表2 インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ)の組み入れ比率(7/18時点)

※BloombergデータによりSBI証券が作成
Q:ウェイトの制限は?
A:ウェイトの制限について「ナスダック100指数の方法論」では、四半期ベースと年次ベースのリバランスの際の基準がそれぞれあります。たとえば、四半期ベースの見直しの場合は、個別銘柄のウェイトが4.5%を超える銘柄の合計ウェイトは40%に設定される(つまり40%を超えてはならない)とあり、年次ベースの見直しの場合は、上位5銘柄の合計ウェイトは38.5%に設定されると記しています。
ただ、Bloomberg 通信は「詳細情報は乏しいが、文書によると、一つのシナリオでは指数構成比率が4.5%以上を占める大型株の影響力が合計で48%を超えた場合、ウェイトを減らすことができる。」と報じています。今回の「特別リバランス」はどちらの基準が適用されるかは必ずしも明確ではありません。ただ、はっきりしているのは、上位構成銘柄の比率が下がるということです。
Q:具体的にどう変わる?
A:ナスダック社の広報担当者によれば、7/3を基準日として、7/14時点のプロフォーマ・データ(仮のデータ)を使用した場合、7大構成銘柄の合計比率は55.1%から43.7%に低下する見通し、とのことです。
Bloomberg報道によると、プロフォーマ・データとその直前のウエイトを比較する際、マイクロソフト(MSFT)とエヌビディア(NVDA)の減少幅が最も大きく、それぞれ約3%ポイント低下し、9.8%と4.3%になる見通しです。アップル(AAPL)は1%ポイント低下し11.5%となり、構成比率で首位に返り咲く見通しです。
「マグニフィセント・セブン」のウェイトが引き下げられた分、ウェイトが小幅ながら引き上げられる銘柄は、ブロードコム(AVGO)やペプシコ(PEP)、コストコ ホールセール(COST)、アドビ(ADBE)などになる見通しとのことです。
なお、プロファーマ・データはあくまで”仮のデータ”であり、その後株価も動いているため、実際の新しいウェイトはプロファーマ・データと相違が生じる可能性があります。
Q:いつから変わる?
A:ナスダック社は7/7に「特別リバランス」を発表した際、リバランスは7/24の取引開始前に実施すると発表しました。したがって、7/24から変わることになります。
ナスダック社がナスダック100指数の「特別リバランス」を発表した翌日(7/10)に、「マグニフィセント・セブン」の時価総額は縮小しました(図表3)。しかしながら、その後は上昇基調を取り戻しています。
図表3 「マグニフィシェント・セブン」の時価総額の推移(年初来)

※BloombergデータによりSBI証券が作成
個別銘柄の騰落率を確認してみると、7/10は「マグニフィセント・セブン」がこぞって下落しましたが、その後7/18までは上昇しました。米国のインフレ低下や底堅い経済指標、先陣を切った主力企業の決算が堅調だったという地合いの良さに加え、個別銘柄の好材料も株高を支えています。したがって、今のところ「特別リバランス」の影響は限定的と言えそうです。
図表4 「マグニフィセント・セブン」とそれ以外のナスダック100指数の主な構成銘柄の騰落率
銘柄名 | 7/10の騰落率 | 7/10-7/18の騰落率 |
---|---|---|
マイクロソフト(MSFT) | -1.6% | 6.6% |
アップル(AAPL) | -1.1% | 1.6% |
エヌビディア(NVDA) | -0.8% | 11.7% |
アマゾン ドットコム(AMZN) | -2.0% | 2.4% |
テスラ(TSLA) | -1.8% | 6.9% |
メタ プラットフォームズ A(META) | 1.2% | 7.4% |
アルファベット A(GOOGL) | -2.5% | 3.6% |
銘柄名 | 7/10の騰落率 | 7/10-7/18の騰落率 |
ブロードコム(AVGO) | 3.7% | 6.7% |
ペプシコ(PEP) | 0.7% | 0.7% |
コストコ ホールセール(COST) | 0.4% | 5.4% |
アドビ(ADBE) | 2.3% | 9.7% |
シスコ システムズ(CSCO) | 0.4% | 5.4% |
ネットフリックス(NFLX) | 0.8% | 8.4% |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 0.4% | 4.2% |
※BloombergデータによりSBI証券が作成
ただし、7/24からリバランスが本格的に実施されるため、「マグニフィセント・セブン」のウェイト低下に合わせた”受動的な売却”は生じると想定されます。特にナスダック100指数と連動するインベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ)は巨大ETFであり、リバランスに伴う売買は活発化するとみられます。
「マグニフィセント・セブン」を”受動的に売買”することによって得た資金は、ナスダック100指数でウェイトが上昇する銘柄に振り向けられるほか、他の銘柄にも資金が向けられる可能性があります。
ナスダック100指数の「特別リバランス」の発表を受け、均等配分型のナスダック100指数ETFに資金流入が急増していると報じられています。また、「特別リバランス」が発表された後、小型株指数であるラッセル2000指数のパフォーマンスがナスダック100指数をやや上回りました(図表5)。
図表5 主要株価指数の推移(2023年6月末=100として指数化

※BloombergデータによりSBI証券が作成
米国のインフレ低下や底堅い経済指標を受け、米リセッションに対する懸念が「ハード・ランディング」より「ソフトランディング」のシナリオに傾くなか、先陣を切った主力企業の決算が堅調だったことと相まって、ナスダック100指数の「特別リバランス」は短期的に、「買いのすそ野」を広げるきっかけになっているかもしれません。
なお、中長期的にみた場合、株価に影響を与えるものは、指数における比率よりも、企業のファンダメンタルズ(財務状況や業績など)となります。たとえば、前回2011年の「特別リバランス」ではアップル(AAPL)のナスダック100指数におけるウェイトが20.5%から12.3%に引き下げられましたが、アップルの株価への影響は限定的でした。したがって、リバランスによる短期的な株価変動は、中長期的なトレンドを変えることはないと考えられます。
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